『サムシング・イン・ザ・ダート』土中でキラリと光ったそれは、金かバーミキュライトか。

2024.06.29

この映画は、つまり―

尖ったB級SFスリラーならお任せ！ベンソン&ムーアヘッドの最新作！
浮遊するクリスタルが放つ、人間を狂わせる光(ライト)
“ドキュメンタリー”が持つ歪み

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◆配信中の注目作

『サムシング・イン・ザ・ダート』

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文：屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

魅力的な設定のB級SFスリラーなら彼らに任せておけば良い。ジャスティン・ベンソン&アーロン・ムーアヘッドの監督コンビだ。知る人ぞ知る存在だった彼らも、MCUの『ムーンナイト』と『ロキ』のシーズン2に監督として参加し、知名度を上げた。昨年、タイムスリップできるドラッグが登場する彼らの前作『シンクロニック』を紹介したが、その時にまだ日本上陸が決まっていなかった待望の新作があった。それがこの『サムシング・イン・ザ・ダート』である。

彼らの作品ではよくあることだが、本作の主人公であるリーヴァイとジョンはベンソンとムーアヘッドがそれぞれ演じている。B級だけに、低予算らしさをひしひしと感じるものの(これまでもそうだった)、今回はそれにこそ意味が持たされている。というのも、リーヴァイ&ジョンは劇中で素人ドキュメンタリー映画監督になるからだ。まず、ジョンが長年住んでいるロサンゼルスのおんぼろアパートにリーヴァイが引っ越してくるところから物語は始まる。ある日ふたりは、荒れ果てた部屋に放置されていたクリスタルのような物体がひとりでに光り、宙に浮く様子を見てしまう。オカルトか超常現象か。どちらにせよこれは金になると判断したふたりは、現象をカメラに収め世界に発信し一儲けしようと画策するのだが……。

監督自身が監督役を務めるということで、本作は劇中にも意味深に登場するマトリョーシカのような入れ子構造になっている。リーヴァイ&ジョンが撮ろうとするのはドキュメンタリーだが、ベンソン&ムーアヘッドはモキュメンタリー(偽ドキュメンタリー)として作っているのだ。ふたりが怪現象を喜んだり怖がったりケンカしたりしているシーンに時たま、ドキュメンタリーのスタッフとして雇われた人のインタビューが入る。つまり、このドキュメンタリーは現在進行系で撮り続けられているのではなく、すでに編集がなされているわけだ。当たり前と言えば当たり前だが、ドキュメンタリーはフィクションと違って事実をそのまま映し出しているようでいて、カメラで何を映すか、誰のインタビューを撮るか、どのシーンを採用するかなど、絶対に何かしらの監督の意図が入る。途端に、全てが胡散臭く感じられただろう？

クリスタルが放つ光にふたりは夢を見る。しかし、それは光が道筋を照らしてくれているのか、目を灼かれ盲目になっているだけなのかは分からない。浮遊する物体、奇怪な図形、存在するはずのない植物、鳴り響く信号、聞き覚えのある音階……。ストーリーは陰謀論的、都市伝説的な領域まで広がっていき、謎が謎を呼ぶ答えのないパズル、出口の見えない迷路へと変貌していく。……いや、それとも、ラストピースを奪われたパズル、出口を塞がれた迷路へ？　ドキュメンタリーに真実はない。それでも、この光で映し出された芸術に挑もうと言うのなら、アルミホイルを被っての鑑賞をオススメしよう。怪しい電波を受信することがないように。

【ストーリー】
ロサンゼルス近郊の古アパートへ越してきたリーヴァイは、中庭で隣人のジョンと出会う。すぐに意気投合した二人はある日、リーヴァイの部屋で“奇妙な現象”を目の当たりにする。部屋に置かれていた結晶体が妖しい光を湛えながら浮遊したのだ。二人は恐れ慄きながらも、一攫千金を夢見て現象の一切を証明するドキュメンタリー映画を制作することに。彼らはロサンゼルス各所で現象についての手がかりを発見するが、じわじわと深い迷宮へ嵌ってゆく――。

【キャスト】
ジャスティン・ベンソン、アーロン・ムーアヘッド　他

【スタッフ】
監督：ジャスティン・ベンソン&アーロン・ムーアヘッド

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