【第2回新潟国際アニメーション映画祭】『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』 業界60年、巨匠・富野由悠季 新潟で吠える! 盟友・出渕裕の分析に「コンテを切っている時の気分を思い出した」久しぶりに見た『逆シャア』は「冒頭の編集、上手いなぁ〜!」と自画自賛!
3月15日より3月20日まで、第2回新潟国際アニメーション映画祭が開催中です。昨年3月の第1回映画祭より、世界で初の長編アニメーション中心の映画祭として、また多岐にわたるプログラムとアジア最大のアニメーション映画祭として、日本のみならず世界へも発信される映画祭だ。映画祭2日目となる本日3月16日、イベント上映にて『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』が上映され、監督の富野由悠季氏とメカニック・デザイナーで本作ではモビルスーツデザインを手がけた出渕裕氏が登壇。トークショーが行われた。
アニメ業界60年となる富野由悠季監督の来場が発表されると大反響を呼んだ本イベント。500席を超えるチケットは即完売し、異例のイベント配信も発表された。期待と熱気に満ち溢れた客席を前に富野監督は「60周年なのよ、それが嫌なの。もう一つ嫌なのは、今日ここで『逆シャア』をやるっていうんだけど何年前の映画だか知ってる?36年前なの。なのにこういうところで・・・まぁ高畑監督の作品があるんでそれよりは新しいかもしれないけれども・・・という言い方はあります。僕にとっては高畑監督は師匠です。師匠と一緒にこうやって上映されるのはいいんだけれどもと言いながら、本当はちょっと照れるな。それで何よりも立ってるのが辛い人なので座ります、はい」と冒頭から“富野節”全開。
出渕氏は「富野さんとお会いしたのは何年か前に忘年会でお会いして・・・」と話すと途端に富野監督から「覚えてなーい!」の声。「覚えてないでしょ、知ってます。でもその時のネタっていうのが富野さんに「もうガンダムやんないんですか?」って聞いたら「やんないわよ!」って言われて(笑)こういうネタって面白いと思いません?って。ちょっと言えないんですけど・・・言ってもいいのかな、どうせやんないんだから!そしたらね、ありがたいことに座ってる富野さんが「バカー!!」つってキックをかましてくれたんでね、とても宝物になりました(笑)」と長年の盟友ならではの掛け合いでどんどん会場を盛り上げていく。
本映画祭は長編アニメーションを対象としたコンペを持つ世界でも数少ない映画祭。長編アニメーションというものについて「僕は仕事柄、スポンサーの言うことは全部聞くということで有名な監督ですので(場内笑)はなから長編しかやってませんので、短編アニメのことはほとんど知らない。短編っていうのは甘っちょろいものではくて、短編でいまだに覚えているアニメーションが1本だけあります。手塚治虫の『ジャンピング』です。ジャンプする人の目線で街中、いろんな景色が見えてくっていうアニメ。60年くらい前にみてる短編なんだけどもこれは覚えてます。そういうものでない限り「好きに作るな!!」というのがアニメです。作り手が好きに作っていたら映画になりません。アニメになりません。それはどういうことって説明をしようと思ったら1時間半かかるのでやめます!」と格言が飛び出した。
上映作品『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』はガンダムシリーズで初めてのオリジナルストーリーで映画化された作品。出渕氏はモビルスーツデザインを手がけているが「さっき、『え?やってたっけ?』とか言われちゃって!」と富野監督の発言を暴露、富野監督は悪びれもせず「全く覚えてません」と答える。「出渕って人は本当に器用な人で、便利な人で、デザイナーとして絵描きとしてはこんなに便利な人はいないと思ってました。その思いは現在まで全く変わってません。それを本人は「どうせ私は器用貧乏で、ちゃんとしたことができる仕事じゃないんですよね」ってさっきも不貞腐れてました」という話の流れから、“あれしか書けない”一芸に秀でる人の話に。