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『ジェリーの災難』 あなたも絶対……、いや、“もしかしたら”騙される。

◆今週公開の注目作

『ジェリーの災難』

 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

本作『ジェリーの災難』を紹介するのは大変難しい。なぜならば、少しでも何かを言おうものなら即ネタバレとなってしまうからだ。はっきり言って、公式のあらすじでさえ知らないまま見た方が良いのではと思う……というか、筆者自身が何も知らずに見たかったと思っているくらいだ。しかし何も情報がなければ、有名人が全く出ていない本作にたどり着くことも中々ないだろう。そのようなジレンマに陥っている。仕方がないので、極力核心には触れないように紹介していこう。

邦題に特にネタバレはないが、原題からは本作がどういった作品なのかが分かる。『Jerry Starring as Himself』……つまり、「ジェリーが自分役で主演」した映画である。ジェリーは、1970年代に台湾からアメリカに移住した、実に普通のおじいさんだ。妻と離婚はしてしまったが仕事は定年まで勤め上げ、老後の心配はないほど貯蓄もある。不安があるとすればすでに成人している3人の息子の将来のみ……、本当にどこにでも、日本にもごまんといそうなおじいさんである。しかし、そんな平和な日常がある日一変する。中国警察から電話があり、ジェリーの口座が国際的犯罪組織によってマネーロンダリングに使われ、ジェリー自身も容疑者とされているというのだ。もちろん全く身に覚えはないものの、このままだと逮捕は必至。ジェリーは警察の提案で、スパイとして犯罪組織に対する捜査に協力を求められるが……?

正直犯罪に巻き込まれるより、中国警察に目を付けられる方が怖いのだが、事実は小説よりも奇なり。ともかく平凡だったジェリーの第一の人生が終わり、第二の人生はいきなり波乱万丈なものになった。ジェリーを“演じる”ジェリー・シューは実際にこの経験をし、自分で脚本を書いてそれを映画にしたわけだ。自分役だとしても、俳優でもない人間が上手く演じられるものだろうか? ジェリーの場合、答えはイエスだった。作りとしてはクリント・イーストウッド監督の、実際のテロ事件を当事者本人に再現させた『15時17分、パリ行き』に似ているだろうか。ドキュメンタリー的な面はありつつ一応劇映画的なルックの本作だが、演技はドキュメンタリーかと思うほど自然なのだ。本作の冒頭で、ジェリーは若い頃演技に興味があったと明かされる。本作の完成は図らずも、本人の数十年越しの夢の成就となったのだ。

いわば“再現ドラマ”ながら、非常にハラハラさせられる不思議なスパイサスペンスであり、哀しきコメディでもあり、温かいホームドラマでもある。禍福は糾える縄の如し、幸と不幸は裏表の関係なのだなあとしみじみ感じる一作だ。「人生はクロースアップ(大写し)で見れば悲劇だが、ロングショット(遠写し)で見れば喜劇だ」というチャップリンの名言があるが、ジェリー本人にクロースアップした本作は悲劇的なのかと言われれば、半分正解で半分不正解なのだろう。もちろん、観客ひとりひとり違う感想を持つだろうが、老スパイとなった彼はジェームズ・ボンドやイーサン・ハントのようになれるのだろうか? 事の顛末を何となくでも予想できなかった方にこそ、是非とも本作を見ていただきたい。いつ“主人公”になってしまうともしれないのだから。

【ストーリー】
長年アメリカに住み、この地で成功することを夢見てきたジェリーは、いまや妻と離婚し、定年退職。3人の息子とも離れて、独りで暮らしていた。ある日、そんな彼のもとに中国警察から緊急の電話があり、国際的なマネーロンダリング事件の捜査で自身が第一容疑者になっていることを知らされる。ジェリーがフロリダに持つ銀行口座を通して128万ドルが違法に移動されているというのだ。逮捕の上、中国に強制送還すると告げられたジェリーは、中国警察のスパイとして事件の捜査に協力させられるはめに。その後、数週間、銀行を監視して写真を撮る、極秘の送金を行う、さらには隠しマイクを着けて窓口係を探るなど、国際的なマネーロンダリング事件に対する捜査を手伝うのだったが…。数カ月の間、この潜入捜査について隠していたものの、ジェリーはついに家族にすべてを打ち明ける。そして家族は、驚愕の選択をすることに――。

【キャスト】
ジェリー・シュー 他

【スタッフ】
監督:ロー・チェン
脚本:ロー・チェン、ジェリー・シュー

公式HP:https://jerry-movie.com/

 

 

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