なぜ自分がこんな目に!?”冤罪”映画特集① 『ビール・ストリートの恋人たち』
冤罪は司法の罪である。今週末公開の映画『リチャード・ジュエル』はそんな冤罪事件を描いた映画だ。善良な、無実の市民が突如として犯罪者に仕立て上げられてしまう。身に覚えのない罪で、精神的にも社会的にも抹殺されてしまうのだ。なぜ彼らは犯人に仕立て上げられてしまったのか。加熱するメディア報道やそれを見る我々大衆の単なる興味本位か。大きな権力が裏で糸を引いているのか?そこで今週の「今夜何観る?」では冤罪を取り扱った映画を特集する。
『ビール・ストリートの恋人たち』(2018)
“差別された歴史を絶対に忘れない”という強烈なメッセージ
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身に覚えのない罪で投獄され、恋人と離れ離れにされてしまった黒人男性と、彼の家族の物語が本作だ。『ムーンライト』で黒人であり、ゲイである男性の人生を美しい色彩とともに描いたバリー・ジェンキンスは本作ではさらに踏み込んだテーマである黒人差別について本作で描くに至った。美しい映画でありながらも、この映画からは画面から彼の静かな怒りを感じることができる。
この映画は基本的に主人公の黒人青年とその恋人、青年の母親の視点で進んでいく。彼らは決して声高に差別への抵抗を訴えるわけではなく、ただただ愛する人のために必死に行動しようとしている。その姿が逆に差別の残酷さをより私たちに問いかける。そして冤罪という行為が、いかに多くの人の人生を狂わせてしまうかが分かるのだ。しかも黒人への風当たりが強い時代だ。世間もメディアも白人の意見を信じ、黒人側の意見を聞かず、その印象だけで裁判が進んでしまうこともある。正当な裁判が人種のせいで受けられないという、今考えると信じられないような時代が、つい半世紀前まで現実にあったことが驚きでならない。
本作とスパイク・リー監督の『ブラック・クランズマン』、ピーター・ファレリ監督の『グリーンブック』は共に黒人差別をテーマに置いた映画だ。だが本作とスパイク・リーの作品は『グリーンブック』はそのテイストが大きく異なる。白人であるピーター・ファレリが監督した『グリーンブック』は「黒人も白人も手を取り合い、未来を築こう」というメッセージを発している、いわば未来に目を向けた映画だ。しかし、黒人であるジェンキンスやリーが監督した作品は全く別のメッセージを孕んでいる。それは「私たちは差別された歴史を絶対に忘れない」という強いメッセージだ。こういった黒人差別を扱った映画を誰が監督しているかで観るのも面白いかも知れない。
【ストーリー】
1970年代のニューヨーク。19歳のティッシュ(キキ・レイン)は、小さいころから一緒に育ってきたファニー(ステファン・ジェームズ)と愛し合い、彼との子供を妊娠する。幸せな毎日を送っていたある日、ファニーが身に覚えのない罪で逮捕されてしまう。彼を信じるティッシュと家族は、ファニーを助け出そうと力を注ぐ。
【キャスト】
キキ・レイン、ステファン・ジェームズ、レジーナ・キング ほか
【スタッフ】
監督:バリー・ジェンキンス