『サマリタン』スーパーヒーローは実在した！その名はシルベスター・スタローン!!

2022.09.03

この映画は、つまり―

守るのは世界…ではなくご近所！スケールの小さいヒーロー映画もオツなもの
ヒーロー＝スタローン！
ヒーローの条件とは・・・？

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『サマリタン』（2022）

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文：屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

ヒーロー映画と聞くとすぐに思い出されるのはマーベルやDCの作品だろう。しかし、ヒーローは彼らだけの専売特許ではないし、話のスケールを大きくすることが唯一の正義ではない。サム・ライミ監督の『ダークマン』やM・ナイト・シャマラン監督の『アンブレイカブル』など、こじんまりとしたヒーロー映画は存在するし、その良さというのも確かにある。『サマリタン』もそんな中の一作だ。

正直、様々なヒーロー映画があふれる現代の基準からすれば、本作は設定が凝っている方ではない。ヒーローの持つ能力や過去も何となくは説明されるものの、最後まで見ても理解しきれない部分は多い。この世界には以前「サマリタン」と「ネメシス」という双子の超人がおり、その特異さから忌み嫌われていた。町の住人の放火によって双子は両親を失い、片方はサマリタンとして善行を、もう片方はネメシスとして悪行を働くように。やがて2人は対立し、25年前の激闘の末に両方死んだ…、そう人々によって語られている。ネメシスを崇拝するギャングが街を混乱に陥れようとする中、サマリタンに憧れる少年サムだけは彼の生存を信じ、向かいのアパートに住む老人がそうではないかと疑い始める。

その老人こそ、我らがシルベスター・スタローン演じるジョー・スミス。スーパーパワーは割りと地味で、銃弾を弾く強靭な体と驚異的な身体能力、そしてずば抜けた回復力だけ。サマリタンという名は、聖書にあるイエス・キリストが語った「善きサマリア人のたとえ」に由来する。隣人愛の「隣人」とはどのような人かを説いたものだ。サマリア人は当時ユダヤ人から忌み嫌われていたものの、キリストの話の中では、同胞にも捨て置かれた瀕死のユダヤ人を唯一助けた存在である。そのユダヤ人にとって「隣人」はサマリア人なのだ。サマリア人は、まさに「親愛なる隣人」を自称するスパイダーマン的な存在と言えるかもしれない(ネメシスは神罰を下す女神の名だ)。

ただし、ジョーは文字通りの意味でサムの隣人であっても、性格は「善きサマリア人」という感じではない。人付き合いを好まず、目立たぬようにひっそり暮らしている。しかし、あまりにもしつこいサムに付きまとわれるうちに、段々と祖父と孫、人生の師匠と弟子のような関係になっていく。その意味では少し『ベスト・キッド』的でもある。見事な肉体は健在だが、スライも御年76歳。ジョーも、超人とは言えさすがにピークを過ぎており、大勢のギャングに囲まれれば苦戦する。それでも、サムを守るため何度でも立ち上がるのだ。どうしたって、役とリンクしたスライ自身がヒーローに見える。これだけでファンの気分は最高潮だ。

実は本作は、スライが自身の分身でもあるロッキー・バルボアから名付けた製作会社バルボア・プロダクションズが手掛けた最初の長編映画でもある。スライが考えるヒーロー像についての作品なのだ。スーパーヒーローの条件はスーパーパワーを持っていることではない。スーパーパワーで悪行を働く者はスーパーヴィランだ。また、スーパーパワーがなくともヒーローにはなれる。世界を救うには、まずはご近所、ひいてはひとりの人間を助けることから始めなければならない。力に憧れる年頃の男の子であるサムも、スライの大きな背中を追って、行く行くはヒーローとなるのだろう。サム(Sam)はサマリタン(Samaritan)の略でもあるのだから。