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『レリック ―遺物―』誰も無関係ではいられない。恐ろしくも愛に満ちたアートホラー。

◆公開中の注目作 
『レリック ―遺物―』

この作品は、ある実在の病をテーマに描いたホラー映画だ。その病は発症の原因によって様々な種類に分かれるが、特殊なタンパク質が脳の神経細胞を減少させるタイプのものの場合、現代医学では根本的治療は不可能。症状が進行すると、当たり前にできたことが段々と困難になる。例えば、今日の日付だけでなく、季節すら見当がつかなくなる。自分の家にいるのに、どこにいるか分からなくなる。「お母さん」と呼びかけてくる人物を見ても、誰なのか把握できなくなる。暴力衝動を抑えきれず、ズボンの履き方も忘れ、ありもしないものが見えるようになる。高齢の方ほど発症しやすく、2025年には高齢者の約5人に1人がこの病になると予測されているが、それより若い人でもすでに3万人以上にこれらの症状が現れている。この病についてご存じだろうか? 「認知症」というのだが……。

本作には3人の女性が登場する。認知症の老女エドナ、その娘のケイと孫のサムだ。長らく会っていなかったエドナが失踪したことから物語は始まる。ケイとサムが目にするエドナ宅に充満するのは死の匂いだ。電気もつけず真っ暗で、壁や床にはカビか何かの黒いシミが広がっている。冒頭で画面に映る皿に盛られた腐った果実は、16~17世紀に北ヨーロッパで盛んに描かれた静物画「バニタス」を思わせる。ラテン語で「虚しさ」を意味するこれらの絵画は、同じくラテン語の警句「メメント・モリ(死を忘れるな)」と関連しており、人生の空虚さを描いたものだ。

監督のナタリー・エリカ・ジェームズは日系オーストラリア人で、アルツハイマー型認知症で日本人の祖母に孫と認識されなかった悲痛な経験から本作のアイディアを思いついた。祖母を投影したと思われるエドナは、以前の記憶を失い、人格を失い、ついには人としての体まで失っていく……。人がモンスター、”異物”に変貌するのはホラー映画にはよくある展開だが、本作でエドナはただ単に理解不能で恐ろしい存在とは描かれていない。それもそのはず、監督が祖母に対して感じたのは恐怖心ではなく、「もっと会いに行けば良かった」という罪悪感と後悔の念だったからだ。主要人物が女性ばかりなのは、介護の場に男性が少ないことを示唆している。「メメント・モリ」とは、「カルペ・ディエム(今を大切にしろ)」という格言の裏返しでもある。本作を観て、今家族に対して何ができるのかをじっくり考えてみてはいかがだろう。

 

文:屋我平一朗(ホラーが主食の映画ブロガー)

【ストーリー】
森に囲まれた家でひとり暮らしをする老女エドナが突然姿を消した。娘のケイと孫のサムが急いで向かうと、誰もいない家には、彼女が認知症に苦しんでいた痕跡がたくさん見受けられた。そして2人の心配が頂点に達した頃、突然エドナが帰宅する。だが、その様子はどこかおかしく、まるで知らない別の何かに変貌してしまったかのようだった。サムは母とともに、愛する祖母の本当の姿を取り戻そうと動き出すが、変わり果てたエドナと彼女の家に隠された暗い秘密が、2人を恐怖の渦へと飲み込んでゆく……。

【キャスト】
エミリー・モーティマー、ロビン・ネビン、ベラ・ヒースコート

【スタッフ】
監督:ナタリー・エリカ・ジェームズ

配給・宣伝:トランスフォーマー

公式サイト:https://transformer.co.jp/m/relic/

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