富野監督が「“あれしか書けない“っていうのは色が一色しかないということ。意外とそれを幅広くやるってことはできるわけがありません。手塚治虫がギャングの映画をかけると思いますか?そしてじゃあ手塚漫画が漫画として読めないかっていうと、読めるでしょ」と話すと「手塚さんは漫画っていうジャンルの中でいろんなことを試してきた人だと思うんですよ」(出渕)「だから手塚先生がいたおかげで戦後70年80年の歴史の漫画のベースを作るっていうことを手塚先生を追いかけることでみんなができるようになっちゃって、その後少女漫画の隆盛が起こったり。そしてつい最近お亡くなりになった鳥山明さんの「ドラゴンボール」みたいな時代を画するようなものを作ってしまって。今度は鳥山明で終わるかと思ったらもう一つ化け物が出ましたよね。ワンピースです。そういう系譜があるということです。手塚治虫がやったことがあるんでワンピースまで繋がってるんです。それだけでなくてこの数年の漫画っていうものが、文芸作品を超えるような漫画まで出てき始めています。漫画とかアニメっていうのは、ファンは一面的に見て喜んでいるだけでいい。だけどそこから「俺もやるぞ、プロになるぞ」っていう気分を持った人は、かなり広い視野を持っていかないとこれ以後の漫画家とかアニメの作り手ってなかなか出ないだろうと」と漫画・アニメの歴史のターニングポイントを語った。
「そういう意味では、我々はとてもいい人を目標にすることができた。宮﨑駿の『君たちはどう生きるか』がアカデミー賞を取れたということ。ああいうとんでもない作品が出た。ハッピーエンドではないアニメを作ってしまって、それがアメリカの映画界、アニメーション界ではない映画界でも、こんなめんどくさいアニメーションができてしまったのかというのは、ワンピースをひょっとしたら超えるかもしれない」とアニメ業界の巨匠の目から見て、まさに今がターニングポイントであることを語ってくれた。そして「映像が好きで、アニメとか漫画の仕事をやりたいと思っているお前ら若者!舐めてもらっちゃ困るよ。というのは、本当に命かけないと宮﨑超えられなくなるんだよねって。ワンピースも超えられなくなるんだよ。Dr.スランプを超えなくてはいけないってのはどういうことなのか。本当に考えなくちゃいけない」と歴史を踏まえどんどん高くなるハードルに挑む若者たちに愛の鞭を送った。
ハイスピードでどんどん盛り上がっていく富野監督と出渕氏のトーク。出渕氏が「今、『逆襲のシャア』に関して思うことがある」とのこと。「1つは、シャアを再発見・再構築した作品だなということ。前にクアトロ・バジーナって人いたじゃないですか。あれってね、富野さんにとっては失敗作なんですよ。基本的にクアトロっていい人にしちゃったというか、これはアムロ達と一緒にしといたほうが膨らむかもしれないって。でもね、基本的にシャアって・・・これいうと反発する方もいるかもしれないけど・・・あいつね、サイコパスなんですよ」と見解を述べると「だってサイコパスの症例と全部当てはまるんだもん!独善的で自分がやろうとしていることには手段を選ばなくて、共感力がなくて人に嘘つく。これから『逆シャア』見ていただくとわかるんですけど、シャアって嘘ばっかし言ってますから!交渉の時もそうだけどね、女性に対しても、部下に対しても、みーんな嘘ついてるんですよ!シャアの言ってること、本当のことなんて一言もないですよ。もしかしたら最後のアムロとの対峙も「こいつ嘘ついてんじゃね?」というくらい。サイコパスって刺激を求めるんですよ」という衝撃の分析を披露。富野監督は「その指摘は初めて聞いたけど正しいね!つまりラストシーンでのシャアとアムロのセリフを作っているときに今の感覚は実はあったというのを思い出した。なんか気持ち悪いな、本当はこういうふうに作りたくないんだけれども時間切れだからしょうがなくってというところあると思います」とその指摘に同意。「最初のシャアってね、サイコパス気質あるんですよ。ただかっこいい敵の悪役みたいなオブラートに包まれてるんで、みんなそれに騙されてるんですよ」と出渕氏がシャアの分析をすると即座に富野監督も「それは言える、それはファッションがいけないのね。それは認める」と同意し、笑いを誘っていた。
