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『ハッチング ―孵化―』それは光の中の闇か、闇の中の光か。幸福度1位のフィンランド発、残酷思春期ホラーがここに孵る。

◆今週公開の注目作

『ハッチング ―孵化―』

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

 

多くの方は北欧に対し、フィヨルドやオーロラといった雄大で美麗な自然風景や、充実した社会保障制度、オシャレな家具などから平和で穏やかな、“完璧”な印象を持っているかもしれない。確かに、北欧諸国は世界幸福度ランキングで上位にランクインすることが多い。しかし実際は、歌詞も含め過激なヘビーメタルの他、昼でも暗い極夜と夜でも明るい白夜にさらされる特殊な環境を一因とするうつ病で有名な一面がある。そして、日本では「北欧ホラー」と呼ばれる特徴的なホラー映画の産地でもある。今回紹介するのは、世界幸福度ランキングにおいて直近5年連続で1位となったフィンランドのホラーだ。

新体操に打ち込む少女ティンヤは、ネットで世界に“幸せな家族像”をアピールしたい母親から大きな期待をかけられている。その抑圧に耐える生活の中で、あるとき森で鳥の卵のようなものを見つけ、それを孵すため温め始めるが…。この家族も一見温かそうだが、映し出されるフィンランドの景色が対照的に寒々しいのも相まって不穏さが画面を支配する。だんだん大きくなる卵の正体は何なのか。自然と密接に関わる環境のため「人間が動物のように卵を育てる」というアイディアが生まれたのか、この奇妙な光景はある意味童話的でもある。つまりは、残酷だということだ。

北欧ホラーでは、肉体の変容を不気味に描く作品が散見される。いわゆるボディ・ホラーと呼ばれるジャンルだが、これは主人公を思春期のキャラクターとして描く場合に非常に相性が良い。人間が、本当に肉体の変容を体験する時期だからだ。そして、肉体の変化は精神にも影響を及ぼす。…ちなみに、人工的に鳥の卵を孵化させるには、38度ほどの温度で温め続ければならないらしい。人間で言えば熱のある状態だ。発熱は体が身を守るための防衛反応である。さらに言えば、「ストレス」とは元々、圧力がかけられて物体が歪んだ状態を指す物理学の用語だ。指でつままれたゴムボールをイメージすると分かりやすい。楕円形に歪んだそれは、ティンヤが見つけた“何か”に似てないだろうか? 柔らかいゴムボールなら自ずと元の形に戻ろうとするが、それがもし硬いものだったとしたら…。

フィンランドの自殺率は、自殺が大きな問題となっている日本とそう変わらないと言われている。世界的には幸福に見えるフィンランドも、そこに生きる人々の生の感情を取り出してみれば実情は違うのかもしれない。それは、ティンヤらのような「幸福に見える家族」の場合も同様だ。その家族像は、「幸福への強迫観念」というストレスによって歪んでいるのかもしれない。本作は遥か彼方の国の映画だが、誰もが経験する思春期の、誰もが追い求める幸福についての物語でもあり、共感しない人はいないだろう。日本人も観るべき内容だ。ストレスによって自身から異形の怪物を産まないためにも、しかし、今の環境から“殻を破る”ためにも。

【ストーリー】
北欧フィンランド。12歳の少女ティンヤは、完璧で幸せな自身の家族の動画を世界へ発信することに夢中な母親を喜ばすために全てを我慢し自分を抑え、新体操の大会優勝を目指す日々を送っていた。ある夜、ティンヤは森で奇妙な卵を見つける。家族に秘密にしながら、その卵を自分のベッドで温めるティンヤ。やがて卵は大きくなりはじめ、遂には孵化する。卵から生まれた“それ”は、幸福な家族の仮面を剥ぎ取っていく…。

【キャスト】
シーリ・ソラリンナ、ソフィア・ヘイッキラ、ヤニ・ヴォラネン ほか

【スタッフ】
監督︓ハンナ・ベルイホルム

原題『Pahanhautoja』
配給︓ギャガ
© 2021 Silva Mysterium, Hobab, Film i Väst

公式HP︓https://gaga.ne.jp/hatching/
公式Twitter︓https://twitter.com/Hatching0415

2022年4月15日よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国にて公開

 

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