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『ジェン・ブイ』漆黒の闇と鮮血により浮かび上がる白き星。グロテスクな星条旗の下に集う若きヒーローを描く、『ザ・ボーイズ』のスピンオフドラマ!

この映画は、つまり―
  • スーパーヒーローものに飽きたあなたにこそオススメ、若きヒーローたちの残酷青春物語
  • 何もかも間違っている描写ばかりなのに、最も正しいポリコレ作品!?
  • マーベルとDCに別れを告げる準備はできた?

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◆配信中の注目作

『ジェン・ブイ』(2023)

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文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

最近、スーパーヒーロー映画の勢いが落ちている。マーベルMCUは新章に突入し、DCは今後本格的に新章突入する予定だが、どちらも興行収入が振るわない。質は悪くなくても、だ。1年に映画や配信ドラマが数本と、はっきりいって供給過多のため「ヒーロー作品疲れ」を指摘する声もあり、追いかけるのを止めてしまった方もいるだろう。そんなあなたにオススメするヒーロードラマが…と書くとここまでの話が全て吹っ飛ぶが、確かに内容がぶっ飛んでいて、場外ホームランをかっ飛ばしてくれるのが『ザ・ボーイズ』とそのスピンオフドラマである本作『ジェン・ブイ』なのだ。…ああ、エログロ耐性のかなりある人にとっては、だが。

両作品の世界観は非常に分かりやすい。「スーパーパワーの持ち主≠スーパーヒーロー」だ。「腕力が強い=善い人」では絶対にないようにパワー自体に善悪はなく、問われるのは使い方。ただ、パワーを得るのは比較的簡単で、ヒーローのマインドを得るのはとてつもなく困難なのが問題だ。頑丈な肉体と稀有な能力を持った“ヒーロー”たちは、そこらの一般人など腕の一振りで肉塊に変えられる。そんな“ヒーロー”は、本当は腐敗した自己中心的なヤツらばかりながら、大企業ヴォート社は彼らをマネジメントして、スーパーヒーロー兼スーパースターとしてブランディングし儲けている。グッズで、映画で…配信プラットフォーム「ヴォートプラス」で。

『ジェン・ブイ』を見るにあたっては、必ずしも本筋の『ザ・ボーイズ』を予習する必要はない(ただしそちらも超絶面白い)。上記設定に加え重要なのが、この世界の“ヒーロー”は人工的に作られているということだ。パワーの源は、コンパウンドVなる薬物。聞き慣れないタイトルの『ジェン・ブイ(Gen V)』もそこから来ている…、いや、「ジェン・ヴィー」と呼ぶのが正しいだろう。本作の主人公は現代に生きる大学生で、いわゆるジェネレーションZ、略してGen Z(ジェン・ズィー)ことZ世代の若者たちである。

物語の舞台は次世代のヒーローを育てるゴドルキン大学で、人気と実力で決まるランキングの上位者はあのアベンジャーズやジャスティス・リーグに並ぶ最高のチーム「セブン」入りも夢ではない。だが一人前の大人すら悪用しているパワーを、半人前のSNS大好き大学生たちが正しく使いこなせるわけがない。清く正しいヒーローを目指す新入生の主人公マリーのような者もいるが、彼女に能力者なのは赤ちゃんの頃に両親が人体実験と同義であるコンパウンドV投与に同意したからに他ならない。しかもマリーの場合は血を自在に操る能力で、そのせいで過去家族は不幸になり、大学からは世間にウケないと評価されてしまう。この汚れた世界で、白いまま生きるのはほとんど不可能だ。

マリー周りからして残酷描写のオンパレードなのに、何と本シリーズはポリティカル・コレクトネスを遵守している。ポリコレは、現代の作品において避けて通れない話題だ。時には、性別や人種に関する描写が押し付けがましいと嫌われることもある。実際、マリーは黒人女性だし、ランキング2位のジョーダンは現実世界のトランスジェンダーをスーパーパワーとして解釈したような、男性と女性のどちらにもなれる能力の持ち主だ。ところが、ヴォート社や大学は“ポリコレ要素”をずる賢く利用し、ダーティな面を世間に気づかせないためのカモフラージュとして利用している。一体全体どの企業をパロっているのか皆目検討つかないが、このような一方的でなく相対的な描写によって、『ジェン・ブイ』は欺瞞的でない形で逆説的にポリコレを達成しているのだ。

マリーは血を使うためリストならぬ手の平カットを行い、ルームメイトのエマは小さくなれるがそのために何度も嘔吐しなければならないなど能力にもデメリットがあり、そのバランスも面白い。また、『ザ・ボーイズ』同様キャストのほとんどが無名ながら存在感があるし、俳優名もヒーロー名のようなインパクトがあって良い。マリー役のジャズ・シンクレア、エマ役のリジー・ブロードウェイ、ランキング1位の発火能力者ゴールデン・ボーイ役には一番有名であろうパトリック・シュワルツェネッガー(もちろんアーノルドの息子)、そして極めつけは女性ジョーダン役のロンドン・ソア。名前もすごいが、ソアの綴りは「Thor」、つまりマーベルのマイティ・ソーと同じである。本物のヒーローいるじゃん! 現在4話まで配信中だが、最初いけ好かなかったジョーダンはだんだん魅力的になっていく。

どんなにクズな悪役も良いキャラをしているので、単に過激な描写で他のヒーロー作品を圧倒しているわけではない。パロディの塊なのに、それが皮肉にも本当のヒーローとは何なのかをあぶり出している。決して邪道ヒーロードラマと侮ってはいけないのだ…。さあ、マーベル・DC作品では物足りなくなる体になる準備はできただろうか?

【ストーリー】
「ザ・ボーイズ」のスピンオフシリーズ「ジェン・ブイ」は、アメリカ唯一のスーパーヒーローのための大学を舞台にしたスリリングな新シリーズ。能力者である学生たちは、道徳の限界を試される。そして大学のランキングのトップになるため、さらにはヴォート・インターナショナルのエリート・スーパーヒーロー・チームであるザ・セブンに加わることを目指して競い合う。学校の暗い秘密が明らかになったとき、彼らはどんなヒーローになりたいか、選択を迫られる。

【キャスト】
ジャズ・シンクレア、リジー・ブロードウェイ、エイサ・ジャーマン、チャンス・パードモ、デレク・ルー、ロンドン・ソア、パトリック・シュワルツェネッガー、マディ・フィリップス 他

【スタッフ】
企画:クレイグ・ローゼンバーグ、エヴァン・ゴールドバーグ、エリック・クリプキ

 

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