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『別れる決心』ロマンスはミステリー。パク・チャヌク監督が仕掛けたこの謎は、絶対に解いてはいけない。

この映画は、つまり―
  • 韓国の巨匠パク・チャヌクの新境地!
  • 韓国人俳優パク・ヘイルと中国人女優タン・ウェイの絶妙な相性
  • 解けない方が良い謎もある

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『別れる決心』

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文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

もしも本作が日本映画で、今から40年ほど前に公開されていたなら、主題歌はジュディ・オングの歌う「魅せられて」になっていたのではなかろうか。実際には、「魅せられて」は日本・イタリア合作映画『エーゲ海に捧ぐ』で知られるポルノ女優チッチョリーナが出演したワコールのCMで使われていたのだが。パク・チャヌク監督は代表作『オールド・ボーイ』や前作『お嬢さん』のせいで、どぎついエロス&バイオレンスのイメージが強い。しかし、今回は(表面的には)かなり静かで美しい作品を仕上げてきた。チャヌク自身が話しているように、何とまあオトナでなく大人向けの映画であることか。

優秀な刑事ヘジュンは、男が山で転落死した事件を捜査する中で、一番の容疑者である男の妻ソン・ソレに出会う。ソレは中国人であり、韓国語でのコミュニケーションが十分にできない。ヘジュンはソレの証言を聞き、張り込みで普段の様子を監視するうち、だんだん美しくミステリアスなソレに惹かれていく。対するソレも、品があり誠実なヘジュンに惹かれ…というミステリー風味のメロドラマだ。カンヌ国際映画祭で監督賞に輝いた本作の感想をネットで探してみると、「よく分からなかった」と書いている方も多い。筆者も、劇場で鑑賞した時にはよく分からなかった。今回吹替版で見直してみて(ソレを演じる沢城みゆきの声が実に美しい!)、少しだけ理解が進んだ気がする。本作が最も大事にしている謎(ミステリー)は、ミステリー映画らしい殺人事件の部分ではないのだ。

普通に考えると、ソレの立ち位置は『氷の微笑』のシャロン・ストーンのような魔性のファム・ファタール、刑事を惑わす運命の女のはず。しかし、取り調べの際に高級寿司(カツ丼でなく)を食べたふたりは、まさに阿吽の呼吸で後片付けしていく。妻のいる刑事と夫を亡くした容疑者なのに、つうかあの仲の、割れ鍋に綴じ蓋の、以心伝心の夫婦にしか見えない。ヘジュンにとっては、既婚者として、刑事として、二重の意味で倫理にもとる不倫の恋なのに。ただし、完全にプラトニック。そのため、不倫映画が好きではない筆者でも全く嫌悪感を抱かなかった。むしろ、全編に漂うユーモアも相まって、ふたりは微笑ましい初恋同士のカップルのようにすら見える。ヘジュンの夫婦関係は険悪ではなく、客観的にはソレは愛人であるにもかかわらず。

「魅せられて」では、「女は海」と歌われている。巨匠パク・チャヌクは、激しい恋心を抱えたソレを燃え上がる炎ではなく、ヘジュンを溺れさせる海として描いた(とは言え日本人なら、江戸時代に恋心を“燃え上がらせ”たある女性をソレに重ねるのではないだろうか)。先の見えない愛の果てに、ソレはヘジュンだけでなく観客をも置き去りにする。きっと、ここに本作を二度見たくなる理由がある。人間は、完全に内容を理解できる映画よりも、『2001年宇宙の旅』のように謎を残した映画の方が忘れられないのだ。相手の言葉の意味が100%は分からないからこそ、もっと知りたくなる。ほとんど「愛」という単語が出てこない作品なのに、逆説的に愛が伝わる。なぜこんなにも不合理なのか。けれど、決して解けないミステリーというのも、中々オツなものだ。

【ストーリー】
男が山頂から転落死した事件を追う刑事ヘジュンと、被害者の妻ソレは捜査中に出会った。取り調べが進む中で、お互いの視線は交差し、それぞれの胸に言葉にならない感情が湧き上がってくる。いつしかヘジュンはソレに惹かれ、彼女もまたヘジュンに特別な想いを抱き始める。やがて捜査の糸口が見つかり、事件は解決したかに思えた。しかし、それは相手への想いと疑惑が渦巻く“愛の迷路”のはじまりだった……。

【キャスト】
タン・ウェイ、パク・ヘイル、イ・ジョンヒョン、コ・ギョンピョ 他

【スタッフ】
監督:パク・チャヌク
脚本:パク・チャヌク、チョン・ソギョン

 

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