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『ハウス・オブ・ダイナマイト』神は7日間で世界を創った。だが、人間が世界を滅ぼすのには1時間もかからない。

この映画は、つまり―
  • 明日世界が終わる可能性は何%?
  • 核ミサイル着弾までの19分で何ができる? ……何か、できる?
  • これは過去でなく、フィクションでもない

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◆配信中の注目作

『ハウス・オブ・ダイナマイト』
配信先:Amazonプライム

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

確率に関するジョーク(と信じたい)で、たまにこういったものを耳にする。「サイコロを振って1の目が出る確率は、1が出るか出ないかの2択だから50%だ」。この考えが正しいとすると、「明日世界が終わる確率は、終わるか終わらないかの2択だから50%だ」というのも同様に成り立ってしまう。実際の確率は、サイコロの場合はもちろん約17%。世界滅亡の場合は、詳しい数字は出せないし、0%ではないのだろうけれど、きっと非常に低い確率だろう(と信じたい)。本当にフィフティフィフティな状況とはコイントスをして表が出るか裏が出るか、それくらいしかない。……いや。そうではないことを残酷に、ご丁寧に、誠実に明らかにしてしまうのが本作『ハウス・オブ・ダイナマイト』だ。

本作の設定は、『未知への飛行』と『博士の異常な愛情』に似ている。冷戦下の1964年に公開されたこの2本は、どちらもアメリカの核ミサイルが手違いでソ連へ向けて発射され、その阻止に失敗したために訪れる悲劇を描いている。『ハウス・オブ・ダイナマイト』も同じく核ミサイルをテーマにしているが、アメリカは撃たれた方だ。しかも撃ったのがどこの国かは明らかにされない。ロシアか中国か北朝鮮か、はたまた別の国か。攻撃なのか事故なのかも分からない。作風がキャスリン・ビグロー監督らしくリアルでシリアスな上、主に部屋の中で展開する会話劇なので『未知への飛行』の現代版と呼んでも良いかもしれない。

本作は非常時の政府・軍関係者を描く群像劇であり、数多くのキャラクターが登場するため最初混乱する。各々の日常が少しずつ示され、何となくどのような人たちなのかが分かったところで、謎の核ミサイルがアメリカに向けて飛んでくることが判明し状況はさらに混乱していく。しかも、核ミサイルは約19分でアメリカのどこかの都市に落ちるという。なぜこの設定で2時間近く尺があるのかというと、この緊迫の19分間を視点を変えながら3回語り直す構造になっているからだ。さて、ここで先ほどのコイントスの話を思い出してほしい。現代は冷戦時代より技術が発展しており、核ミサイルを撃たれたとしても宇宙空間での迎撃が可能だ。では、成功の確率は? 「撃ち落とせる」「撃ち落とせない」の2択なのだから50%? まさか……、答えはそのまさか、それと大差ない確率であると劇中語られる。“『未知への飛行』の現代版”? とんでもない、現代のこの状況は冷戦時代から何も変わっていないのだ! むしろミサイルの数が増えている分、より悪化したとも言える。

終末へのカウントダウンのように、見る見るうちに進んでいくデフコン(防衛準備態勢)の数字(5が平時、1が戦争勃発または間近)。現実でも、2025年は人類滅亡の危険度を可視化した終末時計が「真夜中まで1分29秒」と史上最も進んでしまった年になった。“人間が想像できることは、人間が必ず実現できる”。きっと、宇宙にとっては取るに足らないほど小さいが、この星は人間によるあまりに誇大的で尊大な“ビッグバン”によって終わりを迎える。このような最悪の想像ですらも実現してしまうのだろうか? 『ヘッド・オブ・ステイト』でのイギリス首相役に続いて、理性的なアメリカ大統領を演じたイドリス・エルバにも、この危機は手に負えない。我々が本作を見ている間にも、世界を吹き飛ばすダイナマイトの導火線は短くなっていっているのだ。核ミサイルの発射ボタンを握る人物に、ダイナマイトの発明者の名を冠す賞が与えられるなど、『博士の異常な愛情』も顔負けの皮肉ではないか。どうか、我々が明日迎えるのが目も眩む真夜中の太陽でなく、やわらかな朝日でありますように。

【ストーリー】
刻一刻と米国に近づく出所不明のミサイル。タイムリミットが迫るなか、その対応に追われる米国政府や軍の関係者を描き、BBCに“ホラー映画よりも怖い”と評されたサスペンス。

【キャスト】
イドリス・エルバ、レベッカ・ファーガソン、ガブリエル・バッソ、ジェイソン・クラーク、グレタ・リー 他

【スタッフ】
監督:キャスリン・ビグロー

 

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