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『サイレントナイト』俺の代わりに、この銃弾がお前を糾弾する。

◆今週公開の注目作

『サイレントナイト』

 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

アクション映画では、その名の通りセリフよりもアクションこそが何よりも雄弁に物語る。会話劇(対話劇)の対義語がアクション映画と言っても過言ではなく、本作『サイレントナイト』はまさに会話劇の真逆にある。なぜなら、劇中のセリフを全て合わせても1分にも満たないのではないかと思えるほどだからだ。優れた映画には名言が付き物ではあるが、映画は元々サイレントが当たり前だったわけで、セリフがなくとも強く感情移入し引き込まれる作品は作れる。

『サイレントナイト』とは、とても皮肉なタイトルだ。ギャングが毎日のように暴れまわっている町で暮らしている主人公ブライアンは、あるクリスマス・イブの日に自宅の庭で幼い息子テイラーと遊んでいたところ、ギャングの抗争の流れ弾でテイラーを喪う。憎しみに駆られてギャングを追うも返り討ちに遭い、喉を撃ち抜かれてしまう。そしてどうにか九死に一生を得るが、二度と喋ることはできなくなってしまうのだ。妻のサヤのサポートにも心は動かず、ブライアンを突き動かすのは在りし日のテイラーの笑い声だけ。ブライアンは1年後のクリスマス・イブにギャングを皆殺しにする覚悟を決め、必死に戦闘の訓練を始める。荒ぶる心と、憎きギャングどもに静寂をもたらすために。

本作は声を失ったブライアンに寄り添うように、彼自身はもちろん他のキャラクターもほとんど喋らない。しかしブライアン役のジョエル・キナマンの表情の演技が絶品で、何を考えているかは手に取るように分かる。復讐が始まるまでにもかなりの尺が割かれており、非常に丁寧にブライアンの苦悩を描いていく。いざリベンジが始まっても、1年前まであくまで彼はただの父親だったので、圧倒的強さはない。相応に重症を負いながら、相手にはさらなる重症を追わせていく。一度死んだ命、敵を討てるならここで燃え尽きても後悔はないのだ。セリフがない分、ジョン・ウーらしいかなりクセの強い映像で、実に痛そうなバイオレンス・アクションが展開されていく。……というか、ジョン・ウーってもう78歳なのか!? 全くそうは思えない。

言ってしまえば、生きている妻を放ったらかしにして死地に赴く男のエゴに寄ったストーリーではあるので、現代的な目線からは少し古くさいようにも感じられる。だが、過去にしか生きられないブライアンの瞳から漂う悲哀は尋常ではない。カットを割らずに舞台転換するかのように時間経過を表す演出が何度かあり、幸せの絶頂から絶望のどん底へ落ちる様をシームレスに表現しているため、観客が感じる喪失感もまやかしとは思えないほどだ。しかし、それで良い。我々までもが絶句してこそ、この“静かなる夜”が完成するのだから。

【ストーリー】
幸せな一日になるはずだったクリスマス・イブのその日、ギャング同士の銃撃戦に巻き込まれた男は、目の前で愛する我が子の命を奪われる。自らも重症を負った男は、なんとか一命をとりとめたものの声帯を損傷。絶望を叫ぶ声すらも失ってしまう。声なき男の悲しみはやがて憎悪へと変わり、悪党どもへの復讐を決意するのであった。ギャング壊滅の日は次の12月24日。聖なる夜に、誰も観たことのない壮絶な復讐劇が幕を開ける。

【キャスト】
ジョエル・キナマン、スコット・メスカディ、ハロルド・トレス、カタリーナ・サンディノ・モレノ 他

【スタッフ】
監督・製作:ジョン・ウー

公式サイト:https://klockworx.com/movies/silentnight/

 

 

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