是枝裕和監督、出口夏希、蒔田彩珠らがヴェネチア国際映画祭に登壇!実写映画『ルックバック』公式会見レポート
藤本タツキの原作コミックを、是枝裕和監督が脚本・編集も手掛け、出口夏希と蒔田彩珠のW主演で実写映画化した『ルックバック』が、イタリアで開催中の第83回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門に正式出品された。9月11日(金)の全国公開に先駆け、現地時間9月7日、ヴェネチア・リド島の「Palazzo del Cinema」にて公式記者会見およびフォトコールが開催され、是枝監督をはじめ、W主演の出口夏希と蒔田彩珠、キャストの七瀬ふうり、岡田六花、小出大樹プロデューサーが登壇した。
満席の会場には世界各国から約120人の報道陣が集結。会見冒頭の挨拶から質疑応答、フォトコールまで、熱気に包まれたイベントの模様をお届けする。
会見の冒頭、小出プロデューサーは「今日はお越しいただきありがとうございます。 『ルックバック』という作品を、是枝監督と1~2年の時間をかけて作って、皆さんに見ていただける機会が今日あるのが大変嬉しいです。短い時間ですがよろしくお願いします」と喜びを語った。続いて、子供時代の藤野を演じた七瀬は「こんにちは。子供時代の藤野を演じました、七瀬ふうりです。今日は緊張していますが、みなさんに楽しんでいただけると嬉しいです。今日はよろしくお願いします」と初々しく挨拶。岡田は英語で、「皆様、はじめまして。岡田六花です。私は幼少期の京本を演じました。小学5年生の時にこの映画の撮影を始め、今は中学1年生になりました。この映画に多くの時間と努力が費やされました。たくさんの人に見て楽しんでいただけたら嬉しいです。ありがとうございます」と思いを伝えた。蒔田は「京本を演じました蒔田彩珠です。映画祭は初めてで、すごく毎日ワクワクしながら楽しく過ごしています。短い時間ですけどよろしくお願いします」と笑顔を見せ、出口も「藤野役を演じさせていただきました出口夏希です。初めてのヴェネチアをすごく楽しみにしてきました。短い時間ですがよろしくお願いします」と挨拶した。
質疑応答では、まず是枝監督に原作漫画との出会い、そして実写映画化を決めた理由について質問が寄せられた。
原作と出会ったのは「漫画が出版されてすぐ、2021年ぐらい」だという是枝監督。当時はコロナ禍の影響で、自身が関わってきた映画制作がすべてストップし、「立ち止まらざるを得なくなっている状況だった」と振り返る。「自分が関わっている映画が、世界が非常事態に陥った時に、どんな意味があるのか、価値があるのかを考えざるを得なくなった時に、この作品と出会って、覚悟を問われたような、背中を押されたような、もう一度映画を作ってみようという強い気持ちが自分の中に蘇ってくるような、そんな出会いでした」と明かし、「なので、藤本(タツキ)さんにお会いした時にまずお礼をお伝えして、『こんな漫画を作っていただいてありがとうございます』ということをお伝えしました」と語った。そして、「お礼を形にするのであれば、自分は監督なので映画にしようという流れに自然になりました」と実写映画化の経緯を説明。「普段あんまり映画化を前提に漫画を読むことはないのですが、この作品も映画化作品を探しながら出会ったわけではなく、ふと、背中が表紙になった漫画が気になって手に取ったという、偶然の出会いから生まれたものです。とても良い出会いだったと思います」と、原作との運命的な出会いを振り返った。
続いて小出プロデューサーには、『ルックバック』が多くの読者や観客の心を惹きつけ、漫画、そしてアニメ映画として大きな支持を集めた理由について質問が。小出プロデューサーは、是枝監督がコロナ禍で「何も動けない、作ることに意味があるのか」とクリエイターとして問われるタイミングで原作と出会い、背中を押されたことに触れながら、藤本タツキが本作を描くに至った背景についても言及した。藤本が大学生として上京し、美術大学に通っていた頃に東日本大震災を経験したことにも触れ、「本当に何もできない」と感じていたという藤本の思いを説明。絵を描くことに長け、美術大学に進んだ藤本にとっても、震災を機に創作することが完全に止まってしまった時期があったという。