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業界激震!ワーナー・ブラザースが決断した「劇場と配信の同時スタート」はなぜ批判を招いたのか

この1週間はアメリカの映画館にとって、そして多くの映画監督にとって「驚き」と「怒り」に溢れていた。それはもちろん、ワーナー・ブラザースが発表した衝撃的発表がきっかけだ。既に多くのニュースが報じられているこの一件、改めて何が起きたのかを整理していきたい。



①2021年公開の全17作品を劇場公開と配信開始を同時にスタートすると発表

そもそもワーナー・ブラザースは『ワンダーウーマン1984』を劇場と配信の同時開始を発表していた。もちろんこの発表には多くの驚きの声があった。実際、『TENET/テネット』の興行失敗や、一向に収束の気配を見せない新型コロナウイルスの影響で公開延期が危ぶまれていた同作が劇場公開されることが発表されると、配信が同時に開始されるとはいえ、その反応は好意的だった。監督のパティ・ジェンキンスも喜びのコメントを出している。

しかし、12月4日、ワーナー・ブラザースは再び衝撃的な情報を解禁。それが「2021年に劇場公開が予定されている17本全ての作品も、劇場公開と配信開始を同時に行う」というものだった。対象作品は『ゴジラ vs コング』、『モータル・コンバット』、『DUNE/砂の惑星』、『ザ・スーサイド・スクワッド』、『マトリックス4』などだ。これらの作品はワーナー・ブラザースが運営する配信サービスHBO Maxで、配信開始から1ヶ月間、追加料金なしで視聴できる。現時点でこれは「2021年の為の対処で」としている。

この「2021年の為の処置」というのが大きなポイントだ。もしこの試みがワーナー・ブラザースにとって大きなメリットを生み出す結果になれば、2022年以降もこの処置をとる可能性は十分にある。HBO Maxの会員を増やすことも出来るし、現にディズニーは『ムーラン』をDisney+での配信に切り替えて一定の成果をあげている。またディズニーはスター・ウォーズやマーベル・シネマティック・ユニバース作品のスピンオフ作品を多数、Disney+で製作することを発表している。もしワーナー・ブラザースも同様に配信サービスが結果を残せば、新たな作品の可能性を生み出すことも出来る。

②映画館サイドは激しく非難。法的訴えも辞さないとする会社も

しかし、この試みは一方で、「映画館」にとっては死活問題だ。「配信サービス」利用者が増えるという事はそれだけ、劇場に来る人が奪われる可能性があるということっだ。アメリカの劇場は既に多数の大作映画の公開延期に対して不満の声を挙げていた。ロサンゼルスやニューヨークの大都市の映画館は未だに閉鎖しているが、一方で新型コロナのワクチン接種が間もなく始まろうとしている。2021年には映画ファンが映画館に戻ってくるはずなのに、それを配信サービスに取られてしまっては、劇場主としてもたまったものではないだろう。倒産してしまう映画館が多く出てきてしまうかもしれない。

アメリカ最王手の映画館チェーンAMCの代表は「ワーナー・ブラザースは自社が運営するHBO Maxを広げるために劇場ビジネスやフィルムメーカーの利益を奪おうとしている」と激しく非難。話し合いの場を設けるべく動いているという。

『ゴジラ vs コング』や『DUNE/砂の惑星』の製作会社レジェンダリー・ピクチャーズは、ワーナー・ブラザースを法的に訴えることも視野に入れている。「ワーナー・ブラザースには利益があるかもしれないが、自分たちには不利益しかなく、契約の見直しが絶対に必要になる」というのが彼らの主張だ。

これらのリアクションを見る限り、ワーナー・ブラザースは劇場サイドや製作会社に対してほとんど告知をせずに発表したことが分かる。

③クリストファー・ノーラン監督を始め、多くのクリエイターも激しく非難

ワーナー・ブラザースの今回の発表は映画監督たちにとっても衝撃だったようで、中でもクリストファー・ノーラン監督はワーナー・ブラザースのこの決断を激しく非難。「偉大なフィルムメイカーや映画スターたちは最高の映画スタジオと働いているつもりでいたのに、朝起きてみたら最悪の配信サービスのために働いているのに気づいた。誰にも言わず決めるやり方がひどい。不信感でいっぱいだ。」とコメントした。クリストファー・ノーラン監督は自身の監督作品のほとんどをワーナー・ブラザースの基で製作しており、大ヒットを記録している。ワーナー・ブラザースにとって最も重要な監督からの信頼を失ってしまった形だ。

同じく『DUNE/砂の惑星』のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督も今回の決断を今回の発表に怒り心頭。「映画製作とはお互いの信頼のもとに成り立つ共同作業。だがワーナーはもはや同じチームではないと自ら宣言した。」とコメントしている。

こうした非難が相次ぐ中、遂にアメリカ監督協会(DGA)も動き出す。DGAによれば「今回の決定は昨年11月に話し合った内容と矛盾しており、早急な話し合いが不可欠だ」とコメントしており、事態はより深刻になってきている。結果としてワーナー・ブラザースは多くの映画監督の信頼を失った形になった。

ここまでがこの1週間当たりに駆け巡ったニュースの数々だ。順調に配信サービスを展開するディズニーとは正反対に、配信サービスを巡って泥沼の事態を招いてしまったワーナー・ブラザース。

そもそもなぜこのようなことになってしまったのか?その原因はやはりワーナー・ブラザースが製作会社や劇場、フィルムメイカーに一切報告せず、一方的に決定・発表をしたことだろう。少なくとも『ワンダーウーマン1984』の決定については劇場も納得はしているし、製作会社も、監督も納得しての決定だったはずだ。そもそも今回の決断でワーナー・ブラザースは映画監督や製作会社の信頼を損なう可能性を一切考慮しなかったのだろうか。長年「劇場至上主義」のクリストファー・ノーラン監督と一緒に仕事をしてきたとは思えない決断だ。

一つにはやはりHBO Maxをもっと大きくしたいという狙いがあるのだろう。既にロールモデルとして成功しているDisney+とHBO Maxでは登録者に大きな差がある。ノーラン監督も述べていたが、劇場や製作会社、フィルムメイカーにとってワーナー・ブラザースの今回の決断は「自分たちを捨てて配信サービスを取った」と映ってしまったのだろう。

では肝心の劇場は今後どうするか。配信サービスとの差別化を図るには、例えばIMAXのような大画面・高音質のスクリーンをより多く投入し、映画館でしかできない体験を売り出す必要が今まで以上に出てくるだろう。しかし、一方でそれは料金の高騰を招くかもしれない。

今回のワーナー・ブラザースの決断は、彼らだけでなく「映画産業」全体を大きく変える可能性が有る。それが吉と出るか、凶と出るか。今後の動向からますます目が離せない。