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【第36回東京国際映画祭】山田洋次と中国の若手監督グー・シャオガンが対談「その作品がコメディか悲劇かを決めるのは観客だと思うんだよね。」

【第36回東京国際映画祭】
山田洋次×グー・シャオガン対談
「その作品がコメディか悲劇かを決めるのは観客だと思んだよね。」

10月30日、第36回東京国際映画祭にて山田洋次監督とグー・シャオガン監督の対談イベントが行われた。

山田洋次は『男はつらいよ』『釣りバカ日誌』など多くの愛される作品を生み出し続けてきた日本を代表する映画監督であり、グー・シャオガンは今年の黒澤明賞を受賞者で、今年のコンペティション部門に出品されている『西湖畔に生きる』を手がけた中国の若手監督だ。以前から交流のあるという2人は、今回の東京国際映画祭では、黒澤明賞の審査委員と受賞者という立場でもある。本イベントは、グー監督のデビュー作『春江水暖 しゅんこうすいだん』についての話題からスタートした。

『春江水暖』は再開発中の地区を舞台に、老いた母親と4人の息子を描いた物語。山田監督は「こんな素晴らしい映画があるのかとびっくりしました。軽やかで暖かくて気持ちがいいよね。褒めすぎかもしれないけど、モーツァルトの音楽を聴いているような映画でした。どんな監督がどのようなプロセスで作られてたのか興味があって、不思議なカットもいっぱいあって。是枝くんを通してどうやって撮ったのか聞きました。監督に会いたいと思っていたら今年の上海国際映画祭でお会いできて、素敵な青年で、会えてよかった」と話す。一方で、グー監督は「今回、ワールドプレミア上映と監督と会うことに緊張していました。上海でもお会いできて嬉しかったですが、また東京で会えて大変嬉しいです。若い映画人にとっては励まされる出来事だと思います」とコメントした。

そして上海で出会った際に『春江水暖』の続編の構想を2人で膨らませたという。しかし、2作目となる『西湖畔に生きる』はデビュー作の続編作品ではなかったため、グー監督は「(山田監督に会うのに)緊張していました。今回の舞台挨拶の際に、1つ目の質問が終わった後に席を立たれたのが見えたので、怒ってしまったかと(笑)」と再会への心境を笑いを交えて話した。それに対し、山田監督は「他の用事があったんでそーっと出て行ったんですけれども(笑)、続編だと思っていたら全く違ったのでびっくりしたのは事実です」と会場を沸かせた。また、グー監督はデビュー作と今作の違いについて「1作目はどういうものになるか分からなくて、でも観客に背を向けること(どう受け取られるかを考えないこと)が大切だと思っていました。ただ、2作目は真逆で、お客さんのことを意識しました」と話す。

さらに、上海国際映画祭の時「次回作は悲劇なのか喜劇なのか」という質問があった際、山田監督が「次回はコメディ」だと答えつつ「コメディを撮るのは難しい」と言っていたことについて「だんだん理解をしてきました」と触れた。山田監督は「その作品がコメディか悲劇かを決めるのは観客だと思うんだよね。作り手が面白い映画を作ろうとしても作れないと思う。人間が描けているか、それだけが問題なんだよね。作り手である監督が予想もしないところで観客は笑ったりするものなんだよね。要するに大事なことは観客が決めるっていうことなんだな」と話した。そして「彼の処女作はプロの俳優が1人しか出ていなくて。そのほかはプロじゃなくて、家族が出ているって驚くべきことで。その人たちがごく自然に自分たちの生活を表現していて、それがきちんとドラマになっている。実に不思議な映画でしたね」と述べ、さらに会場に来ていた『西湖畔に生きる』で主人公を演じたウー・レイを「すごい二枚目が出ているよね」と褒めて、再び会場を沸かせた。

グー監督が2作目でスタイルを変更したことについて、山田監督は「そのスタイルをどのくらい意識して作ったんだろうね?ごく自然にああいうスタイルになったんじゃないかなっていう」と話すと、グー監督は「プロのスタッフと役者が入って。自分も映画専門で監督になったわけじゃないので、違った作品を試してみたいという気持ちもありました」「最終的にテーマは“詐欺”で、客観的なことよりも中に入るようにしました」と今作への意気込みと経緯を話した。

そして話題は再び『春江水暖』に。山田監督は「クローズアップなかったんじゃないの?ほとんど引いたショットで長回しでね。日本で言えば溝口健二、ヨーロッパで言えばテオ・アンゲロプロスかな。僕は黒澤明と親しかったけど、彼はアンゲロプロスがすごく好きでね」と話し、泳ぐシーンの長回しはどのくらい回数撮ったのか問われると、グー監督は「2年間に渡って18回ほど撮りました」と答え、山田監督も驚きを隠せない様子だった。

また、デビュー作の続編については「もう1人甥っ子がいて、北京電影学院で勉強してて、映画を作ったって大騒ぎするっていう。そんな話をしようって別れたんだよね」とし、その続きを明らかにした。山田監督は「その甥っ子は大失敗するのよ。傷ついて帰るから、我々は素知らぬふりをしなければならない。そういう話を僕なら考えちゃう」と楽しげに、グー監督と続編のストーリーについて語り合った。グー監督から「いつか実現したいと思います。勉強になります」と言われ、山田監督は黒澤監督がよく言っていたという話を披露。「『映画が完成して映画館で見ると、自分が予想していなかった匂いのようなものがスクリーンから流れてくるんだよ』と。つまり監督の人柄というものが出ちゃう、あるいは出るような映画じゃないといけないんだよってことなんですよね」とグー監督に伝えた。

続いて、東京国際映画祭の黒澤明賞について。以前から東京国際映画祭でこの賞は存在していたが、新たに若い映画人に向けた賞になり、今回グー監督が受賞することになったことに、山田監督は「大賛成だった」と話す。グー監督は受賞のメールが届いた際「当時その賞のことを知らなくて、ひと月ぐらいかけてメールの意味を考えていたんです。だから東京に来て対面で確認しました(笑)。その賞の意味自体が若い映画人の励ましになるし、本当にありがとうございます」とにこやかに受賞への感謝を述べた。最後に山田監督は、「黒澤さんも『春江水暖』好きだと思うな。彼の映画とは違うけどね。スティーブン・スピルバーグやジョージ・ルーカスも黒澤さんを尊敬しているけど、黒澤さんは彼らの映画よりグー監督の映画の方が好きだと思うよ」と話し、和やかな雰囲気のままイベントは幕を閉じた。

 


伊藤万弥乃(いとうまやの)
海外映画とドラマに憧れ、英語・韓国語・スペイン語の勉強中。
大学時代は映画批評について学ぶ。映画宣伝会社での勤務や映画祭運営を経験し、現在はライターとして活動。
シットコムや韓ドラ、ラブコメ好き。

執筆記事:https://linktr.ee/mayano
ブログ:https://ladybird99.com/

関連記事:【ENDROLL】「ライターとして生きる。」ライター 伊藤万弥乃 さん(前編)

 

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