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歴史的快挙から、まさかの事件まで・・・色々あった第94回アカデミー賞を振り返る


文:大西D(ヒカセン兼業ライター)

 

色んな意味で記憶に残る授賞式となった第94回アカデミー賞。授賞式から1週間が経ち、色んなことが起きているが、そういった事も踏まえつつ、アカデミー賞の結果を振り返り、誕生した記録などについても触れていきたい。

◆遂に配信作品が頂点に

今回の作品賞を受賞したのは『コーダ あいのうた』。昨年のサンダンス映画祭でも絶賛された同作が今年のオスカーの頂点に輝いた。タイトルにもなっている「CODA」とはChild of Deaf Adult(=耳が聴こえない大人の子供)と言う意味で、本作は聴覚障害を患った家族の中でただ一人、健聴者である女性が主人公だ。本作の配給権を持つのはApple TV+、つまり本作は「配信作品」である。

一方で今回のアカデミー賞で当初は最有力と言われていた『パワー・オブ・ザ・ドッグ』もNetflix配信作品。配信作品が盛り上がり始めた時期は、それに反発する映画監督もいたが、今や配信作品は映画界に無くてはならない存在。劇場作品であろうが、配信作品であろうが、優れた作品であれば評価され、アカデミー賞を受賞することが出来る。しかも配信作品の方が、劇場作品よりも作家性を発揮しやすい利点もあり、今後ますます配信作品の勢いは増していくかもしれない。

ちなみに『コーダ あいのうた』はフランス映画のリメイク作品。非英語作品のリメイク映画がオスカーの頂点に立つのは『ディパーテッド』以来となった。

 

◆監督賞、演技部門は全員が初受賞!一部の部門を先行発表
今回の監督賞、演技部門の受賞者は全員が初受賞。輝かしいオスカーの歴史に名を刻むことになった。

監督賞を受賞したのは『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のジェーン・カンピオン。今の時代よりもはるかに女性監督の活躍が珍しかった90年代から活躍を続けており、『ピアノ・レッスン』という傑作も監督。前哨戦でも無類の強さを発揮したカンピオンが見事受賞。そしてオスカーの歴史上初めて、2年連続で女性の監督がオスカーを手にすることになった。多様性が叫ばれる昨今、もはや「女性監督」と言う表現すら、近い将来無くなるかもしれない。カンピオンの受賞はそれだけの意義があるだろう。

助演女優賞を受賞したのは『ウエスト・サイド・ストーリー』のアリアナ・デボーズ。同作は60年代の傑作ミュージカル『ウエスト・サイド物語』のリメイク。デボーズは、かつてリタ・モレノが演じてオスカーを受賞したアニータ役を演じ、見事オスカーを受賞。また、彼女はアフロラティーナ(アフリカとラテンアメリカにルーツを持つ人)としても、クィアを公表した女優としても初のオスカー受賞者。近年のアカデミー賞が標榜する「多様性」の象徴と言えるだろう。

助演男優賞を受賞したのは『コーダ あいのうた』のトロイ・コッツァー。受賞のスピーチのために壇上に上がると、多くの人が彼を称賛するために手話で拍手を意味する、手をひらひらさせる姿は多くの人の感動を誘った。聾啞男優としては初の受賞となった。

主演女優賞を受賞したのは『タミー・フェイの瞳』のジェシカ・チャステイン。主演女優賞は誰が受賞するか予想しずらい、近年稀に見る混戦だったが。それを制したのはチャステインだった。『ツリー・オブ・ライフ』『ヘルプ』『ゼロ・ダーク・サーティ』などでその実力を高く評価され、近年はアクション映画でも活躍してきたチャステイン。実力派女優の嬉しい初受賞となった。

主演男優賞は『ドリームプラン』のウィル・スミスが受賞。21世紀に入って4人目の、黒人俳優による主演男優賞受賞となった。色々あった事件については後述したい。

例年と違いかなりコンパクトになった授賞式。その理由は一部の部門を先行発表したからだ。技術・美術の一部が先に発表されたが、『DUNE/デューン 砂の惑星』が圧勝。同作は今年のオスカーで最多6部門受賞を果たした。その次に最も多く受賞したのが作品賞を受賞した『コーダ あいのうた』の3部門であることから、いかに多くの部門を制したかが分かる。

一部部門の先行発表は当事者たちとしては複雑な想いがあるかもしれないが、視聴者としては観やすくなって良かったかもしれない。


◆記憶に残ったシーン

いい意味でも悪い意味でも記憶に残るシーンがあった今回のアカデミー賞授賞式。良い意味で記憶に残ったシーンと言えばビリー・アイリッシュの主題歌パフォーマンスもその一つ。主題歌賞も受賞したアイリッシュによる圧巻のパフォーマンスは今回のハイライトの一つだった。

またトロイ・コッツァーの受賞スピーチは非常に感動的だったが、手話でスピーチをするコッツァーを気遣い、オスカー像を持ってあげる昨年の勝者ユン・ヨジョンも良かった。ヨジョンの優しさが感じられる、心温まるシーンだった。

