「戦争と陰謀」マスコミも教科書も嘘ばっかり?真の歴史を知るなら陰謀に挑め!/③『226』(1989)
歴史で「陰謀」などというと荒唐無稽で、あやしげで「信じるか信じないかはアナタ次第!」ってのでしょう?という風に思われる方が多数だと思います。
じゃ陰謀論の正反対、みんなが信用して共有している史実っていったい何なの?といえば、まあ歴史教科書とかマスコミが語っている歴史なわけですが、それが正しいかと言えば実はそんなこともない。普通に考えてだいぶ危うい。
ウクライナ戦争はウクライナから見ればロシアの侵略戦争だし、ロシアから見ればネオナチ掃討作戦。台湾危機は米国から見れば民主主義を守れ!だけど、中国から見たら内政干渉だったり、もう立ち位置で180度見え方が違う。これは今現在の話だけじゃなく、前の世紀からそれ以前からもそう。
歴史は勝者の都合のいい物語だし、正義は後から付け足せる世界に我々は住んでいる。
そんな中、8月といえば終戦記念日!毎年恒例の「戦争映画特集」となりますが、今年はウクライナ戦争や台湾危機、アフガンやパレスチナから、ウィグル問題までどうにも実体不明の戦争や紛争、危機が勃発しているので、「戦争と陰謀」をテーマに皆さんが知っている歴史認識の危うさと、想像力の限界に挑む「陰謀の世界」に扉を開く映画をご紹介させていただければと思います。
日本は「一番殺されてはいけない男を殺された」ことに気が付かなかった
『226』(1989)
2.26事件というと、軍国主義の台頭の代表的なクーデター事件として捉えられていますが、
陰謀視点からみると、この事件単体よりも、事件を契機に何が失われたのか?日本はどう変わったのか観察することが大事かと思います。
世界恐慌から昭和恐慌へ
1929年の世界恐慌は日本経済に深刻な影響をもたらしました。特に農村は壊滅的打撃を受け、欠食児童や身売りが頻発、悲惨な状況になってしまいました。これはデフレ政策下で金解禁を行うなど、政策のかじ取りを誤った政府の責任も大きく、人災と言っていいくらいです。多分日本の政治家・官僚が伝統的に持っている弱点は「マクロ経済に弱い」ということで、この時もこの後も、そして現代までその弱点は受け継がれています。
この絶体絶命の日本を救ったのが高橋是清でした。希少なエコノミスト政治家である高橋は日露戦争以来、何度か日本を救ってきましたが、彼は蔵相に就任するや否やデフレ政策を180度変え積極財政を採用し、赤字国債を大量に発行しインフレ政策を加速させ(アベノミクスに似てますね)、1933年までに恐慌前の水準に戻しました。
ところがそんな高橋是清が1936年、2.26事件で暗殺されます。
東北の貧農を救った高橋は、その貧農出身の兵士の声をバックに立ち上がった憂国の将兵によって殺されてしまうのです。
「なんで?」
と思われるかもですが、これこそ経済の理解しにくさ、デマが横行する社会の恐ろしさ(新聞報道の責任もありますね)で、様々な力が働いたあげく、高橋は日本を救った男ではなく、金満政治家として標的にされてしまったのです。
当時の日本は、「一番殺されてはいけない男を殺された」ことを気づきませんでした。
この日本人の気づかなさ、鈍感さ、現代人は大いに考えるべきでしょう。
これで、日本はさらなる混迷に向かいます。
日本のエリートたちを侵食する共産主義(事件で誰が得をしたのか)
経済の混迷が人心を不安定にさせ、政治に絶望を覚えると、そこに付け込んでくるのが共産主義です。
資本主義が破綻したかに見える中、ソ連はモスクワにいる外国人記者を使って、5か年計画の実積を大々的に世界に報じます。
もはや世界のインテリたちは、共産主義を無視するわけにはいきません。
日本は1925年の治安維持法の制定など、共産主義者の跋扈をけん制していたものの、世界恐慌を機に、社会主義的施策の必要性が論じられてきましたし、実は2.26の首謀者たち(皇道派)が信奉していた思想家の北一輝が目指したのも、天皇を中心と社会主義的体制でした。また建国間もない満州国も計画経済を導入しています。軍や政府のエリート官僚たちは徐々に共産主義に染まっていったのです。
今でも左翼(リベラル)的な考え方がちょっと頭よさそうでクールだ、みたいに思ってる多いですよね。そのイメージ、元々はこの時代のインテリ層らによって作られていったのです。もちろん、彼らは同じ時期ウクライナで起こっていた大虐殺(ポロモドール)のことなど知る由もありません。
2.26事件は4日で鎮圧。
首謀者は処刑され、彼らの派閥(皇道派)に属する将校たちは現役引退を余儀なくされました。代わりに軍部内で力を確固たるものとしたのが統制派といわれていますが、こちらは派閥というより、いわゆる陸大卒の上位何%を中心とした次世代首脳のエリートたちで、永田鉄山や東条英機が主要メンバーですが皇道派に比べて思想性はあまりなく、省内利益(つまり陸軍省の利益)と自分の出世のために動くという、今の財務省や外務省の役人と一緒の人たちなのです。
変化と言えば、皇道派はソ連・共産主義との戦いを陸軍省内外で強烈に掲げていましたが、統制派にはそのようなスローガンは掲げておらず、むしろ、統制派の理論的指導者である池田純久は「レーニンのプロガンダ手法に学べ」といっているくらいでした。
微妙ですが、大きな変化が起こりつつありましたー。
【キャスト】
萩原健一、三浦友和、竹中直人、本木雅弘、加藤昌也、川谷拓三、佐野史郎、安田成美、有森也実、南果歩、名取裕子
【スタッフ】
監督:五社英雄
原作・脚本:笠原和夫
製作:奥山和由
配給:松竹富士
©1989 松竹株式会社
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