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ファッションのプロが語る「目で見えないものは”服”で表現することもできる」

先日、人生のオールタイムベストを更新する映画を観ることができた。

その映画が裸足で鳴らしてみせろという映画で、PFFアワード2018グランプリを受賞した工藤梨穂監督の商業デビュー作。

ストーリーは盲目の義母に世界各地の音を届ける2人の青年の物語。あまりにも良い映画すぎてこの映画の良さを言葉にするのをためらうほどだ。

そして、良い映画というのはどこまでもこだわりを感じることが出来て、セリフ、音楽、役者、カメラワークに始まり、衣装もだ。

この2人の青年は、世界各地の音をテープに録音していく日々の中で惹かれあっていくのだが、映画が進むにつれ、頻繁にお互いの服を交換して着ている日常が映される。

1人だった日常が極々自然に、2人の存在が混ざり合っていく様子をお互いの服を着ることで表現しているように感じた。そして、その存在がとても根深く、お互いに良い意味でも悪い意味でも影響を与えていること、生きていく上で服を着るということは切っても切れないものであるように、この2人の関係性もまた、必要不可欠なものに感じ取れるのだ。

今まで映画を観ていて、このスタイリング可愛いなあ、だったり、この色の組み合わせめちゃくちゃ良いな真似しよう、と思うことは頻繁にあったが、こんなにも映画のストーリーと密接して登場人物の服に注目したのは初めての感覚だった。大好き、一生そばにいて、会いたいと言葉にするのは簡単かもしれない。けれども、本当の心の底から湧き上がるような誰かに対する愛情は、きっと言葉に出来るようなものではないだろうし、目にも見えないものがたくさん存在していて、そういうものを私はこの映画の登場人物たちの服から感じ取ることができた。いよいよ何を言っているのか私自身も分からなくなってきたところだが、とにかく、服と映画の関係性が新しく構築されたような気がする。

何だか難しいように説明してしまったが、人と人とが混ざり合っていく様をただただ表現しているだけのものでなく、単純にスタイリングとしての魅力も当然ながら感じれる。

ワインカラーのラグランTに(これは色違いでミドリも登場する)ジャンプスーツを腰巻きで着ていたり、2人ともがよく羽織で着ていたジャージのトップス。(余談だが、ジャージを羽織で着ている人をみるとSuchmos(サチモス)で頭がいっぱいになってしまう)各々がそのジャージの羽織の中にカラーTシャツであったり、パーカーであったりカジュアルに着こなしているのに、どこか色気を感じるのは華奢な体のラインとのバランスだろうか。

もしかしたら、私が気づいていないだけで、他の映画でも心情や関係性を服に落とし込んでいる作品があるのかもしれないが、今作は衣装の効果性もストーリーも大変に素晴らしかった。私が熱弁していた服と映画の新しい関係性という部分に注目して(しなくても)ぜひたくさんの方々に観ていただきたい作品だ。

 

文:映画ファッションマニア つみき

 

『裸足で鳴らしてみせろ』(2022)公開中
監督:工藤梨穂
出演:佐々木詩音、諏訪珠理ほか
配給:PFF、マジックアワー
(C)2020 PFFパートナーズ(ぴあ、ホリプロ、日活)/一般社団法人PFF

 

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