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『オーメン:ザ・ファースト』上(かみ)を見上げるその場所は、地の底にある。

この映画は、つまり―
  • あの名作ホラーの前日譚
  • 女性にしか撮れない、撮ることを許されないホラー
  • クラシックホラーへのオマージュたっぷり

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◆配信中の注目作

『オーメン:ザ・ファースト』

ディズニープラスで視聴する⇒こちら


文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

往年の名作に、数十年越しの関連作が作られるのはもはやお決まりの展開となった。ホラーも例外ではなく、ジョン・カーペンター監督の『ハロウィン』(1978)の場合は、デヴィッド・ゴードン・グリーン監督によって直接の同題続編『ハロウィン』(2018)が作られた。さらにグリーンはウィリアム・フリードキン監督の『エクソシスト』(1973)の、またもや直接の続編である『エクソシスト 信じる者』まで撮った。本作『オーメン:ザ・ファースト』は続編ではなく前日譚だが、やはりリチャード・ドナー監督による名作ホラー『オーメン』(1976)に繋がる作品となっている。ちなみに、『オーメン』シリーズはこれまでにオリジナル版と3本の続編、1本のリメイク版があるため、本作は始まりにして“6”本目の作品となる。

あまりにも有名すぎる“獣の数字”、666。ヨハネの黙示録に記された、ある人間を指すという不吉な数であり、よく反(アンチ)キリストと結び付けられる。『オーメン』シリーズにおいては、悪魔が孕んだ、または孕ませた忌まわしき子にまとわりつく概念だ。最も象徴的なのが、オリジナル版で6月6日6時に産まれ、頭に666のアザを持った不気味な男の子ダミアンで、彼は数々の怪死事件を引き起こす。グレゴリー・ペック演じる主人公が、待望の息子が死産となったのを妻に伝えられず、黙って代わりの赤子を息子として育てることにするのだが、その養子がダミアンだ。オリジナル版で、そのあまりにショッキングな出生の秘密が明かされるが、本作はそこに至るまでの物語になっている(とは言え、オリジナル版とは一部設定が異なっている)。

今回の主人公は女性だ。アメリカからイタリア・ローマにやってきた修道女見習いのマーガレットの周りで、何かの前兆(オーメン)のように禍々しい事件が起き始める。若者たちが宗教を信じなくなり、教会の力が衰退している、という時代背景が面白い。神に最も近いはずの修道院が映されていても、神の気配を感じないのだ。もっとも現実では、聖職者が神の名のもとに目を背けたくなるほど不道徳な行為をしていた例は枚挙にいとまがないが(『スポットライト 世紀のスクープ』や『マグダレンの祈り』など)。

監督もまた女性のアルカシャ・スティーヴンソンが務めており、真正面からの出産シーン(!?)をはじめ、女性でないと撮れないであろう生々しい場面が多い(モザイクのせいでシュールに見えるのが残念だが……)。オリジナル版からの設定変更により、まさに本作は悪魔の子を「産む」ことが大きなテーマになっている。『オーメン』を女性視点で読み替える試みに加えて、それがホラー作品としての存在感も増大させているのも素晴らしい点だろう。驚かしだけでホラーは成立しない。“雰囲気イケメン”は実際はイケメンではないのかもしれないが、雰囲気があるホラーはホンモノと言って良い。オリジナル版へのオマージュはもちろん、オリジナル版に近い年代のホラー、例えば『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)や『サスペリア』(1977)などの影響もあるのだろう、本作は名作の前日譚に恥じないクラシカルな佇まいだ。

まさか、と驚いたが、アンジェイ・ズラウスキー監督の怪作『ポゼッション』(1981)への直接的なオマージュシーンまである。配信もされていないようで、レンタルビデオ店も減っている現在では鑑賞が難しいだろうから説明すると、同作では当時の人気女優イザベル・アジャーニが、地下鉄駅構内で発狂・絶叫しながら体中から赤白い(「赤黒い」ではない)謎の液体を噴出しのたうち回るという地獄のようなシーンがあり、本作では何とそれをやっている。必然性はちゃんとある。シーンの意味的にもそうだし、同作で主人公を演じたサム・ニールは、本シリーズ3作目の『オーメン/最後の闘争』で大人になったダミアンを演じているのだ。ところで、『ポゼッション』は『SMILE/スマイル』(2022)で注目されたパーカー・フィン監督によってリメイクされる予定があるらしい。ホラーという名の悪魔の子ならばいくらでも産まれてほしいものだが、どちらにしても、一番の獣はやはり人間のようだ。

【ストーリー】
6月6日午前6時――、“悪魔の子”の誕生が迫っていた。そんな中、ローマの教会にやってきた一人の修道女見習いのマーガレットの周囲で巻き起こる不可解な連続死。一方、カトリック教会から破門されたブレナン神父は、教会の陰謀を暴露するためマーガレットに近づく。恐怖で人々を支配するため、悪の化身を誕生させる教会の邪悪な目論見を知ったマーガレットは、全てを明らかにしようとする。しかし、彼女を待っていたのはさらなる<戦慄の真実>だった……。

【キャスト】
ネル・タイガー・フリー、ビル・ナイ、ソニア・ブラガ、ラルフ・アイネソン 他

【スタッフ】
監督:アルカシャ・スティーヴンソン

 

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