【祝84歳の誕生日!】絶対に観ておくべき「ポール・バーホーベン監督」傑作選
ポール・バーホーベンと言えば、過激な暴力描写、性的描写てんこ盛りの作風で、賛否両論も何のそのという豪胆な監督です。彼の幼少期には出身国オランダはナチスに占領されており、ハーグにある彼の家の近くにはドイツ軍のミサイル基地がありました。そのため、オランダの味方であるはずの連合軍の攻撃により巻き添えを食った同胞の死体を当たり前のように幾度も目にしていたそうです。そんな体験を経たために、彼の作品もその衝撃が真空パックされたようなものばかり。今回は、決して万人には受け入れられない、しかし万人が一度は観るべき鬼才ポール・バーホーベンの傑作たちを紹介します。
①『ロボコップ』(1987)
出演:ピーター・ウェラー、ナンシー・アレン、ロニー・コックス
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〈本当のロボコップは誰だ!〉
オランダで活動していたバーホーベン監督がアメリカにわたって撮った2本目の作品です。善良な警察官であるマーフィ巡査が凶悪犯の銃撃でハチの巣にされた後、残った体と機械を合わせて無敵の「ロボコップ」として生まれ変わる…という、タイトル・内容ともに(一見)バカバカしい映画です。実際、バーホーベン監督自身、最初の1ページを読んだだけで監督するのを拒否したほど(その後奥さんの説得により考え直しました。奥さんグッジョブ!)。しかし、ロボコップが治安の悪さを悪人以上の暴力で改善していく皮肉や、完全に機械的な思考になったかと思われたロボコップが自分のアイデンティティを取り戻していくヒューマンな展開があるなど、意外な深さもあるんです。劇中では警察が民営化され、腐った上司の命令にでも忠実に従っている警察官たちが多くいますが、彼らこそが本当の“ロボコップ”なのでは…とか。ナメてた方にこそ観てほしい1本です!
②『スターシップ・トゥルーパーズ』(1997)
出演:キャスパー・バン・ディーン、ディナ・メイヤー、デニス・リチャーズ
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〈これを観て、あなたは怒るか? 笑うか? 意気込むか?〉
『ロボコップ』後、シュワちゃん主演の『トータル・リコール』やシャロン・ストーンの足組みかえシーンが有名すぎる『氷の微笑』などでやりたい放題したバーホーベン監督は、さらに悪質なジョークのような作品を撮ってしまいました。それが本作です。描かれるのは、性別や人種で差別されず、シャワー室も共同であるほど“男女平等”が達成された世界。誰でも人間らしい権利を得ることができます。…兵役にさえ就いていれば! そんな“ユートピア”に住む人類が侵略した別の星の昆虫型宇宙生物との戦争映画なのですが、表面的にはかなりの戦意高揚映画になっています。原作からしてそういう作品ではあるのですが、監督はナチスのプロパガンダ映画『意志の勝利』のパロディとして本作を撮りました。高度な反戦映画です。しかし、その意図が伝わらず「あまりにファシズム的」と怒る観客や内容に感化される観客も生み出してしまいました。これって笑うところ?
③『ブラックブック』(2006)
出演:カリス・ファン・ハウテン、セバスチャン・コッホ、トム・ホフマン
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〈作風はブラックでも、人物造形はいつでもグレー〉
アメリカで映画を作り続けるうちにスタジオの言いなりになっていると感じたバーホーベン監督は、本当に自分が作りたいものを撮るために故国オランダに戻ります。そうして最初に作ったのが本作。自身も脚本として参加し、幼少期の体験を活かす形で第二次世界大戦を生き延びようとするユダヤ人女性を描きました。戦争映画では物事を善悪で二分するのは困難ですが、本作はその極致。主人公はユダヤ人でありながら同胞を救うためスパイとしてナチスの軍人の愛人になり、その罪を問われひどい仕打ちを受けます。また、その軍人も単なる悪人としては描かれず、主人公と心から愛し合うようになる展開も。いかにも監督らしい戦争ドラマです。2100万ドルという当時オランダ史上最高額の予算を投じて作られた本作は、アメリカの戦争映画と比べても見劣りせず、絶対にアメリカでは作れないものになっています。
④『エル ELLE』(2016)
出演:イザベル・ユペール、クリスチャン・ベルケル、アンヌ・コンシニ
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〈バーホーベン節ここに極まれり!〉
元々ニコール・キッドマンやジュリアン・ムーアなどアメリカの女優にオファーしていましたが、最終的にセザール賞(フランスのアカデミー賞)最多受賞・最多ノミネートの大女優イザベル・ユペール様が主演した作品です。この主人公が他には類を見ないキャラクターで、何者かにレイプされるところから物語が始まります(!?)が、それで取り乱したりはせず、彼女は平然と寿司を食べます(??)。さらに、彼女の父親が連続殺人犯のため(???)、幼少期から人々の憎悪の目にさらされながら生きてきたという、想像もできない精神の持ち主なのです。ストーリーよりも予測できない行動ばかりとる主人公のせいで、本作は人を選びまくるブラックコメディになっています。全くコメディとは思えない方も少なくないでしょう。しかし、これこそバーホーベンらしさが最もむき出しになった作品なのです。バーホーベン作品好きにすら踏み絵となるような激烈さを秘めた映画と言えるでしょう。
いかがだったでしょうか。
監督の最新作は、日本公開未定ですが、中世の修道院を舞台に修道女たちの禁じられた同性愛について描いた『Benedetta(原題)』となっており、80歳を超えてなおまだまだ健在です。万人に受け入れられるものではなく、彼の作品のように人の感性に挑戦するようなものこそが本当のアートと言えるのではないでしょうか。あなたはバーホーベン、どう思いますか?
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