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『哭戦 オペレーション・アンデッド』殺しても殺しきれない。死んでも死にきれない。

この映画は、つまり―
  • 戦争×ゾンビ×青春映画
  • あくまで、シリアス戦争映画でなくケレン味たっぷりB級ホラー
  • タイ映画のフットワークの軽さ

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『哭戦 オペレーション・アンデッド』

配信先:U-NEXTAmazonプライムApple TV

 

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

改めて、B級ホラーというジャンルの懐の広さを思い知った。それほどに、本作『哭戦 オペレーション・アンデッド』は奇妙な映画だった。第二次世界大戦を舞台に、日本軍がタイの人々を踏みにじるストーリーなので時期的にセンシティブな気もするが、その前に本作はゾンビ映画だ。ゾンビ映画として普遍的な流れは押さえつつ、普通のゾンビ映画にはない設定を盛り込んで圧倒的な個性を獲得している。

本作の主人公は少年兵だ。それだけ聞けばもう分かるだろう。少年の視点で語られる戦争映画には『西部戦線異状なし』や『橋』、『炎628』などがあるが、いずれも観客を押し潰さんばかりの悲壮感にまみれている。本作では、タイに上陸した日本軍の生物兵器が解き放たれてしまい、兵として駆り出されながらも戦いから逃げてしまう少年モークが襲われる。この生物兵器がゾンビ(劇中の呼称にならうなら“不滅”)でありモークも“不滅”化してしまうのだが、何と生前の記憶も意思も完全には失っていない状態を保っている。ただし増大してしまった凶暴性はコントロールが困難で、時に食欲に任せて同胞をも襲ってしまう。モークは、ともに“不滅”となった友人の少年兵らと、日本軍ではなくタイ人を殺害してしまい、罪の意識にとらわれる。本作において慟“哭”するのは、まずは彼ら“不滅”たちなのだ。

消息不明となったモークを探すのは、兄で伍長のメーク。恋人の妊娠という幸せの絶頂から地獄に叩き落される彼とモークが物語の中心となる。タイ人と日本軍との戦闘よりタイ人と“不滅”の戦闘の方が印象的なので、やはり話の展開は重苦しい……のだが、最初に言った通り本作はB級ホラーである。ゾンビ映画としての目新しさやインパクトの方を重視している感じで、一概にシリアスな戦争映画とは言えないほどにケレン味たっぷりなゴア描写も炸裂。先述の戦争映画のような作品を求めると痛い目を見るだろう。しかし、モークたちの子どもらしいひどく脳天気な場面から物語が始まるように、本作はホラー要素だけでなくコミカルな青春映画要素も備えている。そしてそれが巡り巡って、やはり悲壮感をひと匙加えるのだ。

序盤の軽すぎるノリから、普通ならば物語内で死ぬことはないキャラクターが死ぬ重い展開もあり、振れ幅が非常に大きい。これがタイ映画の味なのか。考えてみれば、ゾンビが引き起こす暴力の連鎖や、仲間通しでのいがみ合いなどは確かに戦争に通ずるものがある……ような気がしないでもない。よくできているというよりは勢いで突っ走っているタイプだが、このヘンテコなバランスは一見の価値がある。意外に考えされられる映画となるかもしれない。何度もいうが、ホラー耐性のある方ならば。

【ストーリー】
1941年、第二次世界大戦中。戦火は世界各地に広がり、中立国であるタイ南部・湾岸の村でも、有事に備え少年までもが兵士として訓練を受けていた。そんな状況下だったが、伍長のメークは恋人ペンとの間に子供を授かり、束の間の幸せを噛み締めていた。しかし、多数の戦艦を率いて日本軍が村に上陸して来てから、事態は一変する。メークの弟でまだ幼いモークをはじめ、少年兵たちが日本軍との戦いに駆り出される。タイ政府は日本政府と友好的に交渉をしようと試みるが、一方で日本軍は“ある生物兵器”をタイに持ち込んでいた。それは、禁断の実験によって生み出された、殺しても立ち上がる“不滅の兵”だった――。

【キャスト】
ノンクン、アワット・ラタナピンター 他

【スタッフ】
監督:コム・コンキアート・コムシリ

 

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