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『NOCEBO/ノセボ』思いが現実を変えるなら、この“偽薬”は呪(のろ)いか呪(まじな)いか。

この映画は、つまり―
  • 鑑賞注意!不快指数MAX!
  • 実際の事件に基づいた“パラサイト”ホラー
  • 本作はプラセボとなるか? それとも……

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◆配信中の注目作

『NOCEBO/ノセボ』

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文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

あなたは、魔法や超能力は存在すると思うか。何かを考えただけで、物や人に物理的な影響を与える方法が、この世にあると思うだろうか。「そんな夢(オカルト)のような力など、現実には存在し得ない」? いいや、幸い(残念ながら)存在すると断言できる。何か? 例えば、「ストレス」だ。

ご存じ、ストレスとは何かしらの出来事によって精神的にプレッシャー(圧力)がかけられている状態のことを言う。多くの方が心≒脳と捉えていると予想して話を進めるが、心に多大なストレスを抱えると、実際に自分の体に影響が現れる。多かれ少なかれ、誰もが経験したことのある事象だろう(想像妊娠などは端的な具体例と言える)。当たり前と言えば当たり前だが、よくよく考えてみれば非常に不思議だ。ちなみに、ストレスは元々物理学の用語で、外部的な圧力によって物体が歪んだり凹んだりしている状態を指す。ストレスの原因には心理的なものもあるが、「気温が高い」など物理的なものもある。心が物理的な影響を与えるのと逆に、物理的な原因も心に影響を与えるのだ。

関連して、ある症状の治療において、実際は何の効果もないはずの糖やでんぷん(偽薬)を効果的な薬と信じて飲むことで症状が改善する場合がある。「プラセボ(プラシーボ)効果」というやつだ。これは良い例だが、物事にはいつだって裏の面がある。反対に、偽薬に対する副作用へのおそれが強いと、症状が悪化する可能性もあるのだ。これこそが「ノセボ(ノーシーボ)効果」。同じ物質であろうと、それに対する思いの違いで得られる結果は大きく異なる。まさに、本作『NOCEBO/ノセボ』のテーマになっている興味深い現象である。

主人公クリスティーンは世界を駆け巡る有能なファッションデザイナーだったが、ある事件をきっかけに表舞台から去る。ショックから、朽ちた体にダニが群がる黒犬と、自分がそのダニに噛まれる幻影(?)を見て以降、原因不明の不調に襲われてしまうようになったのだ。体も自由に動かせなくなり精神は不安定に、物忘れもひどくなったクリスティーンの元に、ある日フィリピン出身の乳母ダイアナが訪れる。仕事を依頼した記憶はないがいつもの物忘れと思ったクリスティーンは、娘ボブスの世話のため彼女を雇う。疑いの目を向ける夫のフェリックスをよそに、クリスティーンは独特な民間療法で症状を和らげてくれる不思議な訪問者を信頼していくのだが……。

もう察していただいたと思う。はっきり言って、本作は非常に気色悪い。ホラー映画に対してはこれ以上ない褒め言葉ではあるが、見る人を選ぶのは間違いない。何せ、監督は『ビバリウム』のロルカン・フィネガンである。同作は、全く同じ外観の家が並ぶ奇妙な住宅地を訪れた夫婦が空間に閉じ込められ、その場に放置された、人間に見えるがどこか奇妙な赤ん坊を育てさせられる、といった不気味で寓話的なホラーだった。本作も、治療と呼べるか怪しいダイアナの呪術的な行為によってクリスティーンの体調は良くも悪くもなり、観客もそれに振り回される(アジア的なホラー描写は生理的に不快でイイ……)。そして『ビバリウム』同様、やはり嫌な家族ドラマでもある。現実に根ざしたホラーは、観客に逃げ場のない恐怖と不安を与えてくれる。

本作は、韓国映画の『パラサイト 半地下の家族』に似ていると言えるだろう。本作のダニが意味するものは何なのか。それを考えれば、誰にとっても他人事ではないと分かるはずだ。また実は本作は、2015年にフィリピンで実際に起こった「ケンテックス社」の事件に着想を得ているので、鑑賞後に一度調べてみていただきたい。気色悪いホラーではあるが、ある意味では、本作は“願い”でもある。腕にペンを押し付けただけなのに、熱したアイロンだと思い込まされた者が本当に大火傷を負った、なんて世にも奇妙な話も聞くが、果たしてこの“偽薬”はあなたの人生をより良くしてくれるのか。それとも、罪の炎で焼き尽くしてしまうのか――。

【ストーリー】
ファッションデザイナーとして名を馳せるクリスティーンは、夫のフェリックスと幼い娘のボブスとダブリン郊外で悠々自適に暮らしていた。ある日、仕事中にクリスティーンはダニに寄生された犬の幻影に襲われる。8ヶ月後、クリスティーンは筋肉の痙攣、記憶喪失や幻覚などを引き起こす原因不明の体調不良に悩まされていた。そんな彼女の前に、ダイアナと名乗るフィリピン人の乳母が現れる。彼女は雇った覚えのない乳母を最初は怪しむが、ダイアナは伝統的な民間療法を用いてクリスティーンの治療にあたり彼女の信頼を得ていく。やがてクリスティーンは民間療法にのめり込んでゆくが、それは一家を襲う想像を絶する悪夢の始まりだった――。

【キャスト】
エヴァ・グリーン、マーク・ストロング、チャイ・フォナシエ、ビリー・ガズドン 他

【スタッフ】
監督:ロルカン・フィネガン

 

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