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『アイズ・オン・ユー』ご機嫌を取らなきゃ。命を落とすから。

この映画は、つまり―
  • アナ・ケンドリック主演にして、堂々たる監督デビュー作!
  • 実在のシリアルキラーの嘘のような、身も凍るような実話が基!
  • フェミニズム・スリラーの新たな秀作

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◆配信中の注目作

『アイズ・オン・ユー』(2024)

Netflixで視聴する⇒こちら

 

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

70年代のテレビ番組のスタジオが舞台の映画がついこの前公開された。トークショーのゲストに呼んだ“悪魔憑き”少女がホンモノだったために、撮れ高抜群の地獄回になっていく様をファウンド・フッテージ形式で描いたホラー『悪魔と夜ふかし』がそれだ。本作『アイズ・オン・ユー』も同様に、70年代のテレビ番組を生放送中のスタジオが主な舞台となっている。ただし『悪魔と夜ふかし』とは逆で、危険なのはゲストの男。ひとりのゲスト女性が顔の見えない3人の男性ゲスト相手に質問をしていき、最終的に気に入った男性とのデート旅行を獲得できるというデート番組だが、ゲストの中に悪魔ではなく悪魔のような男、シリアルキラーが紛れ込んでいたのだ! そうそう、危険人物の性別以外にも『悪魔と夜ふかし』と違う点があった。このデート番組は実在した。……そして、番組に出演したシリアルキラーも。

この驚くべき実話を映画化したのは、何と女優としてハリウッドで活躍しているアナ・ケンドリック。いつもチャーミングでウィットに富みスター性がありながら、近所に住んでいそうな親しみやすさも併せ持っている彼女が、監督として最初に撮ったのはクライムスリラーだった。意外なチョイスに思えるが、いざ鑑賞してみると単純なシリアルキラーものではない、フェミニズム的視点を実際の事件に重ねた告発のような作品だったのだ。あえてここでは性別をふたつに分けるが、見る者が男性か女性かで、本作に恐怖するその理由が異なってくるだろう。男性の場合は、犯人の異常性が怖いはずだ。では、女性の場合は? その答えは恐らく、犯人の“普遍性”だ。

まず件のシリアルキラーについて紹介すると、名はロドニー・アルカラという。アルカラはカメラマンを装い、男女の、時にいかがわしい写真をさもアーティストのごとく撮っては見せびらかしていたようだ。正確な被害者数ははっきりしないまでも、130人ほどは殺害していたのではないかと言われている。それなのにテレビ番組「ザ・デーティング・ゲーム」に出演し、“デーティング・ゲーム・キラー”の異名がついた。明らかに気味の悪い人物ながら、番組のゲームには勝った。女性ゲストから魅力的と判定されたということだ。作中でも、何人もの女性に巧妙に近づいては犯行に及ぶ様が執拗に描かれる。異常者以外の何物でもない……のだが、ケンドリックが女性視点で事件を捉えているため、ひとりの異常者についてではなく、より大きな話に見えてくる。

ケンドリック演じる売れない女優のシェリルは、気乗りしないまま「ザ・デーティング・ゲーム」の仕事を受け、番組(の男性側)が求めるようないかにも軽そうなキャラで臨むように言われる。最初は従っていたものの次第にうんざりしてきたシェリルは、同じく番組内容にうんざりしている女性スタッフに励まされて男性陣に反撃し始める。それこそ、ケンドリックらしいチャーミングながらもウィットに富んだ鋭い質問を繰り返し、観覧客を味方にしながら女性を軽視している男性ゲストたちをボコボコにしていくのだ。ここは痛快というか、男性である筆者にとっては痛気持ち良いカタルシスのあるコメディ的なシーンになっている。とは言え、世の男性は女心の分からないマヌケか、“分かっている”シリアルキラーだけという皮肉すぎるオチがつくのだから笑うに笑えないのだが。

本作には、ストレスの溜まるアンチカタルシスな場面が多く登場する。映画的に誇張しつつも実際の事件の顛末に則っているためでもあろうが、大体は男性キャラクターのせいだ。語弊を恐れずに言うと、人を殺していないだけでアルカラと大した違いのない男性が多い、とこの映画は告発しているのだ。『プロミシング・ヤング・ウーマン』と通ずるところがあるが、同作はあくまでフィクションのエンタメだったのだなあと痛感させられる。ケンドリック自身がハリウッドで味わったのであろう体験が反映されていそうなリアリティのある描写が多く、よくできたデビュー作だと悶えつつ楽しみながらも、冷やした肝に銘じざるを得ない。心を殺す殺人者にはいつだってなってしまえるのだと。

【ストーリー】
ハリウッドで売れたいと最後の望みをかけ、テレビのデート番組に出演することになった女優。しかし選んだ相手はなんと連続殺人犯で、事態は恐ろしい展開に向かう。実話に着想を得た物語。

【キャスト】
アナ・ケンドリック、ダニエル・ゾヴァット、トニー・ヘイル、ニコレット・ロビンソン、ピート・ホームズ、オータム・ベスト、キャサリン・ギャラガー、ケリー・ジェイクル 他

【スタッフ】
監督:アナ・ケンドリック

 

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