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『ザ・ヒューマンズ』たわいもない家族の団欒。“他愛”もない人間たちの寄せ集め。

この映画は、つまり―
  • A24製作の家族ドラマ……いや、ホラー?
  • 原作はトニー賞に輝いた戯曲
  • これは、一体全体何が言いたい映画なのか?

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『ザ・ヒューマンズ』

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文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

さて、困った。これまたどうしようもなくヘンな映画に出会ってしまった。A24製作と聞いて、「なるほど、だからか」と納得はすれど、だからといって映画の正体が立ち所に理解できるわけではない。まずは、表面的な話から始めるのが良さそうだ。劇中に登場するブレイク一家のように。

本作の舞台となるのは、ニューヨークにある狭い狭い、古い古いアパート。一家の次女であるブリジッドと交際相手のリッチが引っ越してきたその新居に祖母・両親・姉を招き、サンクスギビングのディナーが行われる。言ってしまえば、本当にそれだけの映画だ。カメラはほとんど部屋を出ず、ドラマチックな演出もなく、劇伴もかからず、登場人物は6名のみ。普通の家族のとりとめもない団欒を、部屋の隅からずっと撮り続けているような映画なのだ。限定された場所での会話劇という部分が舞台の芝居を思わせるが、まさにその通り、原作は2016年に最高の演劇・ミュージカルに贈られるトニー賞を受賞した同名戯曲。原作者であるスティーヴン・カラムが本作の監督も務めており、ブリジッドの母ディアドラを演じているジェイン・ハウディシェルは唯一のオリジナルキャストだ。

あまりにも地味な映画なのではないかと思われただろう。確かに全く派手ではないしエンタメ的でもない……が、本作は家族ドラマ映画としては全く普通ではない。なぜなら、本作が纏う雰囲気はどう考えてもホラーだからだ。別に、家族の誰かが実は殺人鬼だったり、ポルターガイスト現象で食器が宙に舞ったりはしない。血の一滴すら映らない。しかし、明かりが消えたり、ラップ音がしたり、窓ガラスの向こうに何者かの影が霞んで見えるなど、とにかく不穏なムードの醸成に余念がなく、観客に次の瞬間には心臓を止めるショックシーンが訪れるかもしれない、という嫌な予感を最後まで抱かせ続ける。実際はそういう分かりやすい映画ではないのだが。

困惑しながら鑑賞しているうちに分かってくるのは、一家の面々は家族に打ち明けにくい

悩みを抱えながら、表面的な会話で場を取り繕っていた、ということ。「家族が一番大切だ」なんていかにもドラマのようなセリフの応酬がどこか上滑りしているように感じられたのは、これが原因だったのだ。家族など名ばかり、利他的でなく利己的な人間(ヒューマン)たちの集まりでしかない、そんな暗い家族観を感じさせる。ただ、人間に対しての諦めよりも、家族という他人を気にしている余裕がなくなってしまう世の中の世知辛さ、生活の不安定さにフォーカスしている印象で、彼らの“ホーム”への不安が“ハウス”を軋ませているように見えてくる。

 

方向性が明確なメッセージが提示されないので、本作は本当に人によって見え方が違う作品だろう。映画なのに舞台劇のような不思議な構図のラストシーンが示すのは、果たして絶望か希望か。ひとつ言えるとしたら、本作は何かが起こる映画ではなく、すでに何かが起こっている映画だ。そしてそれは、世の中のどの家族にも当てはまる。あなたが次に家族で集まるのはいつの予定だろうか? それが楽しみなのか憂鬱なのかで、本作の見え方は決まる、かもしれない。

【ストーリー】
ブレイク一家は、感謝祭の日に次女・ブリジッドとパートナーのリッチが住む新居を訪れる。どこか薄気味悪い部屋で、彼らは他愛もない会話を繰り広げる。だが、夜が更けるにつれて不穏な空気が漂い始め、古い建物は妙な音を響かせ、次々に明かりが消えていく。

【キャスト】
リチャード・ジェンキンス、エイミー・シューマー、スティーヴン・ユァン、ビーニー・フェルドスタイン、ジューン・スキッブ、ジェイン・ハウディシェル 他

【スタッフ】
監督・脚本・原作:スティーヴン・カラム

 

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