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『陪審員2番』 命を懸/賭けて、無罪を証明せよ。……でも、誰の?

この映画は、つまり―
  • 巨匠クリント・イーストウッド、最後の作品!?
  • 『十二人の怒れる男』と“一人の迷える男”
  • 人は皆平等、と言うのなら

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◆配信中の注目作

『陪審員2番』(2024)

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文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

現時点で存命の最高齢かつ現役の映画監督は誰だろう? スティーブン・スピルバーグ? いや、彼は“たったの”77歳、いや、12月18日に78歳になったばかりだ、まだまだ若い。では、ポール・バーホーベンやリドリー・スコットは? 86歳と87歳。いいセンを行っているが、まだその上がいる。その彼が実際に最高齢の監督かは分からないが、ある程度有名な人物という条件を付け加えるならばほとんど彼で決まりだろう。そう、クリント・イーストウッドだ。何と御年94歳である。そろそろ人生最後の作品を撮るタイミングとなってきているはずで、最新作の本作『陪審員2番』がそうなる可能性は十分ある。

ところが、そんな本作は日本では劇場公開されず、U-NEXT限定の配信となる。まあ、元々本作はワーナー・ブラザースの配信サービスであるMax(前身はHBO Max)での配信用とされていたものなので仕方ないと言えば仕方ないし、配信サービスでこのような良作が多く見られるようになったのは映画ファンにとって嬉しい面もあると思うが、寂しさを感じてしまうのも事実だ。ただ、本作はあまり最後の作品らしくないのでもしかしたら次があるのかもしれない。例えば、(最後の作品の予定ではないが)スピルバーグの『フェイブルマンズ』のような集大成感がない。いつも通りなのだ。我々が本作から受け取るのは温かな感動などではなく、イーストウッドがいつもしているような厳しく鋭い眼差しなのである。

本作は、妊娠中の妻のサポートをしている最中にある事件の陪審員に選ばれた若者の物語だ。ろくでもない彼氏が酔って彼女を殴り橋から突き落として殺したとされる事件で、様々な状況証拠が、彼氏が犯人であると囁いている。ところが、主人公ジャスティンはそれに耳を貸さない。なぜか? これはあくまで物語の冒頭なので明かしてしまうが、よりうるさい内なる声が叫んでいるからだ。「あの橋を知っている。事件の日、土砂降りの中車で何かを撥ねたのを覚えている。鹿だと思っていたが……もしかして、真犯人は自分なのではないか?」と。

本作が下敷きにしているのはやはり、名作『十二人の怒れる男』だろう。同作では陪審員8番が主人公だが、彼だけが被告人の無罪の可能性を主張したために議論が加速していく(陪審員制度では全会一致の結論を出さなければならない)。その陪審員8番を真犯人にしてみたら、という捻りが足されているのが本作だ。ジャスティンは妻とじきに産まれる子どものために自首するわけにはいかないが、被告人に罪をなすりつけもできないので、ジレンマを抱えながら議論を長引かせていく。ジャスティンは悪人ではないため、観客は何が正義(ジャスティス)か分からないまま成り行きを見守ることしかできない。

誰でもジャスティンの立場になりうるのが実に恐ろしいが、見方を変えれば、怪しい“だけ”の被告人が陪審員たちの感情や偏見で有罪とされそうになるおそれも描かれている。被告人が気に食わないから、面倒で早く帰りたいから。それだけの理由で1人の人間の人生が破壊される。弁護士バッジに刻まれている、公正と平等の象徴である天秤。まさしく、本作において天秤はジャスティンと被告人の人生を乗せて釣り合っているのだ。陪審員も、本来はこのような覚悟を持って裁判に臨み、間違った結論を出してしまったら相応に裁かれるべきなのかもしれない。同等の刑で? それとも12分の1の刑で?……とてもハッピーな映画ではないが、年末に正義の迷宮に迷い込むのもオツなものかもしれない。では良いお年を。

【ストーリー】
ジャスティン・ケンプは、身重の妻と慎ましく暮らすタウン誌の記者。ある日、彼のもとに陪審員召喚状が届く。担当するのは恋人をケンカの末に殺した男の裁判。容疑に疑いの余地はなく、数時間で評決に至る簡単な審理だと思われたが…。

【キャスト】
ニコラス・ホルト、トニ・コレット、J・K・シモンズ、キーファー・サザーランド、ゾーイ・ドゥイッチ 他

【スタッフ】
監督:クリント・イーストウッド

 

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