Zガンダムや、ファーストガンダムで綺麗にまとまっていたニュータイプが続編を作ることで余韻を説明しなくてはいけなくなるなど困ったことが続出したことで、『逆シャア』では触れられていないこともあると指摘。出渕氏は「富野さんが『逆シャア』でやりたかったのは生っぽい人間。ニュータイプなんかどうでもいい!サイコフレームなんかにしてもはっきり言って理屈はつけてるけど最後落とすのスピリチュアルというかオカルト展開だけども、一応理屈はつけたよって方便を見せているだけで」と話すと「方便を見せているだけじゃなくて、まさに方便です」と全肯定。「今思い出しましたもん。今出渕くんが説明したような『逆シャア』の解説は全て正しいです。全否定するところは一切ない。むしろ自分自身が今びっくりしたのは、コンテを切っている時の気分、違和感っていうのを全部思い出させてくれた。今日来てよかった!」と満足げ。
「富野さんは編集がいいんですよ。キャラクターが喋ってる途中で次にセリフがあるだろうなっていうところの頭を残して切る。あれで不思議なリズムが出るんですよ」と出渕氏が語ると、富野監督は「だけどそれに関してね、クソミソにね、富野編集下手だよねって言ってる・・・庵野ってやつがいた!!!」と吠え、会場は拍手も交えた大爆笑。出渕氏は「庵野くんの話を知ってる人もいるかもしれないですけど(笑)僕も一番最初『逆シャア』見た時にちょっと違和感があったんですよ。でもその後に見返すことがあって「これは面白い」と。要するに1回見ただけじゃわからないことがたくさんある。親切設計してないんですよ。説明するところも全部ダイアローグの中に込めてるんですよね」と話すと、ちょっと忘れていたから冒頭5分を今日見たという富野監督は「本当にびっくりした、頭の3,4分の編集、うまいなぁ〜!」と自画自賛。「長編映画を作っていく時の面白さっていうのは、映像のリズム感で物語を語れるっていう部分なんです。そういう意味では『逆シャア』はそれなりに頑張ってるんじゃないのかなって気はしてますので、そこは見てください」と語り、これから見る観客の期待を高めていた。
また、最後の挨拶でも自身の健康不安も語りつつ出渕氏から「富野さんは仕事があると元気ですから」と流されていたが、「宮﨑さんっていう監督が、アメリカの映画界にアニメはディズニーアニメだけじゃないんだとわからせたのは今年なんです。っていうことはこれ以後受け継いでいくのは皆さん方。年齢下の人たち頑張って!むしろここにいるお子さんをお持ちの方、お父さんお母さんは今言ったようなことを子どもに教えていただきたい。つまり宮﨑アニメがあったおかげで、映画界自体も変わってくるぞと」と、これからの未来を担う若者達へ熱い思いを再び伝えつつ「その勉強っていうのは、ただ昔の作品を追いかけているだけではいけないんだよっていうことでいうと、今回の映画祭みたいなところで高畑監督のメンドクサイアニメがいっぱいあります(場内爆笑)、ちょっと見てやってください。『赤毛のアン』(3月19日、3月20日にシネ・ウインドにて上映)俺やってるんだからね!」と、しっかりと宣伝も。愛のある皮肉が楽しい“富野節”炸裂のトークイベントは大盛況のうちに幕を閉じた。
【第2回新潟国際アニメーション映画祭】
英語表記:Niigata International Animation Film Festival
主催:新潟国際アニメーション映画祭実行委員会
企画制作:ユーロスペース+ジェンコ
会期:2024年3月15日(金)~20日(水)
公式サイト:https://niaff.net
公式X(旧Twitter):@NIAFF_animation
公式Youtube:https://www.youtube.com/channel/UC81m7n8a8MgQGC-8MUXs7pA
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