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『お嬢さん』ロマンスはサスペンス。白く”まあるい”心を奪うのは誰?

この映画は、つまり―
  • 未見ならこのタイミングでパク・チャヌク作品を!
  • 日本人だけが受け取れるエロス
  • ジャンルの垣根を超えていく快作

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◆配信中の注目作

『お嬢さん』(2016)

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文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

先日、アカデミー賞のノミネート作品が発表された。しかし、その国際長編映画賞部門から惜しくも外れてしまった作品がある。すでに傑作と名高い、韓国の巨匠パク・チャヌクの『別れる決心』だ。昨年のカンヌ国際映画祭では監督賞に輝き、アカデミー賞でも予備候補リストに入っていたのだが…。そういうわけで、彼に敬意を表し、この場ではすでに配信中である前作『お嬢さん』を取り上げることにしよう。

もちろん韓国映画だが、ある意味本作を世界中で最も楽しめるのは日本人だ。本作には字幕版しか存在しないものの、登場人物たちが何を言っているのかが分かる。多くのセリフが日本語になっているからだ。パク・チャヌクの一番の代表作は日本漫画を映画化した『オールド・ボーイ』で、日本と奇妙な縁がある。本作は、19世紀のビクトリア朝イギリスを舞台にしたサラ・ウォーターズの『荊の城』を原作としながらも、1939年の日本統治下の朝鮮半島に時代と場所を移すという大胆な翻案がなされている。

人間関係は少し複雑だ。タイトルの「お嬢さん」とは、主人公のひとりである日本人令嬢の秀子(ひでこ)お嬢様のこと。彼女は両親を亡くしており、変態趣味の叔父、上月(こうづき)と結婚させられそうになっている。上月は元朝鮮人で、日本人に取り入り帰化までして日本人女性(秀子の叔母)と結婚したが、秀子が幼い頃に叔母が自殺。上月は秀子が相続した財産と彼女自身を支配するため、秀子が成熟するまで待っていたのだ。そこに目をつけたのが、詐欺師の藤原伯爵とスリの少女スッキ。伯爵は秀子にハニートラップを仕掛け、上月を出し抜いて金をせしめようとしている。そして、伯爵の仲間であるスッキは秀子の侍女「珠子(たまこ)」として屋敷に潜り込むが、箱に入れられた真珠のような秀子の美貌に目を奪われ…というのが簡単なあらすじだ。

日本人になろうとする朝鮮人、幼い頃から朝鮮に住んでいる日本人…それら全員を韓国人が演じているので、正直に言って日本語は完璧とは言えない。しかし、誰も彼もが日本語を話す必要に駆られ、借り物として日本語を用いている状況と騙し騙されるストーリーが奇妙に共鳴していて、日本の観客にとってたまらなくスリリングな体験になるだろう。本作は性描写の過激さから成人指定となっており、普通の日本映画では絶対に聞くことのできない単語も次々に飛び出す。そのあまりの露骨さには、アメリカ映画では2回言うだけで即R指定(17歳未満は保護者同伴が必須)となる「Fuck」すら涼しい顔で聞き流す我々すらぎょっとしてしまう。しかも、それを発するのは鈴を転がすようなお嬢さんの声だったりして…。

はじめはサイコスリラーのように感じるかもしれないが、慣れてくるとロマンティックコメディにも見えてくるあたり、ジャンル分け不能ないつもの韓国映画らしさも備えている。本当の純粋なのは誰か、それを血で汚すのは誰か。言葉の壁も、観客の予想も、ジェンダーまでも飛び越え、潮が満ち、波が打ち寄せ、きれいな満月が昇る頃には…皮肉なことに、もはや言葉は必要ない。響くのは鈴の音だけだ。

【ストーリー】
舞台は1939年の朝鮮半島。支配的な叔父と、膨大な蔵書に囲まれた豪邸から一歩も出ずに暮らす令嬢・秀子のもとへ、新しいメイドの珠子こと孤児の少女スッキがやってくる。実はスラム街で詐欺グループに育てられたスッキは、秀子の莫大な財産を狙う”伯爵”の手先だった。伯爵はスッキの力を借りて秀子を誘惑し、日本で結婚した後、彼女をある場所に隔離し財産を奪う計画を企てていた。だがスッキは美しく孤独な秀子に惹かれ、その計画は少しずつ狂い始めていく…。

【キャスト】
キム・ミニ、キム・テリ、ハ・ジョンウ、チョ・ジヌン 他

【スタッフ】
監督:パク・チャヌク
脚本:チョン・ソギョン、パク・チャヌク
原作:サラ・ウォーターズ 『荊の城』

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