【第36回東京国際映画祭】原田眞人監督「世界を癒すために、広島の原爆を題材にした映画を作りたい」SDGs in Motion トークレポート
【第36回東京国際映画祭】
TIFFスペシャルトークセッション
SDGs in Motion トーク
(左から、リューボ・ステファノフ監督(オンライン)、原田眞人監督、アンドリアナ・ツヴェトコビッチ氏、キャメロン・ベイリー氏)
10月28日(土)、第36回東京国際映画祭にてTIFFスペシャルトークセッション「SDGs in Motion トーク」が行われた。
今年の東京国際映画祭で初めて実施される「SDGs in Motion」では、国連の「持続可能な開発目標」のうち、目標1(貧困ゼロ)、5(ジェンダー平等の実現)、13(気候変動対策)、16(平和と正義、強固な制度)に沿った映画にスポットライトを当てることをミッションとしており、それらに該当する既存の映画を屋外上映プログラムにて上映中(上映作品・スケジュールの詳細はこちら)
そこで、様々な国の映画業界で活躍する4名が、映画業界におけるSDGsの現状や未来について議論を繰り広げた。世界ではSDGsについてどのような取り組みが行われているのか?日本では?…などなど、情報が盛りだくさんだったトークショーの模様をお届けする。
〇登壇者
・アンドリアナ・ツヴェトコビッチ(SDGsプログラム・キュレーター。日本大学芸術学部映画学科で博士号を取得。その後、映画、外交、起業、国連SDGs活動など、多方面において活躍。在日北マケドニア大使を最年少で務め、現在は文化庁国際協力特別顧問、京都大学客員教授を務める)
・原田眞人(語学留学の英国滞在中に映画評論家としてデビュー。その後『さらば映画の友よ インディアンサマー』で映画監督デビュー。主な監督作品に『クライマーズ・ハイ』『わが母の記』『日本のいちばん長い日』。本プログラムでは『駆込み女と駆出し男』を上映)
・キャメロン・ベイリー(映画批評家としてデビュー後、トロント国際映画祭のプログラマーになり、現トロント国際映画祭CEO。フランスより芸術文化勲章を授与。10年連続でトロントにおける50人の影響のある人に選出)
・リューボ・ステファノフ(本プログラムで上映されるドキュメンタリー映画『ハニーランド 永遠の谷』(2020)の監督。同作は第92回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞と国際映画賞にノミネート)※オンライン参加
「映画を通じて生まれる対話によって、人々の世界の見方を変えられる」
はじめに、アンドリアナ・ツヴェトコビッチ氏より、本プログラムが組み込まれた背景について「世界的に映画業界自体が巨大なものになってきていて、一つの産業になってきています。ESG※の報告書が日本の企業においても必須になってきており、ESGの報告の項目も、例えば環境の話やサステナビリティに関してなど今後増えていくため、やはり映画業界においてもこういった点に目を向けていかなくてはなりません。これは映画制作だけでなく、配給の仕方、映画のテーマにおいても重要になってきています。また、これらの問題への認知をあげていくために、特に若者に映画を通じて教えていくのは非常に重要になってきています」と語り、トークショーがスタートした。
※ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス(企業統治))の頭文字で、それらに考慮した投資活動や企業経営のことを指す
早速、ゲストと共にディスカッションのコーナーへ。
最初に、ツヴェトコビッチ氏からステファノフ監督へ「『ハニーランド 永遠の谷』では400時間撮影したと聞いています。かなり長い間手つかずの自然の中に身を置いて撮影をされたのではないかと思いますが、サステナビリティなどの問題にどのようにアプローチしたのでしょうか?」と質問が投げかけられると、ステファノフ監督は「主人公である自然養蜂家の女性が蜂を管理していくやり方に共通のテーマが流れているなと思ったんです。それは何かというと、半分は自分に、そして残りの半分は蜂たちに残すということをすごく大事にしていたんです。そういった平等にシェアしていこうというコンセプトが、非常にサステナビリティとか環境というところに繋がっているなと感じたんです」と回答した。
