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『フェイブルマンズ』小さな芽は、無数の枝を伸ばす巨木に。76歳の映画少年の人生が、今スクリーンに映し出される。

◆今週公開の注目作

『フェイブルマンズ』

文:屋我平一朗(日々メタルで精神統一を図る映画ブロガー)

映画をあまり見ない者にでもその名を知られている映画監督第1位は、間違いなくスティーヴン・スピルバーグだろう。現在76歳と高齢でありながら、依然として映画界の第一線で活躍している。いくつもの寓話(フェイブル)を語ってきた彼は今回、ついに自身の体験を投影した作品をスクリーンにかけることにした。それが『フェイブルマンズ』だ。

主人公のサミー(というかスピルバーグ)がその未知なるものと遭遇したのはある日の映画館。サーカス映画『地上最大のショウ』(1952)だった。汽車と自動車が激突するシーンがトラウマとなるも、芸術家肌の母ミッツィから与えられた宝物のカメラによってそれを克服し、撮影の魔力に取り憑かれる。映画にのめり込むサミーの背中を押すミッツィとは対照的に、科学者の父バートは現実的で、映画は趣味にすぎないと取り合わない。続いて激突したのは両親だったのだ。もともと正反対の性質を持っていた両親は、西部に引っ越してからさらに険悪になり、サミーはふたりの間でどうしようもなく引き裂かれていく…。

ミッツィが味方で、バートがサミーの前に立ちはだかる壁という単純には構図にはなっていない。全てがサミーに影響を与えているのだ。バートは「光は物の見え方を変える」と言うが、光(フランス語でリュミエール)は「映画の父」とも呼ばれるリュミエール兄弟の名であると同時に、スクリーンに映し出される映画そのものでもある。

面白いのは、映画の帝王であるスピルバーグは本作で「映画には大きな力がある」とは示しても、一概に「その力は素晴らしい」とは言っていないことだ。確かに、映画撮影が上手だと周りからも認められ、10代半ばにして友人総出で短編『Escape to Nowhere(原題)』を作り上げる様子には興奮させられるし、予算など皆無に等しい中での創意工夫にも目を引かれる。だがどれだけ監督に意図があっても、常に映像はそれを超えていく。見たくない部分まで残酷に記録してしまうし、被写体をその本質以上の存在に見せてしまう。良くも悪くも、スピルバーグ、もといサミー少年とその家族は、映画によって人生を変えられてしまったのだ。

しかし恐竜、宇宙人、巨人、歴史上の偉人、血みどろの戦場、未来世界に到るまで、そこにないものすらあるように見せられる力は多くの観客に時に絶望を、そしてそれを上回るほどの希望を与えた。どの作品にもいつもフックがあり、マイノリティにすら感情移入させ、観客の心を掴み続けてきた。それは本作もそう。夢も掴んだスピルバーグに「君がプレイヤー1(主人公)なんだ」と背中を押されているようだ。スピルバーグは小さな演出で、大きな結果を予期させる。本作の物語も映写機から放たれる一筋の光ほどに小さいが、それは無限に広がっていく。

この歳で本作のような作品を発表するのだからキャリアを畳もうとしているのではと思いきや、スピルバーグはすでに次回作に取りかかっている。ここはまだ終着駅(ターミナル)ではない。AIが絵や小説を書き始める時代になったが、きっと映画を真似することはできない。AIや他の映像作家に対するスピルバーグの挑発が聞こえてくる。「できるものなら、捕まえてみろ」と。

【ストーリー】
初めて映画館を訪れて以来、映画に夢中になったサミー・フェイブルマン少年は、8ミリカメラを手に家族の休暇や旅行の記録係となり、妹や友人たちが出演する作品を制作する。そんなサミーを芸術家の母は応援するが、科学者の父は不真面目な趣味だと考えていた。そんな中、一家は西部へと引っ越し、そこでの様々な出来事がサミーを変えていく――。

【キャスト】
ミシェル・ウィリアムズ、ポール・ダノ、ガブリエル・ラベル、セス・ローゲン、ジャド・ハーシュ、デヴィッド・リンチ 他

【スタッフ】
監督・脚本:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:トニー・クシュナー
音楽:ジョン・ウィリアムズ
撮影:ヤヌス・カミンスキー
配給:東宝東和
© Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

公式HP:https://fabelmans-film.jp/

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