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『メイ・ディセンバー ゆれる真実』5月に12月の気持ちは、12月に5月の気持ちは分かるのか。

◆今週公開の注目作

『メイ・ディセンバー ゆれる真実』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

ディセンバー(December)とは、言うまでもなく「12月」を指している。しかし妙なことに、語源であるラテン語の「decem」の意味は「10」、つまり文字通りの意味は「10月」なのである。一体なぜか? 今の暦の元になった古代ローマ帝国の暦では、月は12ではなく10しかなかった。今で言う3月が1年の始まりだったのが、後に「1月」と「2月」と呼ばれる新たな月が増え、従来の月は2か月ずつ後ろにずれた。そのため、セプテンバー(September)は7(septem)月なのに9月に、オクトーバー(October)は8(octo)月なのに10月に、ノベンバー(November)は9(novem)月なのに11月になったのだ。

さて、本作のタイトルにある「メイ・ディセンバー」とは直訳で「5月・12月」となるが、これは年齢の差があることを示す表現で、「メイ・ディセンバー・ウェディング」と言えば「年の差婚」を意味する。一生を1年に例えた時、5月は春で新たな始まりを感じさせる一方、12月は厳しい冬で年の終わり。年上の方に対して無慈悲な言い方にも聞こえるが、まさにそのような事件が1996年にアメリカで実際に起こった。当時34歳の小学校教師であったメアリー・ケイ・ルトーノーが、教え子で当時12歳だったヴィリ・フアラアウに手を出したのだ。それだけならシンプルな児童への性犯罪だったのだが、ルトーノーは逮捕後に刑務所内で出産、後にふたりは結婚した。こうして、性犯罪は人々の目に“禁断の愛”のようにも映り始めた。悲劇のヘロイン……失礼、ヒロインの誕生だ。

この事件はこれまでに複数回映画化されている。本作のトッド・ヘインズ監督が『キャロル』で組んだケイト・ブランシェットが出演した『あるスキャンダルの覚え書き』も、その中の1本だ。本作も、登場人物の年齢や職業を多少変えてあるが、やはりルトーノーの事件をモチーフにして作られている。ただし舞台となるのは事件から23年後で、事件についての映画が作られようとしているところ、という捻った設定だ。36歳の時に13歳の少年ジョーに手を出した女性グレイシーをジュリアン・ムーアが、そしてグレイシーの役を演じるため彼女の横で取材・役作りをする36歳の女優エリザベスをナタリー・ポートマンが演じている(ジョーも36歳になっている)。主人公のエリザベスがグレイシーとどうにか同化しようとする立場なので観客もグレイシーの心を覗き見ようとするが、仄暗き深淵に答えはなかなか見えない。答えらしきものが提示されても、本当にそれが真実かは分からない。

本作では配役の妙が光っている。ポートマンの代表作と言えば幼少期に出演した『レオン』。中年の暗殺者レオンと12歳の少女マチルダの関係には不適切な面があると、大人になったポートマンは批判している。『ロリータ』への出演も断った過去があり、当時のポートマンは世界中からロリコン的視線を受けていたという。また、ムーアは『羊たちの沈黙』の続編『ハンニバル』でジョディ・フォスターに代わり主人公クラリス・スターリング捜査官を演じたが、だいぶ年上の異常殺人犯レクター博士から“恋愛”感情を向けられる(原作ではめでたく“成就”する)。ちなみに、フォスターもまた幼少期に出演した『タクシードライバー』などの影響でポートマンと同様の体験をした。

“運命の相手”や“一目惚れ”はいついかなる時においても美談となり得るのか。少なくとも、ルトーノーの事件は男女が逆だったなら全く違う扱われ方をしていただろう(とは言え、一昔前までは『レオン』的“ロマンス”を美しいものとして描く映画はいくらでもあったが)。社会的に性別を超越することができるようになってきた現在においても、人間はまだ年齢を超越できていない。全ての人に平等に与えられているもののひとつは、「時の流れの速さ」だ。互いに生きている限り、後に生まれてしまった人は先に生まれた人に追い付くことは絶対にできない、人生という名の絶望的なレース。しかし最近では、体と心の年齢が乖離していると感じる「トランスエイジ」なる人々も現れているようだ。トランスジェンダーを認めるのであれば、トランスエイジも認めるべきなのだろうか?

また、ふたりの間に大きな知能指数の差があったら? 『アイ・アム・サム』で7歳相当の知能しか持たない中年のサムは、娘のルーシーと同じ7歳児と愛を育むことが許されるのか? ルトーノーやグレイシーの真実は、特定の場合においては正当化されるものなのだろうか? どのような場合であれば我々は納得するのだろうか? 「ディセンバー」、見えるものが真実とは限らない。ルトーノーとフアラアウは、少年フアラアウが生きたのと同じ12年間の結婚生活の後に離婚し、ルトーノーは2020年にがんでこの世を去った。フアラアウが事件当時のルトーノーに追い付いた時、また将来ルトーノーに追い付いた時、何を思うのだろう。ともあれ、これだけは真実と言える。「永遠に続く愛などない」。メイビー?

【ストーリー】
当時36歳の女性グレイシーはアルバイト先で知り合った13歳の少年と情事に及び実刑となった。少年との子供を獄中で出産し、刑期を終えてふたりは結婚。夫婦は周囲に愛され平穏な日々を送っていた。ところが23年後、事件の映画化が決定し、女優のエリザベスが、映画のモデルになったグレイシーとジョーを訪ねる。彼らと行動を共にし、調査する中で見え隠れする、あの時の真相と、現在の秘められた感情。そこにある“歪み”はやがてエリザベスをも変えていく……。

【キャスト】
ナタリー・ポートマン、ジュリアン・ムーア、チャールズ・メルトン 他

【スタッフ】
監督:トッド・ヘインズ

 

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