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『Zola ゾラ』世界中の鼓膜を震わせたひとりの呟きが映画に。誰とでもフレンドになれる世の中なんだから、友達は選ぼう。

この映画は、つまり―
  • 原作はまさかのツイート!? 驚きの体験談をA24が映画化!
  • サスペンス…のはずが、なぜかおマヌケコメディ
  • 絶妙なバランス感覚で、ありがちなテイストに陥らないフレッシュな作風に

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◆配信中の注目作

『Zola ゾラ』(2023)

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文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

映画の原作となるのは、小説、漫画、ゲームなどが多い。その他のパターンで思い出されるのは、『電車男』のように匿名掲示板に投稿された話が基になる場合だ。時が経つのは早いもので、『電車男』が一世を風靡したのはもう約20年も前…とそんなことは置いておいて、掲示板のスレッドが“原作”になるのは今ではもう珍しくない。特にホラーの領域になるが、掲示板に投稿された恐怖の体験談はここ数年で続けざまに映画化されている。清水崇監督による『犬鳴村』に始まった「恐怖の村シリーズ」や、『きさらぎ駅』、今後公開が予定されている『リゾートバイト』や『ヒッチハイク』などもそうだ。では…ツイッターに投稿されたツイートが基の場合は?

本作『Zola/ゾラ』は、2015年にアメリカの黒人女性アザイア“ゾラ”キングが投稿した148のツイートが“原作”という、非常にイマドキな道筋を辿って映画化された。このツイートは当時米Rolling Stone誌に取り上げられ、著名人たちも反応し大きな話題を呼んだものだ。昼間はフーターズのウェイトレス、夜はストリッパーとして働いているゾラは、ある日フーターズに来た白人女性ステファニと意気投合し、ドカンと稼ぐためフロリダに行かないかと誘われる。ゾラは当日、なぜか恋人らしい白人男性デレクと高圧的な黒人男性Xを連れてきたステファニを見て嫌な予感がするも、車はそのままロードトリップに出発。案の定、別の意味でもトリップしてそうなステファニの言う金稼ぎの手段は実はダンスではなく、ゾラは危険な2日間を過ごす羽目になる。

見知らぬ土地で逃げることもできないゾラの緊迫したセクシャルなストーリーとは裏腹に、非常にラフでフランクな映像と編集、音楽が常にどことなくマヌケさを醸し出しており、本作は居心地の悪いコメディとなっている(特にデレクが不憫でかわいい)。ゾラを演じるテイラー・ペイジは、何と役作りのため3週間本当にストリップクラブで踊っていたようで、彼女自ら披露するポールダンスには圧倒的な説得力がある。ところが、その卓越したスキルはこのロードトリップでは何の役にも立たない。4人の間には男性・女性、白人・黒人のどちらが優位とも言い切れない複雑な上下関係ができあがり、それでも立場の弱い“新人”のゾラは機転を利かせて立ち回ろうとするが、事態はどんどん危険な方向に向かっていく。

『電車男』と同じく、ゾラの物語もどこまでが本当かは分からない(『電車男』には創作の疑いがあり、ゾラは少し話を盛っていると判明している)。だが実際、十分ありえそうな話だ。特に、ゾラと会ってすぐ友人ヅラし始めるステファニは、SNS上ですぐ「フレンド」になれる状況を体現しているようにも見える。そしてそこからあっという間に自分の知らない世界に繋がってしまう危険性も、今の世の中では無視できないことだろう。ステファニ役のライリー・キーオが、彼女を良くも悪くも悪意のないキャラクターとして演じているので、よりタチが悪い。

だが、自身も黒人女性であるジャニクサ・ブラヴォー監督は、登場人物の無自覚な差別を浮き上がらせつつ、「ただのストリッパーの自業自得」と捉えかねられない物語を、誰にも差別的な目線を向けずに絶妙なバランス感覚で本作を作り上げた。A24らしい、かなり個性的な仕上がりになっている。何とも縁起の良い名前を持つブラヴォー監督に、ここではこう言っておこう。ブラヴァー!

【ストーリー】
ウェイトレス兼ストリッパーのゾラはレストランで働いていたところ、客としてやってきたステファニと「ダンスができる」という共通点があることで意気投合し、連絡先を交換する。すると翌日、ステファニから「ダンスで大金を稼ぐ旅に出よう」と誘われ、あまりに急なことで困惑するも結局行くことに。これが48時間の悪夢の始まりだとは露知らず……。

【キャスト】
テイラー・ペイジ、ライリー・キーオ、ニコラス・ブラウン、コールマン・ドミンゴ、アリエル・スタッチェル 他

【スタッフ】
監督:ジャニクサ・ブラヴォー
脚本:ジャニクサ・ブラヴォー、ジェレミー・O・ハリス

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