「本当にクリエイターとして自分の将来、どういう風に進めばいいんだろうというところの悩みがあって、ボランティアに行っても、瓦礫を運ぶことが何に繋がるんだろうみたいなことを自問自答する。ただその時には技術もなくて、まだデビューもしていなかった時のモヤモヤというか、この衝動が、月日を経ってこういう形で『ルックバック』という作品になったという話を聞いていまして」と語った。さらに、「自分が何をできるのかどうなのかっていうところの、完全に形にならないけど何か行動したいという気持ちって、みんな持っているある種不変的な気持ちみたいなところに、藤本先生が書かれたこの『ルックバック』は通じていったところがある」と分析。「アニメのヒット、カルト的なという風に今お話があったかと思うんですが、ヒットだったり漫画が強い共感性を持った原体験が、3.11やコロナに起因しているところがあるからではないかなと、プロデューサーとして感じています」と自身の考えを明かした。
映画の中では漫画家を目指す藤野と京本の姿が印象的に描かれているが、劇中で使用された絵について尋ねられると、出口は「私たちは撮影が始まる4か月前から漫画を描く練習を始めたんですけど、(劇中でも)使われています! 練習してきたものを、映像、映画の中でも出していただいてます」と回答。普段好きな漫画として「『ドラゴンボール』が好きです」と明かした。蒔田は、「私が演じる京本が美術の大学に行き始めてからの絵は、プロの方に描いていただいた絵の上から筆を乗せる形で撮影していました」と説明し、普段読む漫画については「『NANA』ですかね」と回答。七瀬も「頑張って練習してきたので、使われてます」と笑顔を見せ、「好きな、普段読んでいる漫画は『ダークギャザリング』という、ホラー系の漫画を読んでいます」と話した。岡田は「私も、たくさん漫画の練習してきたんですけど」と語り、「いろんな漫画を読んでいますが、有名なもので言うと『デスノート』ですかね」と好きな漫画を明かした。
続いて、これまでの作品でも子どもや若者、少年少女の視点から物語を描いてきた是枝監督に、今回もそうしたテーマを選んだ理由、そして日本文化における漫画の存在について質問が寄せられた。
是枝監督は、「確かに僕の映画の中には子供がたくさん出てくるんですけれども、作品によって子供の描き方は変わっていると思います」とコメント。「大人の社会を批評する目としての子供という存在もありますし、作品によっては大人が失ってしまったある種の純粋さみたいなものが、時には暴力的にもなることもありますけれども、そういうものを描くこともあります」と、これまで作品ごとに異なる子どもの姿を描いてきたことを語る。
一方で、本作については「今回の子供たちは正直言うと、自分で撮りながら、何かに一生懸命になっている子供の背中というのはなんでこんなに尊いんだろう、美しいんだろうと思いました」と明かし、「現場にいる大人たちはみんなそう考えながらこの子たちを取り囲んで、尊いものとして撮ったという意識が強いかな」と振り返った。
また、日本社会における漫画の存在については、「たぶん僕が子供の頃、漫画ばかり読んでいるとダメな大人になると言われてました」と回想。「そういう価値観が、たぶん日本で突出して漫画文化というものが発展して以降も、日本以外の国ではまだ残っていたんじゃないかな。大人が漫画を読むということがそれほどポジティブに捉えられなかった時代が長く続いた気がするんです」と語った。その上で、「それがここ10年、15年、20年ぐらいで、価値観が変わったなというのはすごく感じています」といい、「僕も、漫画を読みながら、僕の場合はもちろん最初は手塚治虫さんからスタートしてますけども、そういった漫画と出会いながら大人になってますので、文学を読むのと同じように漫画を読むという意識を持っているんじゃないかな、多くの人は」と自身の考えを述べた。
映画に登場する印象的なロトスコープアニメーションについて質問が及ぶと、是枝監督は「藤野と京本がどういう夢を思い描いたかという部分で、自分が連載した漫画がアニメになることだというのが、とても重要なセリフとして、コンビニからの帰り道で2人で語り合うシーンがあって」と説明。「お互いが別々のルートをたどりながら、同じようにその夢を思い描いていたということが分かるといいなと思ったんですよね」と語り、「その結果として、あのシーンで、藤野の中で2人が出会ったかもしれない。架空の設定だと思いますけれども、自分たちが過ごしてきた時間がそのままアニメーションになるという描き方をしたいと思いました」と、その演出に込めた思いを明かした。そして、「それは、過去を共有していると同時に、未来も2人は共有しているのだという意識で最後のあの背中を撮りたいと思ったのが1番大きいと思いますね」と語った。
