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『黙する者が生きし場所』 言わぬが花、が菊の花。

この映画は、つまり―
  • いじめが発端の殺人事件を巡るミステリー・サスペンス
  • 予想していた展開は開始10分で終わる!?
  • この映画で糾弾されるのは加害者よりも……

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◆配信中の注目作

『黙する者が生きし場所』(2024)

Netflixで視聴する⇒こちら

 

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

はじめに言っておくと、本作『黙する者が生きし場所』にはいじめ等に関する凄惨で胸糞悪い描写が頻出するので注意していただきたい。一応、ストーリーはかなりテンポよく進むしスタイリッシュなシーンもあるため、これでもエンタメ度は高い方だろう。個人的な意見では、もし本作が中国映画でなく韓国映画だったならばもっと重苦しい作品になったのではないかと思う。ちなみに、本作はマレーシア人のサム・クアー監督による中国版セルフリメイクのようだ。オリジナル版は2022年のマレーシア映画だが、今のところそちらを日本で見る術はない。

本作をジャンル分けするなら、ミステリー要素のあるサスペンス。マレーシアの架空の島にある女子校が舞台で、いじめに関わる生徒とその親を描いている。後から時間を遡って事件の謎や登場人物の抱える秘密が明かされていく構成のため、本来の時系列でストーリーを語るのが許されないタイプの映画だ。物語は、生まれつき喋れない女子生徒ユートン(トン)が、校長の娘アンジーを含むいじめ加害者グループに目を疑うレベルのいじめを受けているところから始まる。学校の清掃員であるトンの母親リーは、現状を知っても娘を助けられないでいる。そうして、我々観客の心にいじめっ子に対する黒い感情が芽生えた瞬間、何といじめっ子たちは黒装束をまとった何者かに殺される。不謹慎ながらもスカッとするかと思いきや、あまりにも早すぎる展開に困惑するばかり。この映画、ここから1時間50分もあるのだが……?

その後は、ユートンが受けているいじめの他にもひどい問題が複数描かれていく。予想できない……いや、予想よりも悲惨な展開のオンパレードだ。いじめっ子殺人の犯人を特定するのはそう難しくないが、本作はミステリーとしてはフーダニット(誰がやったか)というよりむしろホワイダニット(なぜやったか)なのだろう。一方から見た時に被害者でも、別の方向から見た時もそうとは限らない。登場人物たちは複雑に影響を与え合っており、善人か悪人かを簡単に判断できないような作りになっている。……が、明確に糾弾されている行為はある。

本作の中国語タイトルは「黙殺」、英題は「A Place Called Silence(沈黙と呼ばれる場所)」だ。「死人に口なし」と言うように、「沈黙」とはあの世を指しているようにも思える。しかし、話せないユートンに象徴されている通り、いじめ被害者は生きていても声を上げることが中々できない。社会的弱者であるリーについても同様だ。そして、いじめを周りで見ている傍観者たちは、いじめっ子の数に比べて圧倒的多数派でありながらも声を上げようとしない。「黙殺」とはつまり、知っているのに無視することだ。ここでは「見殺し」と言い換えても良い。傍観者はとどめの一撃までは加えないまでも、ひとりひとりが被害者を1回ずつ刺しているに等しい。沈黙という名の地獄はそこにある。たった今も傍観者として画面を見ている我々も、無関心でいてはいけないのだ。

【ストーリー】
いじめに遭っていた生徒の死を引き金に、殺人が立て続けに発生。陰惨な秘密が次々と暴かれるにつれ、一見平穏な女子校は崩壊していく。

【キャスト】
エリック・ワン、チャン・チュンニン、フランシス・ン、ワン・シェンディー 他

【スタッフ】
監督・脚本:サム・クアー

 

 

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