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『コンパニオン』運命を、“愛”を超えろ。真の“わたし(I)”になるために。

この映画は、つまり―
  • “サイテー親子”イヤーにして、新たなるホラークイーン誕生の年
  • ツイストに次ぐツイスト
  • 人間とロボット、愛とプログラムの境界線は?

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◆配信中の注目作

『コンパニオン』

配信先:U-NEXTApple TVPrime Video

 

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

まだ半分も過ぎていないタイミングながら今年公開されたホラー・スリラー映画を振り返ると、MVP女優候補として『サブスタンス』のデミ・ムーアやマーガレット・クアリーは外せない。ではMVP俳優は、と考えた時思い浮かぶのは、筆者の場合はやはり『サブスタンス』でサイテーおじさんを最高に最悪に演じたデニス・クエイドと、本作『コンパニオン』に出演しているジャック・クエイドだ。ジャックは『ザ・ボーイズ』でのへなちょこキュートなイメージが強いが、本作ではデニスにも負けないサイテー男を演じている(へなちょこではある)。6月に公開される『Mr. ノボカイン』では従来のイメージ通りで活躍してくれる予感がするが、とにかく今年はクエイド・イヤーと言っても過言ではなさそうだ。

……いや、忘れてはいけない人物がもうひとりいる。本作で主演を務めたソフィー・サッチャーだ! 彼女はA24製作ホラー『異端者の家』でも作品を象徴するようなキャラクターを演じていた。役の大きさはまだ分からないものの、6月公開の話題作『MaXXXine マキシーン』にも出演しており、評価の高いホラー3本に出演したことで今年は彼女の飛躍の年になるのは間違いないだろう。本作での演技も凄まじく印象的だった。ストーリーのツイストが面白い映画なので具体的にネタバレしないように紹介しよう。ちなみに、予測不能なストーリーでホラーファンの間で話題になった『バーバリアン』を監督したザック・クレガーが製作に名を連ねている。

ソフィー演じるアイリスと、ジャック演じるジョシュは恋人同士。仲睦まじいふたりは友人を訪ねるために山小屋(というには豪華すぎるが)に向かうも、ホラー映画において山小屋は絶対に惨劇が起こる場所だ。案の定死人が出て、アイリスとジョシュは危険から身を守ろうとする……のだが。これはネタバレではなく設定なので言ってしまおう、アイリスはロボットだ。タイトルやポスターからも察せられるように、人間と見紛うほどの感情表現ができる非常に精巧な恋人ロボットだったのだ。つまり本作は実はSFホラーであり、劇中の世界ではこの夢のようなロボットはすでに珍しくないらしく、欲望のはけ口や支配の対象となってしまっている。そしてそれは、残念ながらアイリスも例外ではなかった。

鳥の雛が生まれて初めて見た対象を親と認識するように、ジョシュに対する“愛”を刷り込まれたAIを持つアイリス。彼女は最初自分がロボットであることも、その盲目的な“愛”がプログラムに過ぎないことも知らなかったが、事件によって目(アイ)から鱗が落ちる。ジョシュがろくでなしと知ってからは、彼女は自力で事態を打開するために動き始める。アイリスのキャラクターは、我々が普段絶対的に善きものとして扱っている愛と機械的なプログラムの間には曖昧な差しかないと突きつけてくる。現実世界の、恋人に依存的な人間の存在も連想させるが、アイリスは文字通りユニークな方法で自分自身をエンパワメントしていく。

 

ロボットに課せられた制約から解き放たれていくアイリスは、もはやロボットとは呼べないのではないか。愛はよく運命的と言われるが、運命のレールから外れたがるのが人間だ。では、“愛”から解き放たれていくアイリスこそ真に人間的ではないのか。それとも、それ以上の何かか。アイリスという名前は虹の女神イリスに由来し、虹のごとく多彩な色に咲き誇る「アイリス(アヤメ)の花」と、何色にもカスタマイズ可能な彼女の「虹彩」の意味を持つ。何にもとらわれないアイリスは、どのような人生だって歩めるのだ。一連の事件が一件落着したとしても、ここでアイリス・アウト、なんて言わせない。

【ストーリー】
人里離れた山小屋で静かな週末を過ごすはずだった4人の男女。だが、その中のひとりが“人間”ではなかったと明かされた瞬間、空気は一変する。彼女は人間のために作られた従順なアンドロイドだったのだ。しかし、ある過去の記憶と感情に支配され、彼女の“プログラム”は暴走を始める。

【キャスト】
ソフィー・サッチャー、ジャック・クエイド、ルーカス・ゲイジ、ミーガン・スリ、ハーヴィー・ギレン 他

【スタッフ】
監督・脚本:ドリュー・ハンコック
製作:ザック・クレガー

公式サイト

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