日本の地方で暮らす少年少女がどのように夢を抱き、漫画家を目指していくのかという背景を世界へ伝える意義については、「意義というのは難しいんですけど」と前置きしながらも、「僕もこの映画を作りながら、漫画というものがどういうプロセスで出来上がっていくのかということを学びました」と明かした。さらに、制作を通して自身がテーマとして意識したものは「音」だったといい、「描く音が非常にためらいながら弱々しい音を立ててたペンが、やがて迷いなく力強い音を出して、それが2つに重なってデジタルに変化していく」と説明。「漫画というものがどういう風に作られ、出来上がっていって、しかも時代とともに変わっていくのかということを、作品の2人の成長を通して描けたことがとても大きな意味があったかなと思います」と語った。
映画制作にあたって苦労したこと、そして楽しかった思い出についても、それぞれが回答した。
小出プロデューサーは、「この映画の企画としてプロデュースするにあたって、僕が心がけたところは、日本の映画作りのお金の集め方だったり、ファイナンスだったり、ディストリビューションのあり方だったりを、もう一度捉え直して作りたいなと思って」と説明。東映を退社し、是枝監督に企画を提案したところから自身の映画作りが始まったと振り返り、「日本の映画(業界)の働き方だったり、賃金がフェアになるのかということが、どうやったらもっと良くなるんだろうかというところを、是枝監督とディスカッションしながら」考えてきたという。「そのために1日の撮影時間を、それまでの標準的な日本映画よりどれだけ撮ることができるのだろうか、それを回すためにはどういうファイナンスのチームを組むことができるのだろうかというところを、1つ1つ、K2 Picturesという会社を作る中で整えていくことが非常に、僕にとってチャレンジングでした」と明かし、「ここにいる素晴らしいキャストや、是枝監督をはじめとするスタッフのおかげで、実際に映画という形になったことが本当に嬉しいことではあるんですけど、それは僕にとってもすごく挑戦だったので、楽しく難しいことだったなと思っています」と語った。また、「そういう時間の中で、この作品が1年を通して四季を追うことができたり、子供たちがすごく天真爛漫に演じてくれる時間がしっかり取れたということは、僕としてはいい時間を作ることができたんじゃないかなと」と振り返り、「観ていただいて、そう思っていただけたら本当に嬉しいなと思います」と思いを寄せた。
七瀬は、漫画の練習が大変だったと明かし、「この『ルックバック』の藤野を演じる前は、ちょっと絵に興味があって落書き程度で楽しんで描いてたんですけど、こんながっつりちゃんと描いたことがなくて」と振り返る。「知らないことを学べたり、漫画の大変さが伝わってきました。やっぱり絵を描くのが難しく、大変でした」と語った。一方、楽しかった思い出については「撮影期間に、スタッフの皆さんがすごくノリが良くて優しくて、話しやすくてすごく楽しかったし、キャストの夏希ちゃん、彩珠ちゃん、六花ちゃん、この3人もすごく優しくて、ずっと(一緒に)いて幸せでした」と笑顔を見せた。
岡田も「漫画練習も大変だったんですけど、方言が大変でした」と告白。「秋田弁は全然触れたこともなかったし、聞いたこともなかった方言だったので、本当に練習がとっても大変でした」と語った。楽しかった思い出については、「多すぎて一番が選べないんですけど」としながら、「やっぱりふうりちゃんと藤野の部屋とか京本の部屋のセットで、一緒に絵を描いたり、桜餅食べたり、漫画読んだり、こたつに入ったりしたのが、私にとっての楽しくていい思い出でした」と撮影の日々を振り返った。
