「2021年、本当に満足した映画は?忖度なし!これがリアル!映画ファンがみた #2021年面白かった映画」/A24配給『セイント・モード/狂信』!女性視点の孤独は『タクシードライバー』『ジョーカー』の暴走を超える!
ムービーマービーでは、「#2021年面白かった映画」キャンペーンの一環として、2021年、本当に満足した映画はどれ?ということで、ユーザーのリアルな声を反映すべく、映画ファンがみた2021年面白かった映画を企画しました。忖度なし、実感のこもった映画レビューをご一読ください!まだまだ上映中の映画もありすますし、サブスク、DVDで観れる作品もあるかもしれません。正月、限られた休み時間の中、「本当に面白い」を皆さんに観て頂く参考にしてください!
⬛︎投稿者:鶴岡亮(@ryoutsuruoka) さん
本作は、本国カナダではスタジオカナルが配給し、海外では数々のインディペンデント映画を送り出したA24が配給権を獲得して公開された作品。監督、脚本は『Room55 』などの短編作品を手掛け、本作で長編デビューを飾ったローズ・グラス。主演は『高慢と偏見とゾンビ』のモーフィッド・クラーク。共演は『英国王のスピーチ』『ゼロ・ダーク・サーティー』のジェニファー・イーリー。
本作の最大の特徴は己の信仰心に基づいた信仰の押し付けを迫る主人公モードの姿でしょう。モードは孤独で友達も居らず、安アパートで暮らしながら介護職を務める人物です。そんな彼女の救済になっているのが神への信仰と、それに基づく禁欲主義的な戒律。一方、彼女が介護するアマンダは、日々自宅に客人を招き入れ、自由奔放な毎日を生きる人物。この二人の関係から判る通り、信仰を遵守するモードと自由を遵守するアマンダは二項対立軸として意図的にセッティングされています。故にモードはアマンダが堪能している自由への嫉妬心と、自身の厳しい戒律に基づく正義感によって、彼女をただすべく狂信的な布教活動を始めてしまいます。モードは終盤に向かうに従い、自身の信仰に盲目的になって行き、その姿はまごう事なき「信者」という言葉に相応しい存在になっていきます。その異常性、恐怖心、不快感を掻き立てられる描写がこの映画の肝で、他の作品とは一味違った魅力となってます。そして、このモードが観客にもたらす不快感は映画内のみならず、我々の現実に潜むあらゆる「布教活動」とそのバックグラウンドを想起させます。
出所不明の情報を信じ込んで拡散する匿名ネットユーザー、インフルエンサーの言う事を間に受け感化される信奉者達、極右陰謀論者Qアノンに影響され攻撃的な言説を振り撒く人々。それに加え、モードのように孤独な人生を送るが故に救済の為、上述の卑しい言説に引かれ狂信者してしまう人達…。これらの現実にいる人々の行動心理や拡散性をモードの出自や信仰描写に重ねて描いている為、本作に社会風刺の機能を働きかけると共に、作品のシリアスさを高める効果をもたらしています。
さて、この映画は孤独故に主人公が良からぬ方向へ暴走してしまう映画ですが、同じく孤独を取り扱った映画に『タクシー・ドライバー』、最近だと『ジョーカー』が浮かび上がります。しかし、これらの作品には欠けている要素があります。それはいずれも主人公が男性だらけという事です。近年、男権主義的だったハリウッドの風潮に対し、あらゆる作品が反抗しジェンダー感を転換した作品が作られています。ヒーロー映画、アクション映画、サスペンス映画、ホラー映画、あらゆるジャンルでその運動は盛んでしたが、今作のようなジャンルは未だに男権主義に支配されていたわけです。故に本作にも男性占有思想からの脱却が含まれており、モードとアマンダの二人の女性目線のストーリーになっているわけです。監督のローズ・グラスも女性であり、今後も女性監督が描く孤独がもたらす病についての映画は増えて行くでしょうから、本作は映画史的にも結構貴重な作品ではないかと思います。
現実にいる間違った価値観を他者に布教する人々への風刺要素と、『タクシードライバー』『ジョーカー』などの孤独な人間の暴走を描いた映画に女性主人公の視点を組み込んだ作風の『セイント・モード/狂信』。モードのアマンダへの布教に基づく「抑圧」はどのような結果をもたらすのか?「信仰」とは何なのか?その真実をラスト1秒に集約して見せたエンディングはある種の「清さ」に満ちたモノなので、是非とも皆様に味わって頂きたいです。
最後に補足ですが、本作ではAdam Janota Bzowski の手がける重厚かつ不気味なサウンドも映画の雰囲気を盛り上げる効果をもたらしているので、鑑賞には出来るだけ大音響、ヘッドホンを使っての環境をオススメします。
【ストーリー】
介護職を務めるモードは、余命わずかな元ダンサー・アマンダの介護を引き受ける事になる。
そんな中、モードは介護を続ける内に、ふしだらな日々を繰り返すアマンダの姿を見るに耐えかね、自身の信仰に基づいた「救済」をもたらそうとするが…。
【キャスト・スタッフ】
監督・脚本・ローズ・グラス
製作総指揮:ダニエル・バトセク
主演:モーフィッド・クラーク
配給:ソニー・ピクチャーズ
© 2020 Saint Maud Limited, The British Film Institute and Channel Four Television Corporation. All Rights Reserved.
オフィシャルサイト:https://www.sonypictures.jp/he/11164060
【関連記事】
『セイント・モード/狂信』天は自ら助くる者を助く。小さき聖人モードの“善行”と“神秘体験”を記した血も凍る伝記。
https://moviemarbie.com/mite2/mitemite-149/
- 「2021年、本当に満足した映画は?忖度なし!これがリアル!映画ファンがみた #2021年面白かった映画」/ドニー・イェン&谷垣健治!見せます香港映画底力!残りの冬も『#レイジング・ファイア』で乗り切りましょう。
- 「2021年、本当に満足した映画は?忖度なし!これがリアル!映画ファンがみた #2021年面白かった映画」/岡田准一がスゴ過ぎる!アクションファン必見の『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』