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『モンタナの目撃者』暗殺者よりも恐ろしいのは自然。ありのまま、けれどありきたりじゃないアンジーの姿にうなれ！

この映画は、つまり―
  • 自然の強大さを実感する、迫力満点の映像
  • 予想通りにいかない人間描写
  • 期待すべきはその部分じゃないかも。見方を間違えないで！

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◆配信中の注目作 
『モンタナの目撃者』(2021)

Netflixで視聴する⇒こちら

文：屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

『モンタナの目撃者』は色々な意味でマーベラス(marvelous)な映画だ。監督のテイラー・シェリダンは、前作『ウインド・リバー』でジェレミー・レナーとエリザベス・オルセンに主演させたが、ご存じの通り、この2人はマーベル(Marvel)・シネマティック・ユニバース作品でそれぞれヒーローのホークアイとワンダを演じている。本作でヒロインを務めたアンジェリーナ・ジョリーも『エターナルズ』に、本作で“ヴィラン”役のニコラス・ホルトも、MCU作品ではないがマーベル・コミック原作の『X-MEN』シリーズに出演している。だが、マーベラスと言ったのはそれらだけが理由ではない。

過去の山火事で、炎に飲まれる人々を見ていることしかできなかったことがトラウマとなっているスモークジャンパー(山火事の初期消火隊)のハンナは、知ってはならない“秘密”を知ってしまった父親を殺され、自らも暗殺者兄弟に追われている少年コナ―と出会う。暗殺者とともに、彼らの放った火による山火事が再度ハンナを襲うのだが、大規模な森林のセットを実際に燃やして撮られたその映像の迫力には驚嘆する。しかしそれだけでなく、平均速度が時速10km超と、走っても追いつかれるほど燃え広がるのが速い炎には恐怖も覚える。

『ウインド・リバー』もそうだったが、テイラー・シェリダンは過酷な自然環境の中で生きる人々を描いてきた。同作では、本作とは正反対に、呼吸すると肺が凍るほどの極寒の雪山が舞台だった。ウインド・リバーは実在するインディアン居留地で、「大平原」を意味するワイオミング州に位置する。本作の舞台は邦題にもある通りモンタナ州(撮影はニューメキシコ州)で、その意味は「山」だ。「ウインド・リバー」自体も風の川という名だし、やはり人間は自然の中で生きてきたのだということを思い出させる。

山に放火したよそ者の暗殺者たちは自然をコントロールできると考えていたようだが、ハンナたちが利用するのは小さな焚き火だけだ。劇中、おびただしい数の雷が降り注ぐ地雷原の如き野原を進むというシーンがあるが、雷に打たれたハンナの体にはリヒテンベルク図形が浮かび上がる。その形は雷そのものであると同時に、木の枝のようでもある。現地に生きるハンナは、その身に自然を宿しているのだ。そして、狩人と獲物の立場が逆転するというのは自然界ではままあること…。

本作では自然と同様、人間もよく描かれている。現実では大スターであるだけでなく精力的に慈善活動に励んでいるアンジェリーナ・ジョリーが演じるのは、完璧超人ではないただの一般人(それが逆にヒーロー的だが)だし、冷酷な暗殺者たちですら作戦の費用をケチられたとボヤき、数々の証拠を隠滅できないまま追跡してくる。また、ただ守られるべき対象として登場しがちな妊婦のキャラクターが大きな活躍をするなど、お決まりを覆す新鮮でユニークな描写が観客を驚かせてくれる。

人間には自然(nature、ネイチャー)と成熟・成長(mature、マチュア)の2つの重要な要素がある。ハンナが遭遇したピンチは、トラウマ克服のチャンスにもなる。劇中には「川をたどれば町に着く」というセリフが出てくる。流れに逆らわず受け入れること、それが人間を成長させる鍵かもしれない。…ところで本作では、暗殺者に追われる原因となった“秘密”は単に話を進めるために置かれたもの、「マクガフィン」に過ぎない。それがテーマではないからだ。ポリティカルな部分に期待した方にはそのことを受け入れていただきたい。そうすれば、本作はあなたの人生の糧となってくれるだろう。

【ストーリー】
過去に壮絶な事件を“目撃”したことから大きなトラウマを抱える森林消防隊員のハンナは、ある日の勤務中、暗殺者による父の死を間近で“目撃”し暗殺者に追われる少年コナ―に出会う。彼は父親が命をかけて守り抜いた“秘密”を握るたった一人の生存者だった。ハンナは自分と同じく、“目撃者”となり傷ついたコナーを暗殺者から守るため戦うと心に決める。秘密を求めコナーの命を執拗に狙う暗殺者たちが刻一刻と迫る中、目前に広がるモンタナの大自然で未曾有の山火事が立ちはだかる。2つの脅威に行く手を阻まれる極限状態で、ハンナはコナーを守り戦い抜くことはできるのか――。

【キャスト】
アンジェリーナ・ジョリー、ニコラス・ホルト、フィン・リトル、ジョン・バーンサル、エイダン・ギレン

【スタッフ】
監督・脚本・製作：テイラー・シェリダン
脚本：マイケル・コリータ、チャールズ・リービット

屋我平一朗

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