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『スマイル2』 怒って死ぬ。哀しくて死ぬ。安楽に死ぬ。それらがあり得るなら、もちろん…

この映画は、つまり―
  • 恐怖の「笑顔」ホラーの第2弾!
  • 主人公が苦しみながら周りに誤解され続ける強烈な共感性羞恥
  • 観客を退屈させないアイディアと緊張感に満ちた怪作!

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『スマイル2』

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文:屋我 平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

何かを伝えたい時、ストレートにそれを言うよりも、真逆のメッセージを送った方が効果的な場合がある。映画で例えると、よく言われるのは『時計じかけのオレンジ』で主人公が老人と女性に暴力を振るいながら名曲「雨に唄えば」を口ずさむシーンだ。元のミュージカル映画『雨に唄えば』の中で歌われるシーンはこれ以上ないほど爽快なのだが、『時計じかけのオレンジ』ではただでさえ胸糞悪い場面において不快さがより際立つようになっている。そしてそれはホラー映画も例外でないことを1本の映画が示した。それが1作目の『スマイル』だ。

他人を幸せにさせるはずの「笑顔」が見る者を恐怖のどん底に突き落とす、非常にアイコニックなホラーだった。実際、野球場などで中継中のカメラに向かって不気味な笑みを向ける仕掛け人を立たせるという前代未聞のプロモーションでも話題になった。人間は笑顔の人を見ると、自分も笑顔になってしまう。それが普通だ。しかし、『スマイル』の中でそれをやってしまうと一巻の終わり。作中で不気味に笑う人物は、ほどなくして自殺してしまう。しかも、目撃者にトラウマを残すようなグロテスクさで。そして目撃者は、笑う自殺者の幻影を見たり心身のコントロールを奪われたりして1週間もせずに自殺するのだ。この“呪い”は次の目撃者に引き継がれ、どんどん連鎖していく。

筆者にとって一番怖いのは、主人公が精神障害の種を抱えており、怪事件に遭遇したストレスでその種が芽吹き始める、というニューロティック(ノイローゼ的)なホラーだ。『ヘレディタリー 継承』、『ダニエル』、『ロッジ -白い惨劇-』、『パーフェクトブルー』……。現実的に考えると精神障害はいつ誰が発病するとも知れないし、発病してしまえば現実と妄想の境は曖昧になる。そして最悪なのは、映画では本当にナニカが主人公を襲っていたとしても、周りの人間に信じてもらえないところだ。1作目は精神を病んで死んでしまった母親をもつ精神科医のローズを主人公にしており、患者が笑いながら自殺した瞬間を目撃してから全てが狂っていく(ローズ役はケヴィン・ベーコンの娘であるソシー・ベーコンだが、演技が絶品だ)。

そして続編となる『スマイル2』は、1作目の直後から始まる。今回の主人公は超有名歌手のスカイ・ライリーで、一見前作とかなり毛色が違うようにも思えるが、『スマイル』シリーズの肝は主人公が苦しみながらも周りに誤解され続けることからくる強烈な共感性羞恥にあると言える。「こんな状況になったら嫌だ」を幾つも幾つも放り込んでくるのだ。そう考えると、有名人のスカイが主人公というのは必然の設定だろう。身内だけでなく世界からの無遠慮な視線に殺されそうになりながら、スカイは幻覚と戦わなければならない。本当に監督のパーカー・フィンは意地悪だ。時折オフビートなギャグも挟み込まれるが、基本的には本当に笑えないホラーになっている。

トラウマを植え付けられると発芽する呪いという設定もホラー映画的に非常にクレバーで、自殺シーンはそれぞれ観客の脳にも焼き付けられるほど印象的なグロテスクさだ。もちろん、笑顔になる役者はみな顔力(かおぢから)が異常に強く、本作ではキング・オブ・顔力のジャック・ニコルソンの息子、レイ・ニコルソンが父親譲りの顔芸を披露してくれる。主演のナオミ・スコットは実写版『アラジン』でその音楽的才能を世界に認めさせたが、そのイメージが木っ端微塵になるレベルでグチャグチャハチャメチャの本作に出演してしまっても良かったのだろうか? いや、良かったのだ。彼女の演技力が傑出しているのがよく分かる。嫌になるほどに。

前作と同じく、ホラーにしては約120分と尺が長いが、観客を退屈させないアイディアと緊張感に満ちた怪作にして快作だ。間違いなく、今年を代表するホラーの1本となるだろう。パーカー・フィンはすでに3作目に着手しているようで、本作のラストを見る限り次はさらなる地獄が待っているのは間違いない。作品を重ねるごとに正しくスケールアップしていくシリーズは意外にも多くないので、本作に耐えられる方はニコニコしながら待っていよう。1週間生き延びられたらの話だが。

【ストーリー】
新たなワールドツアーを目前に控えた世界的ポップスターのスカイ・ライリーは、徐々に恐ろしく不可解な出来事に遭遇し始める。エスカレートする恐怖と名声によるプレッシャーに押しつぶされそうになったスカイは、自分が制御不能になってしまう前に人生を取り戻すため、暗い過去と向き合うことを余儀なくされる。

【キャスト】
ナオミ・スコット、ローズマリー・デウィット、ルーカス・ゲイジ、マイルス・グティエレス=ライリー、ピーター・ジェイコブソン、レイ・ニコルソン 他

【スタッフ】
監督・脚本:パーカー・フィン

 

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