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『キャンディマン』決してその名を忘れるな…。約30年ぶりにあの羽音が蘇る。

◆公開中の注目作 
『キャンディマン』

 

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

ホラー映画はお化けだけではなく、現実とリンクした恐怖を語ることができる。近年、急速に注目が高まっているのは人種差別ホラーだ。旗手となっているのは、コメディアンでありながら『ゲット・アウト』で鮮烈な映画監督デビューを果たしたジョーダン・ピール。生粋のホラーファンでもあり、彼の制作会社「モンキーポー(猿の手)・プロダクションズ」の名は怪奇小説の古典『猿の手』にちなむ。自身も黒人であるピールは、『ゲット・アウト』で黒人青年が白人彼女の実家で味わう恐怖を、2作目の『アス』で黒人一家が自分たちそっくりの4人組に出会い味わう恐怖を描いた。製作・脚本を務めた今回の『キャンディマン』も含め、全員主人公が黒人というのが肝だ。

タイトルが同じなのでややこしいが、本作は1992年のオリジナル版の精神的続編になる。劇中に前作の主人公ヘレン・ライルの名が出てきたり、引き続き登場するアンソニー・マッコイが主人公になっていたりするが、本作だけ観ても大丈夫だ。鏡の前で5回名前を唱えると右手がフックの黒人の姿をした「キャンディマン」が現れ、切り裂かれて殺されるという都市伝説を追う話だと知っていれば良い。だが重要なのは、ヘレンは白人で、アンソニーは黒人である点。そして、前作の監督バーナード・ローズは白人で、本作の監督ニア・ダコスタは黒人。つまり、このストーリーを白人目線で語るか、黒人目線で語るかの違いがあるのだ。

キャンディマンと聞くと可愛い響きだが、その由来は壮絶だ。彼は生前19世紀の黒人画家で、白人女性に恋をしたために右手を切り落とされ、蜂蜜を塗りたくられた上で蜂をけしかけられ死んだ。その姿を飴に例えられたのだ。21世紀の今も、同じように命を奪われる黒人は増え続けている。キャンディマンは大量の蜂とともに登場するが、もはや一人の怨霊ではなく、亡き黒人たちの魂が蜂のように集まり形作られた存在にも思える。舞台となるカブリーニ=グリーンは実在した公営住宅で、住民の黒人への法的な不平等さなどから、最終的には治安が最悪の場所として有名になった。現在では再開発のためジェントリフィケーション(都市の高級化)が進んでいるが、それで過去の黒人への仕打ちを塗り潰せるわけではない。キャンディマンの名を呼ぶことは、黒人の歴史を騙らずに語り継げという戒めでもあるのだ…おっと、誰かが訪ねてきたようなので、今回はこの辺で失礼しよう。

【ストーリー】
舞台は、シカゴに現存した公営住宅「カブリーニ=グリーン」地区。その界隈では、鏡に向かって5回その名を唱えると、右手が鋭利なフックになった殺人鬼に体を切り裂かれるという怪談めいた都市伝説が語り継がれていた。老朽化した最後のタワーが取り壊されてから10年経ち、恋人とともに新設された高級コンドミニアムに引っ越してきたヴィジュアルアーティストのアンソニーは、創作活動の一環としてキャンディマンの謎を探求していたところ、公営住宅の元住人だという老人から、その都市伝説の裏に隠された悲惨な物語を聞かされる。アンソニーは恐ろしい過去への扉を開いてしまったのだ……。

【キャスト】
ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世(『アクアマン』)、テヨナ・パリス(「ワンダヴィジョン」、『The Marvels』)、ヴァネッサ・ウィリアムズ ほか

【スタッフ】
製作・脚本:ジョーダン・ピール(『ゲット・アウト』、『アス』)
監督:ニア・ダコスタ(『ヘヴィ・ドライヴ』、『The Marvels』)

配給:東宝東和
(C)2021 Universal Pictures

公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/candyman

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