ブルース・ウィリスは俳優引退後も“映画出演”を続けるのか!?デジタルツイン報道の真相やいかに…。
近年、AI技術は目覚ましい発展を遂げている。そして、それは映画にとっても無関係ではない。AIは人の脳を模したネットワークにより、大量のデータを基に自発的に学習すること(ディープラーニング)ができる。この技術を用いて、動画などの一部を別のものに差し替えることをディープフェイクと言う。2018年、『NOPE/ノープ』のジョーダン・ピール監督がひとつの動画を公開した。バラク・オバマ元大統領がドナルド・トランプ前大統領を口汚く罵りながら、ディープフェイク技術の危険性について説くものだ。もちろん、これは本物の映像ではない。ピールの声と表情を加工し、それにオバマ氏の顔を合成しているのだ。しかし種明かしをされても、映像は本物にしか見えない。
この技術を悪用すれば、事実無根の内容で政敵を蹴落としたり、スターの顔を用いて性的な動画を作成したりできてしまうが、悪影響しかないわけではない。最近、英The Telegraphが「ブルース・ウィリスが、スクリーン上で使用するための自身のデジタルツインを作成する権利を売却した、初めてのハリウッド俳優となった」と報道して話題になった。デジタルツインとは、現実世界に存在する人・物をサイバー空間上で再現したものを指し、権利の売却先とされる米Deepcake社はディープフェイクを専門にしている会社だ。ウィリスと言えば、失語症のために俳優業を引退したことが記憶に新しい。つまりこのニュースが正しければ、ウィリスは引退した身でありながら、今後も映画に“出演”できることになる。現場に顔を出さずとも、スクリーン上に顔が出せるわけだ。
実際、ウィリスのデジタルツインについては、Deepcake社が手がけたものが昨年ロシアで放映された携帯電話会社のCMの中で用いられてはいる。しかし、The Telegraphの報道の直後に、米The Hollywood Reporterはウィリスの代理人が「Deepcake社とはパートナーシップも契約も交わしていない」と述べたと報じている。件のDeepcake社の広報担当者さえも、「そのような権利は“デフォルト(初期設定)”で彼のものであり、売却することはできない」とコメントしている。情報が錯綜しているが、デジタルツインを用いた映画自体はすでに存在している。例えば『スター・ウォーズ』だ。
※ブルース・ウィリスのデジタルツインが使用されたCM
スピンオフ作品『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』の中で、今は亡きキャリー・フィッシャーが演じていたレイア・オーガナ姫が登場する。同作の約40年前の『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』当時の姿そのままで、だ(いや、正直に言うと少し違和感は覚える)。これは、フィッシャーと背格好がよく似たイングビル・デイラという別の女優に演じさせた後、顔だけをフィッシャーのものに処理して作られたシーンである。また、『ローグ・ワン』の約20年前に死去しているピーター・カッシングも、『新たなる希望』でお馴染みの悪役ターキン総督として引き続き登場。これも同様に、ガイ・ヘンリーという別の俳優が演じた後に処理が加えられている。ドラマシリーズ『ボバ・フェット/The Book of Boba Fett』でも、ルーク・スカイウォーカー役のマーク・ハミルが若い姿で登場する。
ウィリスは、2009年に『サロゲート』という作品に出演している。劇中の世界では、人々は自身の姿そっくりの身代わりロボット「サロゲート」を所持しており、本人の脳波によるリモート操作で本体へのリスクなく危険な作業も行える。それと比べて、デジタルツインには新たな時代におけるリスクと倫理観の問題がつきまとう。役者本人の意思が尊重されるならまだしも、技術的には亡くなっている俳優すらも好きに動かすことができてしまうからだ。“デジタルゾンビ”、“デジタルネクロマンシー”なる単語が生まれる状況になるかもしれない。ウィリスがそうなる可能性については一応否定された形だが、これは始まりに過ぎないのだろう。
実は、デジタルツインそのものについて触れている映画もすでにある。2013年の『コングレス未来学会議』だ。新時代に備えて、今のうちに鑑賞しておくと良いかもしれない。
ソース
・https://www.telegraph.co.uk/world-news/2022/09/28/deepfake-tech-allows-bruce-willis-return-screen-without-ever/
・https://www.hollywoodreporter.com/business/digital/bruce-willis-refutes-report-digital-likeness-deepfake-1235231331/
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