続いて、ツヴェトコビッチ氏はベイリー氏に「トロント国際映画祭の作品の選び方やキュレーション(特定のテーマに沿って集めること)の仕方をみると、社会へのインパクトを重要視されているかと思いますが、どういうテーマで映画祭に取り組んでいますか?」と質問すると、ベイリー氏は「トロント国際映画祭ではミッションステートメントがありまして、それは映画を通じて人々の世界の見方を変えるというものです。世界自体を私達は変えられないと考えているのですが、映画を通じて生まれてくる対話によって、人々の世界の見方を変えられると思っています。そして見方が変わった人たちが世界を変えていけると考えています」と熱く語った。これに対して原田監督は「映画で世界を変えられないけど、演劇が世界を癒してきているんです。例えば、日本では関東大震災の後に築地小劇場ができて、それからドイツでも第二次世界大戦のあとにベルリンで演劇集団がでました。映画はそのおこぼれをもらっているっていう(笑)なので、1本の映画の中に俳優たちが参加することによって世界を癒すことができると思うんですよね。それで今僕がやらなくてはけないのは、世界を癒すために広島に原爆が落ちた話は一本の映画として作らなければいけないと思っています」と今後制作を検討している映画の題材について明かした。
次に、ツヴェトコビッチ氏は原田監督へ「日本の映画業界はサステナビリティについて最近変わってきていますか?例えば映画制作の現場やスタジオにおいてエネルギー削減やジェンダー平等に今までよりも取り組みやすいようになってきているのでしょうか?今後それがスタンダードになって、スタジオや制作会社がそういったことを自分たちの報告書に記載するようになっていきそうですか?」と聞くと、原田監督は「産業レベルではまだそのようになってはないです。個々の映画作家たちがすごい意識改革して新しいものを作ろうとしているんですけど、やっぱり予算が限られちゃうんです」と日本の映画業界の厳しい現状を述べた。また、「僕が今個人的に映画会社から次々と「No」を突きつけられている企画が、現在日本で起きてる除染作業の問題なんですね。東京電力よりもずっと下の立場で奴隷のように安い賃金で働かされている人がいて、そこの底辺の部分を映画化しようとしているけど、誰も協力しようとしてくれないんです。今かなりフラストレーションに陥ってます」とそういった社会問題を扱った作品の場合、日本では制作することが容易ではないことを赤裸々に語った。
それに対して、ツヴェトコビッチ氏は「カナダではそういったテーマを扱う映画が結構数多く出てきているのかなと思いますが、それはカナダの映画業界が成熟しているからなのかでしょうか」とベイリー氏に伺うと、ベイリー氏はカナダの映画業界が世界より進出しているわけではないと思うと分析したうえで、「ただ少なくともトロント国際映画祭においては単に見て楽しい作品だけではなく、考えさせられるような作品も上映するようにしています。重要なのはしっかりと測定するということです。例えば映画祭で上映した映画のうち何本が女性やマイノリティ、LGBTQコミュニティと呼ばれる方々が監督したものなのか、上映作品が何ヵ国から来ているのかをちゃんとカウントすることです。もちろんその数を増やしていくことだけが私たちのゴールではないですが、今どういう状況にあるのか、過去はどうだったのか、未来はどのようになっていくのかをちゃんと数字で見ていくというのは重要だと思います」と回答した。
最後に、ツヴェトコビッチ氏は「日本の業界に関してはもっと大規模にサステナビリティというのをテーマとして取り扱っているような作品が出てくればいいなと思います。あとは撮影現場で働いてる方々が居心地良く、心理的安全を感じながら働けるようにするという基本的なところからまず行うことが重要だと思います。願わくば、このSDGs in Motionをコンペ作品を募るようなところまで来年は持っていけたらと思っています。また企業がCSR(企業の社会的責任)の一環としてこういった映画の資金を出していくというような環境作りまでできたらと思っております」と今後の本プロジェクトに対する展望を語り、トークショーは終了した。
東京国際映画祭は11月1日(月)まで開催中!
この機会にぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?
©2023 TIFF
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