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『メガロポリス』巨匠の情熱、執念、狂気。“とし”を重ねた先に生まれた未来とは。

◆今週公開の注目作

『メガロポリス』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

まずあなたに聞いておきたい。好きな「コッポラ」は誰だろうか? もし「ニコラス・キム・コッポラ(ニコラス・ケイジ)」と答えるなら、おそらく本作『メガロポリス』は全くあなた向きではない。というよりも、そもそも万人向けの作品ではない。86歳となった『地獄の黙示録』や『ゴッドファーザー』シリーズの巨匠フランシス・フォード・コッポラの最新作にして13年ぶりの新作であり、そろそろ最後の作品となってもおかしくないのだが、はっきり言って本作は賛否両論……いや、むしろ否の意見が優勢かもしれない。

しかし、野心作であるのは間違いない。一言で言えば、『メガロポリス』は現代のアメリカを2000年前の古代ローマに重ね、アメリカという世界的大国が今は繁栄しているとしてもこのままでは近い将来滅亡してしまうのではないか、と憂う内容である。アダム・ドライヴァー演じる主人公、ユートピア的な巨大都市メガロポリスの開発を夢見る天才建築家の名前がカエサル(シーザー)なのも、まさにと言った感じ。完全に寓話としてSFテイストに映像化しているので、物語の舞台となる架空の大都市ニューローマは近未来的でありながら古代ローマ的でもあるという、クラクラするようなビジュアルになっている。登場人物の服装も、建物の意匠も、古代ローマを描いた『グラディエーター』に出てきそうなほどだ。『グラディエーター』で国を治めていたマルクス・アウレリウス・アントニヌス帝は、ガイウス・ユリウス・カエサルよりも200年ほど後の人間だが。

カエサル周りの人間も古代ローマ時代の人物から名が取られており、映画の見た目は分かりやすいほどにアメリカ=古代ローマを表しているが、いざ見てみるとリアルとは正反対の描写と、演劇的で哲学的なセリフのオンパレードのために難解な印象を受ける。コッポラが長年培ってきた哲学観から来る、歴史上の偉人が遺した格言や芸術作品からの引用の応酬に、視覚に加え聴覚的にも頭がクラクラさせられる。さらに、SF要素としてカエサルは時間を止める能力を持っており、事実として本作は要素が多すぎてまとまりに欠けている(時間停止能力はあまり話に関わらないので、単に彼の天才性の表現と考えるべきかもしれない)。

だが、これは巨匠が誰にも忖度せずにやりたい放題した結果なのだ。何せ、1億2000万ドルもの資金を自分で工面して完成させたのだから。映画スタジオのもとで大作を撮る場合(それが普通だが)では絶対に生まれない作品がこの『メガロポリス』と言える。筆者は、本来芸術は見る者に気に入られるように作られるよりも、芸術家が作りたい物を作り、それを見る者がたまたま気に入ればそれで良し、気に入らなければそれも良し、というものだと思っている。そういう意味では、物議を醸す芸術はいかにも芸術らしい。なにはともあれ、コッポラ自身も実際のカエサルと同じようにルビコン川を渡ってしまったのだ。“賽は投げられた”。後は、興味本位でも良いから、少しでも多くの者がこの巨大都市を訪れるのを願うばかりである。

少なくとも、コッポラのメッセージは本作終盤で分かりやすすぎる形で示されるので、狐につままれたような気分で劇場を後にするのは避けられるだろう。大都市メトロポリスの連なりである巨大都市メガロポリス。そこに流れる人の川は絶えず変わりゆくが、その流れは未来永劫絶えずに済むのだろうか? 本作が将来的にタイムレスな傑作とされるかナンセンスなケッサクとされるかは、現代の我々には解けないミレニアム問題なのかもしれない……。

【ストーリー】
21世紀、アメリカ共和国の大都市ニューローマでは、享楽にふける富裕層と苦しい生活を強いられる貧困層の格差が社会問題化していた。市の都市計画局局長を務め、名門クラッスス一族の一員でもある天才建築家カエサル・カティリナは、新都市メガロポリスの開発を推進する。それは、人々が平等で幸せに暮らせる理想郷(ユートピア)だった。だが、財政難の中で利権に固執する市長のフランクリン・キケロは、カジノ建設を計画し、カエサルと真正面から対立する。また一族の後継を目論むクローディオ・プルケルの策謀にも巻き込まれ、カエサルは絶体絶命の危機に直面するが─―。

【キャスト】
アダム・ドライヴァー、ジャンカルロ・エスポジート、ナタリー・エマニュエル、オーブリー・プラザ、シャイア・ラブーフ、ジョン・ヴォイト、ローレンス・フィッシュバーン、タリア・シャイア、ジェイソン・シュワルツマン、キャスリン・ハンター、グレース・ヴァンダーウォール、クロエ・ファインマン 他

【スタッフ】
監督・脚本・製作:フランシス・フォード・コッポラ

 

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