MOVIE MARBIE

業界初、映画バイラルメディア登場!MOVIE MARBIE(ムービーマービー)は世界中の映画のネタが満載なメディアです。映画のネタをみんなでシェアして一日をハッピーにしちゃおう。

検索

閉じる

『啓示』人は何のために産まれ、生き、そして死ぬのか?

この映画は、つまり―
  • 『新感染』の監督による、「信じる心」を巡るサスペンス
  • 人は“無意味”に耐えられない
  • 啓示は黙示へ……

記事を見る

◆配信中の注目作

『啓示』

Netflixで視聴する⇒こちら

 

文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

あなたは神を信じるだろうか? どの宗教の神でも、仏でも構わない。空飛ぶスパゲッティ・モンスターでも。または、そのような存在などどこにもいないと信じているだろうか? どちらでも良いが、どちらにしても結局は似た者同士。物事への意味付けの仕方が違うだけだ。九死に一生を得るような体験をしたとして、生き延びた理由は神から授かった使命があるからか、限りなく低い可能性を掴み取る強運に恵まれたからか、はたまた別の理由なのか。考え方の方向性が異なるだけで、同じように何かしらの意味を求めているのだ。

本作のタイトルにある「啓示(リベレーション)」とは、神から何らかの形で思いも寄らない“真理”が示されることを意味する。隠されていたものが明らかにされる、というニュアンスで、よく知られる「黙示(アポカリプス)」と意味は同じだ。主人公であるソン牧師は、世の中の全ては神の思し召しだと信じている。何が起こっても、神の深謀遠慮によるものなのだから受け入れなければならない。神に貢献するため信者を増やし、より高い位を目指す彼は、教会に通う女児を追いかけてきた前科持ちの性犯罪者の男すら受け入れようとするが、自分の子どもが失踪してから信念が揺らいでしまう。ところが、ソン牧師の行く手には幾度となく神が現れ、彼を光指す方へ導いていく(……と、ソン牧師の主観ではそのように感じるだろう)。

対して、この性犯罪者にかつて妹を襲われ、憎しみを抱いて事件の捜査にあたる刑事のヨニを突き動かすのは神ではない。彼女にしか見えない妹の霊であり、贖罪に生きるヨニは出口の見えない真っ暗闇のトンネルの中にいる。対照的な生きる意味を持つソン牧師とヨニは、その後の道も真逆になるのだが、彼らを見る我々観客もやはり人生に何らかの意味付けをしているはずだ。神を信じていない(ただし「絶対にいない」とも思っていない)筆者に言わせれば、人間が産まれたことに意味はない。正確に言えば、はじめは誰によっても意味付けされていない。その“無意味さ”は、神を信じる、いや信じたい者をひどく不安にさせるだろう。しかし、だからこそ自分で好きに意味を付けられるのだ。それこそが人間の最大の長所だと思う。だが、最大の短所にもなりうると本作は描いている。

神の言語は難解だ。啓示は必ずしも文字に頼らない。だからこそ、何を啓示と思うか、それの意味する内容が何なのかは、啓示を受けたと感じた者によって意訳される。自分の中で完結する分には良いかも知れないが、場合によってはまさにアポカリプス(終末)を呼ぶ。月のウサギを追う者の行く末は不思議の国などではなく、光も空気もない虚無の世界だ。監督はスタイリッシュ・ゾンビホラー『新感染 ファイナル・エクスプレス』のヨン・サンホ(小栗旬と蒼井優共演で東宝の特撮映画『ガス人間第一号』をリブートするドラマシリーズの脚本・製作総指揮にも決まっている)。彼は本作で、考えるのではなく信じる、もとい思い込むことしかしない、思考停止したある種の“ゾンビ”人間を描いてみせた。啓示VS刑事という冗談のような構図だが、誰にとっても他人事ではない。無意味なものに意味を見出そうとする人間の性は、容易に誰しもを思考の檻(ケージ)に閉じ込めてしまうのだから……。

【ストーリー】
神の啓示を信じる牧師と過去の幻影に苦しむ刑事。失踪事件の背後に潜む真実を追うふたりはやがて、内なる悪と対峙することとなる。

【キャスト】
リュ・ジュンヨル、シン・ヒョンビン、シン・ミンジェ 他

【スタッフ】
監督:ヨン・サンホ
脚本:ヨン・サンホ、チェ・ギュソク

 

★配信エンタの過去記事はこちら

『終わらない週末』神が世界を創造し終えた週末から世界が終わっていく。世にも静かで美しいアポカリプティック・スリラー。

『PIGGY ピギー』彼は悪魔の殺人犯、それとも白馬の王子様?これはホラーかラブストーリーか。

『マーダー・イン・ザ・ワールドエンド』地の果てでひとつ、またひとつと個々の世界が終わっていく。Z世代の探偵は世界の崩壊を止められるか?

『レンフィールド』”虫食い下僕”ニコラス・ホルトVS”パワハラドラキュラ”ニコラス・ケイジ!ニコラス対決を制するのは誰だ!

『ザ・キラー』“完璧”は時に人を退屈させる。しかし“完璧”に生きられる人間などいない。

バックナンバー