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『オオカミの家』それは、わらよりも、木よりも、レンガの家よりも丈夫な家。

この映画は、つまり―
  • 無生物に、生命を与え……ないグロテスクな千変万化のアニメーション
  • 実在のカルト集団、コロニア・ディグニダ視点の洗脳映像
  • コロニアもまた、姿を変えて……

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◆配信中の注目作

『オオカミの家』

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文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

アニメーション。日常的に使われ、誰もが知っているが、なかなか深い言葉でもある。「アニマ(anima)」が「魂・生命」を指すので、「アニメート(animate)」で「生きていないものに生命を吹き込む」という意味になる。それを行う者が「アニメーター(animator)」であり、そうして出来上がったものが「アニメーション(animation)」だ。『ZOMBIO/死霊のしたたり』というゾンビ映画があるが、その原題は「リ・アニメーター(Re-Animator)」。再び生命を与える者、つまり死者を蘇生させゾンビを生み出す者を指しているわけだ。

本作『オオカミの家』はチリのストップモーションアニメであり、劇中では登場する全ての、本来生きてなどいないモノたちが活き活きと動いている。……いや、この表現ではかなり語弊があるだろう。なぜなら、動く……蠢くソレらは「生」の雰囲気など纏ってはいないから。コマ撮りなので、気の遠くなるほど数多のカットを繋いで作られながらも連続して見える“ワンカット”の映像は一瞬たりとも止まることはなく、リアルタイムでの舞台転換さながらに(『エターナル・サンシャイン』を思い出す)、三次元の人形も二次元の絵も常に変化を続ける。ドロドロと溶け、流れ、崩れ、爛れ、腐り落ち、肉付く。それこそ気が遠くなってしまえば良いと望むほどに、直視に耐えない場面ばかり。カノジョらは、(健全な意味で)生きているようになど見えない。生きながらにして死んでいる、ゾンビと大して変わらない。

本作が扱っているのは実在した、いやある意味では今も存在している、「コロニア・ディグニダ(尊厳のコロニー)」だ。1960年代、チリへ移り住んだドイツ人たちによって作られた共同体で、当初こそ現地で良いイメージを持たれていたようだが、実際は子どもたちを強制労働させ、あまつさえ性的虐待まで行っていた凶悪なカルト集団である。本作はコロニア・ディグニダによる人々を洗脳するためのプロパガンダ映像、という体の作品となっており、監督のクリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャがコロニアの創始者であったナチスの残党で小児性愛者のパウル・シェーファーの視点に立って作り上げた。「シェーファー(ドイツ語で羊飼い)」という名が示すように、作中の論理ではコロニアの教えこそがキリスト、神の教えのように説かれている。

主人公は、家畜のブタを逃がしてしまい罰を受ける少女マリア。どうにかコロニアから逃亡した後、荒れ果てた家へ逃げ込み2匹のブタと出会い世話をするが、オオカミ(コロニア)がマリアを探しに来て……といった内容だ。なぜかブタが人間になる悪夢的展開もあり、ある程度背景の知識がないとその異形の映像に面食らうだけとなってしまいそうだが(それはそれで何も悪くない)、窓が描かれる際に十字からナチスの鉤十字、そして窓へ変化するなど、気味が悪いディテールによってコロニアの本性が匂わされているのが分かる。また映像だけでなく、絶えず鳴り続けるペンで絵を描く音や紙を折り曲げる音も生理的嫌悪感を煽る。最悪のASMRだ。

恐ろしいのは、マリアは被害者でもあるが洗脳されているので、彼女の中にも教えが根付いてしまっていること。「ペドロ」と「アナ」と名付けられ人間となったブタは、生まれ変わる際に金髪碧眼の外見になる。これはまさに、ヒトラーが理想とした「アーリア人」そのものだ。一応コロニア側がオオカミと悪役のように描かれているので油断しそうになるが、本作の中では規律に従わず“尊厳”を持たないブタの方が悪である。おとぎ話「三匹の子ブタ」では、わらや木よりレンガの家が強くオオカミも敵わない。だがそれは間違っている。現実では教えで“家”を築いたオオカミの方が強いのだ。

コロニアは時のピノチェト政権も味方につけ存続していたが、その後「ビジャ・バビエラ」と改名し何と現在でもホテル・レストラン施設として残っている。そして、コロニアのものと似たような教えも、世界中のどこにでも、我々のすぐ近くにだって存在しうる。「“オオカミの家”にでも良いから、守ってもらいたい」と一度考えてしまったら、我々の体もまた脆く崩れて、ブタの姿に成り果てるのだろう。

【ストーリー】
美しい山々に囲まれたチリ南部のドイツ人集落。“助け合って幸せに”をモットーとするその集落に、動物が大好きなマリアという美しい娘が暮らしていた。ある日、ブタを逃がしてしまったマリアは、きびしい罰に耐えられず集落から脱走してしまう。逃げ込んだ一軒家で出会った2匹の子ブタに「ペドロ」「アナ」と名付け、世話をすることにしたマリア。だが、安心したのも束の間、森の奥から彼女を探すオオカミの声が聞こえはじめる。 怯えるマリアに呼応するように、子ブタは恐ろしい姿に形を変え、家は悪夢のような禍々しい世界と化していく……。

【スタッフ】
監督:クリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャ
エグゼクティブ・プロデューサー:アリ・アスター
音楽:ティム・フェイン
2021年/チリ/スペイン語/14分/モノクロ/スタンダード/ステレオ/原題:Los Huesos/字幕翻訳:草刈かおり
© Pista B & Diluvio, 2023

 

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