『終わらない週末』神が世界を創造し終えた週末から世界が終わっていく。世にも静かで美しいアポカリプティック・スリラー。

2023.12.17

この映画は、つまり―

ビジュアル的に斬新ながらリアリティのある“異変”の数々
あのオバマ夫妻がこんな映画を製作!?
世界はハイテンションにではなく、ローテンションに終わっていく

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『終わらない週末』

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文：屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

音だけで「しゅうまつ」と聞いた時、どの字を当てはめて考えるだろう。おそらく選択肢はふたつ。そして、その印象は正反対だろう。一方は「週末」。多くの人が仕事から離れ、好きな場所に行ける、解放的で開放的な感覚。そしてもう一方は…、余談だが、筆者は最初にももいろクローバーＺを知った時、彼女らのキャッチコピーを音だけで聞いて「終末ヒロイン」だと思っていた。何と物騒な。…そう、もう一方は「終末」だ。どこにも行けず、誰もがもうすぐこの世を離れる、崩壊の感覚。

『終わらない週末』はバカンス映画と思わせて、実際は「終末」を描いたアポカリプス映画である。まあ、ある家族がバカンスに出かけたまま仕事どころではない状況に追い込まれていくので、ある意味究極のバカンス映画ではある。『終わらない週末』とは原作の邦題を引き継いだタイトルで、原題は『Leave the World Behind（世界を置き去りにして）』だが、むしろこの家族こそが世界から置いてけぼりにされてしまうのだ。そう言えば、ジャン＝リュック・ゴダール監督が終末感たっぷりに描いた不条理劇のタイトルも『ウイークエンド』だった…。

アマンダ（ジュリア・ロバーツ）とクレイ（イーサン・ホーク）、長男アーチー（若い頃のジョン・トラヴォルタに似ている！）と幼い長女ローズのサンドフォード家は、家族4人で世間の喧騒から逃れ、貸別荘にやって来る。電波が通じず、スマホもPCも使えない。強制デジタルデトックスだ。ドラマ『フレンズ』が大好きなローズは、タブレットがいつまで経っても最終話の動画を読み込まないのでムスッとしている。筆者もついこの前、久々にスマホの通信制限を食らいイライラしたばかりである。この世で最もムダな時間は、スマホやPCのデータ処理を待っている時間だと昔から思っている。5Gの電波は脳などに影響があると言われることもあるが、それがなくては生きていけない。正確には筆者のスマホは古い型なので4Gなのだがそれは置いておいて、我ながら重度のネット中毒だ。そして、同様の人は決して少なくないだろう。

家族水入らずの休暇になると思いきや、4人はビーチで超巨大なオイルタンカーの座礁場面に遭遇。漠然とした不安を感じていると、夜に家主を名乗る黒人の男女が「大規模な停電が起きているから泊めてほしい」と訪ねてくる。正体不明のふたりに不信感をあらわにするアマンダだったが、テレビの画面は非常事態宣言の発令を告げており…。とても不吉な始まり方だ。ただ雰囲気は、よくあるハイテンションなディザスターものとは全く違う。異変の原因はサイバー攻撃であることが示唆されるが、電波が通じていないのでほとんど情報が入ってこない上、貸別荘は安全なのでいまいち状況が読めない。翻弄される家族たちを追う、浮遊しているように流麗なカメラワークが、静かながらも何とも言えない気味悪さを演出している。

アポカリプス映画と言えば、今年はM・ナイト・シャマラン監督の『ノック終末の訪問者』が公開された。数年前には、謎のパンデミックに見舞われた世界でのふたつの家族の衝突を描いた『イット・カムズ・アット・ナイト』もあった。しかし、本作はそれらとも全く異なる味わいだ。サンドフォード家を襲う異変はだんだんとビジュアル的に強烈なものになっていくが、現実感を失わせるような美しさでいてリアリティがあり、「そうか、実際は、世界はこのように終わっていくのだ」と思わされる。ちなみに本作には、シネフィルとしても知られるオバマ元米大統領とミシェル夫人が立ち上げた製作会社ハイヤー・グラウンド・プロダクションズも関わっている。彼らがこんな映画を作ったという事実が一番怖いような…。

これまで何度も世界は終わると言われてきたものの、まだ本当には終わりを迎えていない。世界核戦争のおそれがあった冷戦時代にも、ノストラダムスが予言した20世紀末にも、マヤ文明の暦が途絶えている2012年にも、世界終末時計が史上最も午前0時（終末）への針を進めている現在でも。終わる終わる詐欺、まさに“終わらない終末”だ。しかし、違うのだ。きっと、終末はいきなり画面がプツッと切れるようなものではなく、少しずつノイズが増え、徐々にフェードアウトしていくのだ。人間が気づかぬうちに。気づける段階になったらもう手遅れ。失ってから気づき、なす術もなく消えていくのが何とも人間らしい最期だろう。終わりはすでに、そこかしこに潜んでいる。『フレンズ（frENDs）』の中にだって…。