【海外ニュース】ダーレン・アロノフスキー監督のA24映画『The Whale(原題)』の予告編が解禁！

2022.11.16

『ブラック・スワン』などで知られるダーレン・アロノフスキー監督の新作『The Whale』の予告編が解禁された。本作はA24製作・配給作品で、アロノフスキーにとって『マザー！』以来5年ぶりの作品となる。

本作のあらすじは、「600ポンド(約２７2キロ)の中年男性チャーリーが、疎遠になっている17歳の娘と再び関係を築こうとする」というもの。チャーリーはゲイで、かつて他の男性を好きになったために家族を捨てた。しかし、男性もその後死んでしまい、チャーリーは苦しみと罪悪感から暴飲暴食し現在の鯨のような巨体になってしまったのだ。予告編には断片的なシーンしか映っておらず、ほとんど内容は伏せられている。本作はゲイの劇作家サミュエル・D・ハンターの実体験に基づく同名戯曲の映画化で、チャーリーを演じるのは『ハムナプトラ』シリーズのブレンダン・フレイザー。

かつては第一線で活躍するスターだったものの、今回久しぶりにこの名を聞いたという方も多いだろう。フレイザーの映像作品への出演本数は、キャリアがスタートした1990年代と比べると、2000年代以降激減。その理由は、フレイザーの2018年の米GQのインタビューで明らかにされた。映画のスタントで酷使した身体の不調、離婚、母親の死…。そしてそれ以上に、2003年、ハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)の昼食会で、当時会長だったフィリップ・バークに下半身を触られたことによる精神的ショックが大きかったというのだ。

HFPAは、アカデミー賞の前哨戦と言われるゴールデングローブ賞を選出している団体だ。ゴールデングローブ賞は日本でもよく知られているが、最近は同賞に対するセレブリティの反応が冷たい。昨年、スカーレット・ヨハンソンはHFPAの性差別的な質問や発言を批判し、団体の体質を#MeToo運動の発端となったハーベイ・ワインスタインに例えた。さらにこの体質が改善されないようなら、映画業界はHFPAに関わるべきでないと述べた。トム・クルーズなども、HFPAへの抗議としてこれまで受賞したゴールデングローブ賞のトロフィーを返還している。さらにHFPAには人種差別的問題もあり、NetflixやAmazon Studiosも現状のままではHFPAとともに活動する気はないと声明を出した。

フレイザーは、#MeToo運動のおかげで自らのトラウマ的体験について語れるようになったと話している。彼は奇しくも、ゴールデングローブ賞作品賞(ドラマ部門)にノミネートされた『ゴッド・アンド・モンスター』(1998)で、ゲイの老映画監督に惚れられる男を演じていたのだが、イアン・マッケランが演じたその映画監督は、何と『フランケンシュタイン』などで知られるジェームズ・“ホエール”だった。ゲイ(鯨)と奇妙な縁のあるフレイザーは、今年のベネチア国際映画祭での本作のワールドプレミア後、6分間のスタンディングオベーションを受けた。フレイザーが今回タッグを組んだアロノフスキーは『レスラー』で、キャリアが落ち目だったミッキー・ロークを再び輝かせた実績がある。フレイザーもまた、本作でカムバックを果たした。割れんばかりの拍手を受けて涙ぐむ映像がネットで見られるが、実に感動的な光景だ。

予告編には、呼吸器をつけ涙ぐんだチャーリーの「人間は、気にしないということができないものだと感じたことはあるかい？」「人間は素晴らしい」というセリフがある。フレイザーがこのセリフを喋ることには特別な意味がある。…鯨の潮吹きは海水を吹き上げているのではない。その正体は呼吸だ。地球最大の哺乳類である鯨は肺呼吸しかできないため、水面下から浮上し空気を吐く。その時、呼気が結露し、鼻孔周りの海水も吹き飛ばすので水が吹き上がっているように見えるのだ。それで遠目にも、そこに鯨がいることが分かる。息苦しさを抱えてきたフレイザーは、ここにきてようやく大きく息を吐(つ)くことができた。我々が見逃すはずもないほどに。本作は2022年12月9日より米国公開予定。日本公開は2023年になるようだ。今後のフレイザーの活躍に大いに期待したい。