【第36回東京国際映画祭】「アジア映画の学生交流 マスタークラス」に是枝裕和監督が登壇。映画監督を引退するホウ・シャオシェンの意思を継ぎ、未来を担う学生たちに想いを告げる。
【第36回東京国際映画祭】
「アジア映画の学生交流 マスタークラス」に是枝裕和監督が登壇。
映画監督を引退するホウ・シャオシェンの意思を継ぎ、未来を担う学生たちに想いを告げる。
第36回東京国際映画祭のプログラムとして、是枝裕和監督をゲストに迎え、アジアで映画を学ぶ学生たちと共に交流する「交流ラウンジJ企画 アジア映画の学生交流 マスタークラス」が行われた。今回のイベントには日本、北京、香港、タイ、そのほかASEAN地域などから学生たちが集った。モデレーターの土田環(山形国際ドキュメンタリー映画祭プログラムコーディネーター/早稲田大学講師(専任))は「これからの未来を担う映画人を育てたい」「出会っていただきたい」ということからこのイベントが企画されたことを話した。
最初に、是枝監督が1993年に手掛けたエドワード・ヤン監督とホウ・シャオシェン監督に密着したドキュメンタリー「映画が時代を写す時 侯孝賢とエドワード・ヤン」の冒頭映像を放映。その後、是枝監督が登壇し、このドキュメンタリーの秘話について語った。当時、テレビの世界に入って6年経っていた監督は「テレビか映画か」という岐路に立っていたという。映画をやりたくて映像の世界に飛び込んだにもかかわらず、思い描いていたものとは違う日々が続いていたが、90年代に入って自分の企画で仕事ができるようになり、テレビも面白くなったという。しかし、前向きになった一方で、映画から遠ざかっていくという葛藤もあったのだそうだ。
そんな中、このドキュメンタリーでエドワード・ヤン監督とホウ・シャオシェン監督に出会った。是枝監督は父親が生まれ育った台湾に初めて訪れ、自分のルーツにも触れることができたという思い出を語り、「エドワード・ヤンとはカンヌなどでご挨拶する程度だったんですけど、ホウ・シャオシェンとは、彼が東京に来ると連絡をいただいて一緒にご飯に行くような関係が続きました」とにこやかに写る2人の写真を見せた。
ちょうど同日にホウ・シャオシェンが映画監督を引退するというニュースが流れたことにも触れ、「ホウ・シャオシェンに『将来考えているのは台湾だけでなく、香港、韓国、日本、中国の若手監督を集めてそれぞれの国で映画を撮るようなプロジェクトのような、アジアを繋ぐ映画づくりをやってみたいからその時はお前に声をかける』と言われたんです。嬉しくて。もう一度映画に引き戻してくれたのが彼だった」とキャリアの岐路で導いてくれたのはホウ・シャオシェンであり、今回の企画も彼の意思を引き継いでいることを感じさせた。
さらに、デビュー作『幻の光』の準備に取り掛かっていた時に描いていたというカット割りのメモを見せた。そして、完成した作品をホウ・シャオシェンに見てもらったところ「『撮影入る前に絵コンテを描いただろ。なぜ役者の芝居を見る前に、それをどこから撮るか決められるんだ』と言われ、自分に突き付けられた宿題だった」と当時の気持ちを思い出す。「絵コンテや設計図を綿密に書くことがいけないわけではないが、縛られてしまうと目の前の面白いことや“なぜスタッフを使って自分ではない対象を撮るのか”が蔑ろにされていくんだよね。自分のイメージの中に答えがあるわけではないということを教えてくれたんだと思う」と監督が振り返り、学生たちに伝えた。
さらに、「社会的な映画をテーマにしているのはなぜか」とよく問われることについては「“社会派”と括られてしまうのはあまり望んでいないんです。作っていくときに“社会派にしよう”って作っているわけではないんだよね。例えば『歩いても 歩いても』と『万引き家族』は一方がすごく個人的で、一方は社会派と言われる。自分の中では一組の家族を置く場所と半径を変えているだけ。場所の設定とその置かれている環境の輪をどこに置くかは意識的に変えているけれど、それが違うだけ」だと独自の映画作りの考えも明かした。
イベントの終盤には学生たちからの質問を受け付けた。その中で「俳優をどのように決めているのか」という質問について、「オーディションをすることもあれば、出会ったこともないけれどオファーすることもある」と話すが、一方で、一般的なイメージではなく、実際に話した印象から役に当てはめることもあるという。そして子役には「本人が持っている個性やボキャブラリー、感情の動きを自分にかぶせてもらう」のだそう。「『怪物』の2人はキャリアを重ねていたので、基本的には大人と同じように演じてもらった」とし、「基本的には子供に合わせることが大事」だと話した。
撮りたいと思っている企画だけで10個はあると話す是枝監督。今後は国際共同製作が必要になる作品もあるとのことで、今はそこに行きつくために準備中なのだという。「日本の国際共同製作は遅れているから、皆さんの世代で切り拓いていってほしい」と想いを告げた。そして最後に「撮影の現場に入ると、天気や空間、俳優から出てきたものが想定とは違うなど、抱いていたイメージは確実に覆されるので。そこからが監督の仕事なんです」とアドバイス。アジアからたくさんの映画を志す学生たちが集まり、質問も多く、活気溢れるイベントとなった。
伊藤万弥乃(いとうまやの)
海外映画とドラマに憧れ、英語・韓国語・スペイン語の勉強中。
大学時代は映画批評について学ぶ。映画宣伝会社での勤務や映画祭運営を経験し、現在はライターとして活動。
シットコムや韓ドラ、ラブコメ好き。
執筆記事:https://linktr.ee/mayano
ブログ:https://ladybird99.com/
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