【海外ニュース】今年のパルム・ドール受賞作『Titane(原題)』監督&主演女優が暴力的な女主人公について発言「男性を殺せる女性キャラクターが不足している」
今年の7月に行われた第74回カンヌ国際映画祭にて、フランス・ベルギー合作のスリラー映画『Titane』が最高賞のパルム・ドールに輝いた。DEADLINEのインタビューで、監督のジュリア・デュクルノーと主演女優アガット・ルーセルがあまりにも暴力的な女主人公についてユニークな見解を語った。主人公のアレクシアは、サイコパスな上、車に性的な興奮を覚える(!?)シリアルキラーだ。このあまりにも共感から遠いキャラクターと観客を結びつけるため、どのような工夫がなされたのだろうか。
「彼女の心に共感できないのであれば、彼女の体に何らかの形で肉体的な共感を示すように、つまり彼女が感じていることを観客に感じてもらうようにしようと考えました」とデュクルノー。彼女は、ボディ・ホラー(肉体の変容を生々しく描くホラー)の名手デビッド・クローネンバーグ監督の影響を強く受けている。短編デビュー作『Junior(原題)』では、思春期の少女が大人の女性へと成長していくのを、文字通り“一皮むける”という演出によって表現した。長編デビュー作『RAW 少女のめざめ』では、ベジタリアンの少女が無理やり肉を食べさせられたことにより、カニバリズムに目覚めていく。エクストリームな描写のように聞こえるが、実際これらの作品を観てみると、主人公の気持ちが分かるような気もしてくるのだ。『Titane』もきっとそうなのだろう。
『Titane』のあらすじは、およそパルム・ドールとは縁のないものに思える。「幼少期、自動車事故後の手術で頭にチタンプレートを入れられたアレクシアは成長してシリアルキラーとなる。彼女は、10年前に当時7歳で失踪したアドリアンという少年の名を騙って逃亡しようとするが、その矢先にアドリアンの父バンサンと邂逅する…」といった具合だ。デュクルノーは受賞時のスピーチで、エロス&バイオレンス満載な本作を「怪物」と表現した。「怪物」と聞いて最近の作品で思い出されるのは、同じくエロス&バイオレンスな作風で、本当に異形の存在が登場するギレルモ・デル・トロ監督作『シェイプ・オブ・ウォーター』だ。同作は2017年のベネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受賞、侮られがちな怪獣映画としてはこれ以上ないほどの快挙を達成した。『Titane』の受賞も同様の快挙だが、さらに女性監督として『ピアノ・レッスン』(1993)のジェーン・カンピオン監督以来二度目の、そして初の単独受賞となった。
映画における暴力と女性の描かれ方について考えを尋ねられたデュクルノーは、「観客にとって、より異常で自然に反していると感じられると思います。暴力の必要性は、多くの場合男性キャラクターから来ます。私にとって暴力は男性の専売特許ではないので、本作はそれを否定するひとつの形です」と答えている。…例えば、(現実世界でもだが)よく何らかの障害のあるキャラクターは聖人のように扱われる。だが、好ましくない特徴も同時に描写しなければ、人間扱いしていることにはならない。女性キャラクターについても同様の問題があり、失礼な仕打ちへの怒りを表現する機会は男性キャラクターほど多くない。デュクルノーは「アレクシアは私自身の怒りについて語っています」とも話しているので、映画の世界でも男性が中心にいることへのアンチテーゼを唱えているのかもしれない。ルーセルは「前もって苦痛に悩まされておらず、暴力的で、強くて、男性を殺せる女性キャラクターが不足していると思います。私は、女性が独立していて、(男性のことを)気にかけず、暴力には暴力でお返しできる女性がいる映画が観たいです。(略)女性にはもっとキケンになってもらいましょう」と回答。そんな彼女のお気に入りはデビッド・フィンチャー監督の『ゴーン・ガール』とのこと。同作には、男性が自分にとって都合が良く、“俺色”に染まってくれる女性を「良い女(クール・ガール)」と呼ぶことを皮肉るセリフが登場する。『Titane』の日本公開は未定だが、もし公開されれば男性観客にとってはよりスリリングな鑑賞体験になるだろう。
【参照記事】
Deadline
https://deadline.com/2021/10/julia-ducournau-agathe-rousselle-talk-titane-1234847189/