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『メイデン』失うとむしろ重くなる。それこそが本当に大切なもの。

◆今週公開の注目作

『メイデン』

 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

「青春映画」という言葉に、あなたはどのようなイメージを抱くだろう。晴れ渡った空のように、青々とした爽やかさに包まれた映画? それとも、澄み切った海のように、瑞々しさに溢れた映画? いや、実際の青春にはもっと様々な形があるはずだ。そう、ブルー(憂鬱)な青春だって。本作『メイデン』は、一般的な若者のイメージである「元気いっぱい人生を謳歌する者」ではなく、そのような自分とは違う生き物の群れに馴染めないはぐれ者たちに焦点を当てた作品になっている。

皆の前では大人しくとも、決まった相手の前では自分をさらけ出せるタイプの人がいる。他の“ヒト”とは、話す言語が違うのだ。例え傍からは、同じ英語を喋っているように見えたとしても。主人公のコルトンもそのひとり。同級生の少しワイルドなカイルとだけは特別な絆で結ばれており、普段スケボーをしたり見知らぬ道を探検したりして遊んでいる。カイルだけが、コルトンの隠された面を知っている。しかしある日、線路の上を歩いていたカイルはコルトンの必死の呼びかけも空しく、列車に轢かれて死んでしまう。列車が同じレールの上を走り続けるように、同じような毎日が続いていくのだと思っていた。だが、自分たちは列車ではない。それに弾き飛ばされるただの憐れな石ころに過ぎなかったのだ。そうして、コルトンのある一面を唯一無二の角度から覗き込む親友はいなくなり、再びコルトンは意思疎通のできないヒトの群れに囲まれた……。

明るく爽やかな、光り輝く青春のイメージとはまるで違う。若さとは、様々なものを手にしていく段階だが、本作は若さゆえに失う(喪う)ものに光を当てている。当たり前にあり続けると思っていた誰か、その関係性、または自分の身体の一部など、青春は何かを失い続ける時期でもあったのだ。思い返せば誰しも、大切な存在を喪いはせずとも、学年が上がったり学校が変わったりする度に新たな友人を得て、これまでの友人を失ってきたのではないだろうか。そしてトリッキーなことに、主人公はコルトンひとりだと思っていると、後半は失踪中と言われていたホイットニーの視点に切り替わる。するとリアリティの境界も揺らぎだし、寓話的な雰囲気まで醸し出される。

誰も見向きもしないような、列車に跳ね飛ばされた小石同士がぶつかり、火花が散る。その輝きが、“ふつうのヒト”にもてはやされるような宝石のそれに劣ると誰に断言できよう? ダイヤモンドだって、引っ掻いて傷つかずとも、ハンマーで叩けばいとも容易く割れてしまうのだ。意志の硬さは見た目では測れない。アート色の強い作品で説明もほとんどないために、本作はかなり人を選ぶのではないかと思う。それこそ、本作との共通言語を持たない“ヒト”には全く合わないだろうが、カイルとコルトンのような絆を本作に感じられれば、かけがえのない一本になる可能性もある。浅く広く受け入れられる映画より、狭く深く突き刺さる映画を求めているのなら、劇場で鑑賞する価値は大いにあるだろう。似たような他の“人”たちに囲まれながら。

【ストーリー】
カイルとコルトンは、カルガリーの郊外に住む高校生。親友同士のふたりは住宅地をスケートボードで駆け抜けたり、渓谷で水遊びに興じたりと、気の向くままに日々を過ごしている。夏休みが終わりに近づいたある夜、立入禁止区域の鉄道の線路に侵入したカイルに惨たらしい出来事が降りかかる。その頃、同じ高校に通う少女ホイットニーが行方不明になり、くしくもコルトンが渓谷の岩場で拾ったホイットニーの日記帳には、学校での人間関係に悩む彼女の切実な心情が綴られていた。はたしてホイットニーの身に何が起こり、彼女はどこへ消えたのか。孤立したコルトンは、どうすれば心の空洞を埋めることができるのか。そして、まだ現世をさまよっているかもしれないカイルの魂の行く末とは……。

【キャスト】
ジャクソン・スルイター、マルセル・T・ヒメネス、ヘイリー・ネス 他

【スタッフ】
監督・脚本:グラハム・フォイ
撮影:ケリー・ジェフリー
編集:ブレンダン・ミルズ
美術:エリカ・ロブコ
プロデューサー:ダイヴァ・ザルニエリウナ、ダン・モントゴメール
原題:The MAIDEN
提供:クレプスキュール フィルム、シネマ サクセション
配給:クレプスキュール フィルム
[2022年/カナダ/英語/カラー/16mm/ヴィスタ/117分]

公式サイト:https://maiden.crepuscule-films.com/

 

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