蒔田は「大変だったことは、漫画練習と、京本は美術の大学で油絵もやったので、その練習も大変でしたね」と回答。「あと方言もあまり聞き馴染みのない方言だったので、時間をかけて練習しました」と語った。楽しかった出来事については、「お昼ご飯のケータリングに、たまにラーメンカーが来てくれて、監督が最前列に並んでいました。そういう光景が私は好きでした(笑)」と、現場での微笑ましいエピソードを明かした。
出口も「大変だったことは、やっぱり漫画練習が本当に大変でした」と回答。「大人になってから絵を描く機会が本当になくて、マメができて、手が痛く、すごく大変だったのを覚えています」と当時を振り返った。一方、楽しかったことについては、秋田県にかほ市での撮影を挙げ、「すごく撮影期間が一番楽しくて。秋田で本当に住んでいるような、生活しているような感じだったんですけど、みんなでスイカ割りしたり、花火したり、撮影じゃないところなんですけど、すごく楽しい夏の思い出になりました」と笑顔を見せた。
是枝監督は「楽しかったことしか思い浮かばないですけど、大体つらかったことは忘れるので(笑)」と会場を和ませる。「楽しかったがゆえに、最初の約束だと春夏秋冬で、一旦クランクアップをして花束も渡した後に、多分楽しかったからだと思うんですけど、もう一回冬と春と追加撮影をさせていただいて、それが素晴らしかったですね」と振り返り、「それが作品にも活きてますし、とてもいい時間だったなと思います」と語った。一方で大変だったことについては、「最初の撮影でとてもとても素晴らしい白鳥が偶然撮れてしまって。脚本にあったわけではないんですけど、それが撮れてしまったことをどう活かすかということで、脚本を書き直し、撮影で通うごとに白鳥を見つけるという作業が、僕ではなくてスタッフが大変だったと思います」と明かした。
さらに、本作における色彩や、四季の移り変わりの表現について質問が寄せられると、是枝監督は「難しいですね」と答えながらも、「最初にこの作品を映画化する時に、藤本さんの出身地である秋田のにかほ市で、4つの季節、要するに4種類の光を撮りたいという、その4種類の光の中に、4人の、2人ですけども、成長を捉えていきたいという風に企画書に書かせていただいた」と明かした。「色というよりは光の変化をフィルムで撮って、作品の中に閉じ込めるという意識でスタッフ全員いたと思います」と語り、「本当に贅沢に時間を使わせていただいたことが、とても大きかったですし、その共通の価値観を、特に撮影の上野千蔵さんをはじめ、スタッフの方たちと共有できたのが良かったかなと思います」と締めくくった。
会見後に行われたフォトコールには、アーティスティックな刺繍が映えるエレガントで華やかな衣装で登場した主演の出口夏希と、深みのあるボルドーレザーのコートドレスをまとったシックなファッションの蒔田彩珠をはじめ、落ち着いた佇まいを見せた是枝裕和監督、フレッシュな装いの七瀬ふうりと岡田六花が勢ぞろい。集まった現地のファンから大きな声援があがると、登壇者たちは笑顔で手を振り、サインや写真撮影に応じるなど、丁寧なファンサービスで会場を魅了した。
実写映画『ルックバック』
2026年9月11日(金)公開
自信家な小学4年生の藤野は、学年新聞に4コマ漫画を連載し、クラスメートたちから絶賛されていた。しかしある日、学年新聞に掲載された不登校の同級生・京本の漫画を目にし、その圧倒的な画力に打ちのめされる。それ以来、藤野は絵が上手くなりたい一心で漫画を描き続けるが、その差は埋まらず、一度は漫画を諦めてしまう。ところが卒業式の日、京本の家へ卒業証書を届けに行った藤野は、京本が自分の漫画のファンだったことを知る。漫画へのひたむきな思いで結ばれたふたりは、一緒に漫画を描き始める。かけがえのない時間を積み重ねていく藤野と京本。しかし、そんなふたりの日々を大きく揺るがす出来事が訪れる――。
出演:出口夏希、蒔田彩珠、七瀬ふうり、岡田六花、野呂佳代、池田良、佐々木みゆ、山田真歩、宮藤官九郎、菅田将暉
原作:藤本タツキ「ルックバック」(集英社ジャンプコミックス刊)
監督・脚本・編集:是枝裕和
VFXスーパーバイザー:上田倫人
企画・プロデューサー:小出大樹
配給:K2 Pictures
(C)藤本タツキ/集英社 (C)2026 K2Pictures・集英社
公式サイト:https://k2pic.com/film/lb/
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