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『聖なる証』信仰か、振興か。フローレンス・ピュー主演、“奇跡”を巡る歴史ミステリー。

この映画は、つまり―
  • “ワンダー”とは何か
  • “宗教映画”がよく似合うフローレンス・ピュー主演!
  • 『ルーム』の原作者が描く“中”と“外”

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◆配信中の注目作

『聖なる証』(2022)

Netflixで視聴するこちら

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

世界には、七不思議(セブン・ワンダーズ)が存在する。「不思議」と聞くと、船や飛行機の不可解な事故が多発していると言われるバミューダ・トライアングルなどを思い浮かべるかもしれないが、通常、建造物を指す。どれを七不思議とするのかは時代によって変わるが、古代ギリシャ人が作った最も古いリストには、ギザの大ピラミッドやバビロンの空中庭園などの名が載っている。何が「不思議」なのか。これは日本語への翻訳の問題が大きい。「ワンダー(wonder)」には「驚異」という意味もあるのだ。つまり、セブン・ワンダーズとは、「驚異的な建造物」とするのが正しい(元のギリシャ語は「7つの見るべき場所」を意味した)。しかし、「不思議」と捉えた方が夢があって面白い…かもしれない。

さて、原題が『ザ・ワンダー(The Wonder)』である本作、『聖なる証』の話に入ろう。舞台となるのは1862年、その17年前に起こったジャガイモ飢饉のトラウマがまだ癒えていないアイルランドの小さな村だ。主演のフローレンス・ピューは、イギリス人看護師のエリザベスを演じている(ナイチンゲールのファーストネームもフローレンスだ)。エリザベスは仕事で、村の少女アナの調査に乗り出す。何と、その子は4ヶ月も食事をしていないのに健康に生き続けているらしい。アナ曰く、天からの「マナ」を食べているため平気とのこと(マナは聖書に登場する、神から与えられる食物)。アナの家族もアナ自身も断食の継続を良しとしているが、科学的思考の持ち主であるエリザベスは焦燥感を募らせる…。

世界には、聖人が起こした数々の奇跡(ワンダー)の記録が残っている。元ローマ教皇のヨハネ・パウロ2世は、彼に祈りを捧げた修道女のパーキンソン病の治癒と、別の重病人の治癒、2つの奇跡を認められて聖人となった。“死後”9年というかなり早いタイミングで。そう、聖人となるには死後5年以上が経過しており、2度の奇跡を起こしていることが必要だ。マナの件が真実ならば、これを1つ目の奇跡としてアナは聖人となれる可能性が高くなる。死んだ後で。

原作者は、映画化作品『ルーム』で知られるアイルランド人作家エマ・ドナヒュー。同作では、誘拐され小さな部屋に監禁された母子の脱出前・脱出後が描かれている。幼い子どもにとっては部屋が世界の全てだったが、本当は違った。また主演に、カルト宗教が信仰されている村を描いた『ミッドサマー』で広く認知された女優であるフローレンス・ピューが配されているのが興味深い。カルトな村は、中から見れば至極真剣だが、外から見ればバカバカしい。本作でも、村人とよそ者のエリザベスが見ている景色は同じようで違う。村人にとってはワンダー(奇跡)でも、エリザベスにとってはワンダー(怪しむという意味もある)するべき事象なのだ。

人は信じたいものを信じる。世界の七不思議も、その語感から古代にあるまじき高度な文明を有していたとの迷信に結びついている部分がある。「その方がロマン(物語)がある」と。あなたならば、アナの人生にどのような物語を見るだろうか。少なくとも、ずっと小さな村にいるよりも、世界の七不思議巡りをする方がずっと面白そうだ。超文明の遺産ではなかったとしても。

【ストーリー】
時は1862年。過去の悲しみにとらわれた英国人看護師が、ある調査でアイルランドの人里離れた村へ。そこには、一切食事をしていないはずなのに奇跡的に生き続けている少女がいた。

【キャスト】
フローレンス・ピュー、トム・バーク、キーラ・ロード・キャシディ、ニーヴ・アルガー、キーラン・ハインズ、トビー・ジョーンズ 他

【スタッフ】
監督:セバスティアン・レリオ
脚本:セバスティアン・レリオ、アリス・バーチ、エマ・ドナヒュー
原作:エマ・ドナヒュー

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