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『マトリックス レザレクションズ』公開記念!ムービーマービー編集部が『マトリックス』への思いを語る!<第5回>「人生劇場から、宣伝劇場へ」

いよいよ今週末より17年ぶりのシリーズ最新作『マトリックス レザレクションズ』が公開となります。今やSF映画の金字塔とも言えるマトリックスシリーズの最新作ということで、シリーズのファンはもちろん、多くの映画ファンも一目置く、この冬一番の話題作であることは間違いないでしょう。

しかし100%楽しみかと言われると、そこはまたそれぞれ違う思いあるでしょう。「なぜ今になって続編なんか?」、「あの時完結したはずでは?」、「なぜローレンス・フィッシュバーンは出ない?」こんな疑問を抱くファンは多いはず。それに、古参の映画ファンが「映像革命をも新した傑作」と思う一方で、若い世代にとってはそもそも『マトリックス』という作品自体を知らない人も多いはずです。一口に『マトリックス』と言っても、世代や環境によってこの最新作に対する想いは様々でしょう。

そこで今回、ムービーマービでは最新作『マトリックス レザレクションズ』の公開に際して特別企画を実施。編集部20代〜50代のライターが、それぞれが胸に抱く『マトリックス』への想いを語ります!

第5回:「人生劇場から、宣伝劇場へ

文:たんす屋(神社好きの中年Youtuber)

思えば、1990年代はバーチャルリアリティの時代でした。その言葉は、もともとシュルレアリスムで使われていた芸術用語だったのですが、89年にジャロン・ラニアーという人がデータ・グローブ、アイ・フォン(Eye Phone)、オーディオ・スフィアという、40代以上の方なら「あぁ、これね」と見覚えのあるツールを発表しだした頃から、「バーチャル・リアリティ」という言葉が一般的に使われ始め、その後90年代にアーケードゲームのバーチャリティ、ジョイポリスのVR1、SegaVR、家庭用ゲームのバーチャルボーイなどが続々登場しました。

そんな90年代の最後、99年『マトリックス』が僕らの前に現れました。
サイバーSFとしては同じキアヌ主演の『JM』(ウィリアム・ギブスン原作)、バーチャルリアリティものとしてはシュワルツェネッガーの『トータル・リコール』(フィリップ・K・ディック原作)が先行してましたが、この『マトリックス』のどこが凄いかといえば、部分的ではなく、まるごとバーチャルの世界観でして、まるごとバーチャルといっても「夢オチ」とかそういうレベルじゃない。人口の数だけ仮想の現実が作られ、それが一つの空間を結んでいるというとんでもない規模でした。

ほとんどの人は、自分の人生を振り返るとき、「あれば夢だったんじゃないか?」と現実と判別不明の記憶領域を感じることがあるし、この世が裏側で誰かにコントロールされている想像をしたことのある人も多いでしょう。
そういう人たちの“悪い想像”を完全な精緻さでビジュアル化したのが本作で、「バーチャル・リアリティ」どころか「バーチャル人生」といってよく、
「皆さん、恋に仕事に、精一杯生きてるつもりでしょうが、実は鼻水みたいな液体の中で管つながれて寝ているだけなんです。その悲喜こもごもの生き様の舞台を降りるには、赤いピルを飲むしかないんです」
なんとまあ衝撃の世界観。まさに人生劇場。
さらにそこまで不満があるわけではないのに、世の中の真実を知るというリスクを冒す決断をするまでの過程を克明に描いていることで、やや面倒で哲学的な色彩も帯び、へんてこカンフー、弾除けイナバウアー、やたら丈の長い黒コートやサングラスなど相まって、全体として奇妙な調和がとれた世界観にサイバーSFファンは完全に打ちのめされました。

この世界観がさらに強調されたのが2003年公開の「マトリックス・リローデッド」「マトリックス・レボリューション」でした。バイク好きとしては、ドゥカティ996のノーヘル爆走には愉悦のひとときでしたが、内容は複雑に入り組み、哲学性はさらに増し、結局何が起こっているのかわからなかった。
でも、もはやマトリックスの世界観を押し続けることが最大にして唯一の価値だとワーナー宣伝部は気づいてしまったのでしょう。かつてナイキがスウォッシュだけの広告で趙然さをアピールしたように、マトリックスは東京を「緑色」の世界に染め上げました。東京タワー、渋谷スクランブル交差点などの光景を見た当時の私は、映画タイトルがなくても、ストーリーなんかわからなくても、そこにいたらそれだけで見に行きたくなる空間、というマトリックス=「宣伝劇場」を体感したのです。

リローデッドは興収100億超え、レボリューションは67億円ということでサイバーSFとしては桁外れの大ヒットシリーズとなったマトリックスですが、ある種ヒットしすぎの功罪があると私は思います。そもそもそんな老若男女が見ていい映画ではなかったのです。
「洋画はめんどくさい」「暗い」「つらい」という言葉聞かれるようになったのはこの頃からですし、若い世代は字幕わからんといって邦画に走るようになります。
「なんでも説明しまくる映画」時代のはじまりです。その引き金を引いたのが、もしかしたらマトリックスの大ヒットだったのではないかと思うのです。

そして2021年、若い人、Z世代は何に注目しているでしょう。彼らに人気のあるアーティストのMV、アップルやGoogleのCM、Youtubeの人気動画。これらは何でも説明しまくるわかりやすい映画と一線を画して、映像がカッコいいのはもちろんですが、少ない情報量ゆえに強いイマジネーションやメッセージを発しているように思います。クリエーターやユーザーも新しい時代に突入しているのです。

遅ればせながら、映画業界も彼らの脳を刺激する映画が登場しました。かつて40代以上のおっさんたちの感覚をしびれさせた、最高に訳分からないけど、泣きたくなるほどかっこいい、精緻な世界観のある映画、マトリックス (レザレクジョンズ)です。
劇場に行く場合は、22年前のマトリックスは是非観てください。これが20世紀の映画とは思えない。きっとSFはここで進化を止めてしまったかのような感覚に襲われます。

 

【関連記事】
第1回:「いつも大きな作品の影に隠れていた『マトリックス』という映画」

第2回:「物語の“よみかえ”を教えてくれたあの作品が、今ここに“よみがえ”る!」

第3回:「マトリックス避けと日本文化の影響」

第4回:「1999年、『マトリックス』を目撃したあの夏。」

 

 

【作品紹介】
目に見えるものが真実とは限らない。あなたが疑ったこともないこの[世界]は、本当に[現実]なのか?未来を選ぶとき、あなたの世界は一変する。何を信じるべきか、自分の目で見極めろ。全世界で空前の社会現象を巻き起こしたアクション超大作の新章、ついに登場。もし世界がまだ「仮想世界=マトリックス」に支配されていたとしたら、もし主人公ネオが救世主ではなかったとしたらーー!いま、新たな未体験の世界に飛び込む覚悟はあるか?

【キャスト】
キアヌ・リーブス、キャリー=アン・モス、ジェイダ・ピンケット・スミス、ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世、プリヤンカー・チョープラー、ニール・パトリック・ハリス、ジェシカ・ヘンウィック、ジョナサン・グロフ、クリスティーナ・リッチ

【スタッフ】
監督:ラナ・ウォシャウスキー

公式サイト:matrix-movie.jp
公式Twitter:@matrix_movieJP #マトリックス #マトリックス復活

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12月17日(金)より全国公開!