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『モルグ 屍体消失』死が我々に忍び寄っているのか。我々が自ら死に近づいているのか。

この映画は、つまり―
  • 死んでいた映画が、約30年ぶりに蘇る
  • インモラルな要素を含みつつも、ひんやりと美しい画の北欧ホラー
  • 興味はあるが絶対にやりたくない恐怖のアルバイト

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◆配信中の注目作

『モルグ 屍体消失』

配信先:U-NEXTAmazonプライムhulu

 

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

屍体が蘇る。そんなことはゾンビ映画の中でしか起こらない? いやいや、それは時に「映画」そのものに対して起こるのだ。DVDレンタルという商売が死に瀕してしまってからしばらく経つが、まだ街にいくつもレンタルショップがあった頃にも、すでに屍体同様の映画はあった。さらに前の時代にVHS化はされていたが、DVD化はされないままだった作品たちだ。当時劇場公開はされていたとしても、後の時代のほとんどの人には存在すら気づかれない。ところが、時たまデジタルリマスター公開などの機会が与えられ“復活”するのだ。数年前に思い出したように公開された『ザ・バニシング 消失』『アングスト 不安』『クリーン、シェーブン』などが記憶に新しい。そして、長らくDVD化されていなかった1994年製作の幻の北欧ホラー『モルグ 屍体消失』も、今年1月に約30年ぶりに劇場でかけられ、今では配信でも見られるようになった(このような作品ばかりを配信してくれるサービスがあれば即入会するのだが)。

『モルグ』はデンマーク映画で、後に『ゲーム・オブ・スローンズ(GOT)』の味わい深いジェイミー・ラニスター役で広く知られることになるニコライ・コスター=ワルドーの長編デビュー作だ。コスター=ワルドーはこの時、何となくユアン・マクレガーを思わせる爽やかな青年だが、奇しくも本作は1997年に監督オーレ・ボールネダルの手によって、マクレガー主演で『ナイトウォッチ』としてハリウッド映画にセルフリメイクされる(ちなみに『GOT』には「ナイツウォッチ」という集団が登場する)。リメイク版と同じく、『モルグ』も原題は「夜警」を意味するデンマーク語だ。コスター=ワルドー演じる主人公の法科学生マーティンは、遺体安置所(モルグ)で夜間の巡回警備を行うアルバイトを始める。自分以外は屍体だけ、何も起こらない楽な仕事のはずだった。しかしそこに世間を騒がせている皮膚剥ぎの娼婦連続殺人鬼や、屍体とシタイ禁断の欲望に狂ってクビになったネクロマンティックな過去の夜警の話が絡み合い、物語はおぞましく展開していく。

本作は、ネット上でも多くの人々の興味を引く、レアなアルバイトを描いている。屍体を洗うアルバイト、なんて都市伝説的なものも聞いたことがあるが、マーティンが行うのはモルグの各部屋を見回っていくというシンプルな内容だ。部屋には鍵が置いてあり、携帯している装置に鍵を入れて回すとチェック完了となる。鬼門はやはり安置室、よりによって丑三つ時に屍体が並ぶその部屋を訪れなければならない。しかも中には使う者のいないはずのベルが設置されており、今にも鳴り出しそうな気配を漂わせている。安易なジャンプスケアはなく、モルグはJホラー的な嫌な雰囲気に満ちている。だが、本作に登場するのは足のない幽霊ではない。白い布からタグ付けされた青白い爪先をのぞかせている屍体だけだ。彼らが夜な夜な歩き出すのか? エドガー・アラン・ポーの『早すぎた埋葬』よろしく、実はまだ死んでいなかった屍体がベルを鳴らすのか(そう言えば『モルグ街の殺人』もポーの著作だった)? それとも、マーティンが正気を失うのが先か?

単なるホラーと思いきや、マーティンと悪友イェンス、そしてそれぞれの恋人との関係もかなりの尺を割いて描かれる。特にイェンスは非常に胡散臭く、マーティンともども倫理観を疑うような行動に出たりして展開を読めなくさせる。演じるキム・ボドゥニアは『ブルース・ブラザーズ』のジョン・ベルーシに似ているので、余計に予測不能だ(ボドゥニアは『F1/エフワン』にも出演)。あらすじの端々に、ホラーとは言えあまりにもインモラルな単語が並ぶのでとんでもなくマニア向けの作品かと思われそうだが、実際見てみると直接的なグロシーンや猟奇シーンはほとんどない。画は冷たいながらも綺麗で、むしろ青春映画的なコミカルなシーンまであるほど。ホンモノの屍体はごめんだが、このような“掘り出し物”ならば大歓迎。今後もたくさん蘇らせてほしいものだ。本作は2023年に、ボールネダル監督によってコスター=ワルドーとボドゥニアが同役で再登場する続編『Nightwatch: Demons Are Forever(英題)』も作られており、同作の公開も期待したい。

【ストーリー】
法科学生のマーティンは、病院の遺体安置所(=モルグ)で夜警のアルバイトを始めるが、前任の夜警からそこが曰く付きの場所であることを聞き、また死体が並ぶ安置所の異様な雰囲気に冷たい恐怖を覚える。一方その頃、娼婦を狙った連続猟奇殺人事件が世間を騒がせており、マーティンの働く病院にも皮膚を剥ぎ取られたおぞましい被害者の死体が運び込まれてくる。その日を境に彼の周りで不可解な出来事が起こるようになり、マーティンはさらなる妄執に取りつかれていく。ある日、遺体安置所の死体が不自然に動かされている痕跡が見つかり、事件を捜査するウォーマー警部は、状況証拠からマーティンに死姦・妄想狂の疑惑の目を向けるようになる……。

【キャスト】
ニコライ・コスター=ワルドー、ソフィー・グローベール、キム・ボドゥニア、ロッテ・アンデルセン 他

【スタッフ】
監督・脚本:オーレ・ボールネダル

 

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