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『ルックバック』別れが待っているのなら、やっぱりあの時出逢えて良かった。

この映画は、つまり―
  • 『チェンソーマン』藤本タツキ原作の青春漫画を劇場アニメ化
  • 痛み/悼みと愛(かな)しみ/悲しみ
  • ○○を込めて振り返れ

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◆配信中の注目作

『ルックバック』(2024)

Amazon Prime Videoで視聴する⇒こちら

 

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

10周以上の周回遅れというか、文字通り19週遅れというか、多くの方にとって非常に今さら感のある作品紹介になってしまうかもしれないが、Amazon Prime Videoでの配信がちょうど始まったので取り上げさせていただこう。原作発表時も、劇場公開時も大きな話題となったこの『ルックバック』を。知ってるよ、という方は本作を振り返る意味でこの文章を読んでいただきたい。

恥ずかしながら、筆者は原作未読である。『チェンソーマン』は、第1部と第2部の序盤まで読んだところで止まっている。連載作品としての前作『ファイアパンチ』も読んだことはない。そのため、ただの映画ファンによる紹介になる。まあ、藤本タツキも映画ファンなので、作中に含まれる映画作品へのオマージュくらいはいくつか指摘できるだろう。例えば、クエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』や『イングロリアス・バスターズ』『ジャンゴ 繋がれざる者』に共通する歴史改変と創作による現実へのリベンジといったテーマや『ラ・ラ・ランド』的展開、ロックバンドOASISの楽曲「Don’t Look Back in Anger」への言及……って、全部ウィキペディアに書かれているではないか! ああ、もう筆者が話す意味など何もない。自分が最初に気づいたような顔をして。……しかし、それでもどうにか書き続けなければ。ありがたいことに、本作もそう言っている。はず。

 

主人公である生意気な小学4年生の女子・藤野は、学年新聞に4コマ漫画を書いている。周りの子よりは画力が高いのが自慢で、見ているこっちが恥ずかしくなるほど調子に乗っている(なぜか他人事と思えない)。ところがある日、先生の計らいで学年新聞に載せられた不登校の女子・京本の4コマ漫画により、まさに4コマ漫画のごとき展開の早さで、チヤホヤされていた藤野の小さな世界は崩れ落ちる。いや、京本の4コマは漫画とは言えない。セリフもストーリーもなく、あるのは圧倒的画力で描かれた4つの風景のみ。まるで画集だ。何だ? これが本当の“絵”というやつなのか? それに比べると自分のは落書きか? 卒業の日、卒業証書を届けるよう頼まれた藤野は京本の家を訪ね本人と邂逅を果たすが、京本は逆に藤野の4コマの荒唐無稽なギャグセンスに憧れていた。急速にふたりの距離は縮まり、藤野は手を引いて京本を部屋の外へ連れ出す。そうして京本の小さな世界も崩れ落ち、ふたりは共同で漫画を書き始めるのだが……。

絵はそこそこだが、ぶっ飛んだ面白い話が書ける「藤」野と、話は書けないが絵が抜群に上手い京「本」。ふたりは、その名前からしておそらく「藤本」タツキの分身なのだろうし、本人はどちらかと言えば藤野により近いのだろう(上手さより勢い重視の絵とギャグセンスが藤本タツキのそれだ)。そこらの他人よりは優れているというチンケな優越感と、ホンモノの才能の前であっけなく砕け散るちっぽけなプライド。自分なんてと投げ出したくなったり、それでも続けたい思いに突き動かされたり。本作には“共感性羞恥”など生ぬるい、まごうことなき自分自身の羞恥心をくすぐられる本当の青春が描かれている。そして、すでに有名な話なので言ってしまうが、現実世界の「京」都アニメーションの事件を思わせる惨事が起き、ふたりの絆と観客の心をズタズタに引き裂く。

本作は、『チェンソーマン』のTVアニメ版で悪魔のデザインを担当した押山清高が監督している。藤本タツキの絵がそのまま、しかも雪景色のシーンが多いのに温もりを感じるテイストで描き出されている。藤野と京本の表情が豊かで、文字にするといけすかない印象を持たれそうな痛い性格の藤野にさえ、どうしようもない愛おしさを感じられる。そのせいで、観客は終盤喪失感と虚無感に押し潰されてしまうのだが。残酷な現実に対して、端から見ていることしかできなかった者はどう対処すれば良いのだろう。または、どうすれば良かったのだろう。過去を振り返り、無関係の点と点を都合良く繋いで自分の見たい形を線として描き出してみても、過去を変えられるわけではない。だが、創作は見る者の気持ちを変えられる。人や物事を忘れさせないようにすることも。時々振り返って思いを馳せるのだ。そうすれば、また前を向いて歩いていける。……ああ、改めて映画のエンドクレジットって長いけど、本当に多くの人が関わっているのだな……。

【ストーリー】
学年新聞で4コマ漫画を連載している小学4年生の藤野。クラスメートからは絶賛を受けていたが、ある日、不登校の同級生・京本の 4コマを載せたいと先生から告げられる……。二人の少女をつないだのは、漫画へのひたむきな思い。 しかしある日、すべてを打ち砕く出来事が……。胸を突き刺す、圧巻の青春物語が始まる。

【キャスト】
河合優実、吉田美月喜 他

【スタッフ】
監督・脚本:押山清高
原作:藤本タツキ

公式サイト:https://lookback-anime.com/

 

★配信エンタの過去記事はこちら

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