プレゼンターとして登場したサミュエル・L・ジャクソン、ジョン・トラボルタ、ユマ・サーマンは『パルプ・フィクション』での有名なダンスシーンを披露。愉快に踊るトラボルタとサーマンに挟まれるジャクソンも最高だった。

◆ビンタ事件について
と言う風に良い意味で記憶に残るシーンがあった今回のアカデミー賞だが、それ以上に悪い意味でみんなの記憶に残ってしまったのがウィル・スミスによるビンタ事件。司会を務めたクリス・ロックがウィル・スミスの妻、ジェイダの坊主姿をジョークにしたことでスミスが激怒し、壇上に上がってビンタした。

そもそもジェイダは好き好んで坊主にしたわけではなく、脱毛症に悩んでいて、その姿を間近で見ていたウィルが怒ったというのが今回の経緯。実際にクリス・ロックがジェイダの坊主頭に対するジョークを言ったときも、ジェイダは複雑な表情を浮かべている。人の容姿を、それも病によってそうなってしまった容姿をネタにしたロックのジョークは悪趣味であったことは否定できないだろう。しかし、それに対して力の暴力で応えてしまったウィルも、間違いなく悪かったと言えるだろう。

アカデミーも後にいかなる暴力も容認しないという声明を出すなど、ウィルに対する批判を出している。一時は受賞の剥奪もあり得ると言われていたが、そしてウィルはアカデミー会員を辞退する意向を表明。受賞自体は剥奪されないようだ。

この事件を考える上で重要なのは、まずロックはジェイダの病気を知っていたのかという点だ。このことを知っているのか、そうではないのかで、あのジョークの意味は全く違ってくる。知らなかったのであれば、単なるジョークが人の逆鱗に触れてしまった、と言うことになる。しかし、もし仮にロックがジェイダの病気を知りながら、あのジョークを言ったのであればこれは極めて悪趣味だ。
(後にロックはジェイダの病気について知らなかったと言っているが、ジェイダはこの病気のことを公表しているので、その真相は分からない)

もう一つはロックのジョークに対して、ウィル自身も当初は笑っていたということだ。日本ではこの点についてそこまで報じられていないが、ロックのジョークを聞いて複雑な表情を浮かべているジェイダの横で、ウィルも笑っているのが映像でも分かる。恐らく妻の表情を見てビンタしに行ったのだろうが、ロックのジョークが彼にとっても許せないものであれば、そもそも笑うということもしないはずだ。会場で笑っていた人間も悪いという声が日本ではよく聞かれるが、それであればウィルもその一人であり、彼の「妻のために怒った」という理由はそもそも成立しない。

日本とアメリカでのリアクションの違いについて書くとかなり長くなってしまうので割愛するが、どんなことがあっても暴力は許されないし、世界中の人が観ている場で暴力を振るってしまったウィルの罪はやはり重い。たとえそれが言葉による暴力を振るわれた後でもだ。言葉には、やはり言葉で返すべきだっただろう。


◆終わりに

『コーダ あいのうた』による歴史的な受賞、感動のスピーチの数々が人々の記憶に刻まれるべきだった今回のアカデミー賞を、一つの暴力で台無しにしてしまったことは非常に残念でならない。それでも今回の事件のリアクションや価値観の違いは、非常に興味深いと感じた。もちろん、言葉であれ力であれ、暴力は許されないが。

アカデミー賞授賞式が終わると、「あぁ1年が終わったな」という感じがする。毎年授賞式に向けて色んな情報を集めて、予想をして、誰に言われたわけでもなく、一人でそうやって考えている時間が幸せだと、授賞式が終わる度に感じる。

来年のアカデミー賞ではどんな作品が栄誉を手にするのか。第95回アカデミー賞が今から楽しみで仕方がない。

最後に今回の授賞式で生まれた記録の一部をご紹介。

★『コーダ あいのうた』

配信作品として初めての作品賞受賞作品。またリメイク作品として『ディパーテッド』以来2作目の作品賞受賞。そしてサンダンス映画祭グランプリ・観客賞受賞作品としても初受賞となった。

★4人目

ウィル・スミスは21世紀に入ってから4人目の黒人俳優受賞者。ウィル以外だとデンゼル・ワシントン、ジェイミー・フォックス、フォレスト・ウィッテカーがいる。

 

★黒人俳優のジンクスが続く

21世紀で黒人俳優が主演男優賞を受賞するときは、主演男優賞に2人以上黒人俳優がノミネートされている時というジンクスが、今回も当たった。

★聾唖俳優初の快挙

トロイ・コッツァーは聾唖俳優として、初めて男優部門を受賞した。聴覚障害者でオスカーを受賞したのは過去にマーリー・マトリンがおり、『コーダ』では夫婦役で共演している。


★同じ役を違う役者で受賞

アリアナ・デボーズが演じたアニータは、オリジナル版でリタ・モレノが演じ、彼女もオスカーを受賞している。同じ役を複数の俳優が演じて受賞した例は他には『ゴッドファーザー』のマーロン・ブランドとロバート・デ・ニーロ、『ジョーカー』のヒース・レジャーとホアキン・フェニックスがいる。

★シリーズ3作品連続受賞

ビリー・アイリッシュが主題歌賞を受賞したことで、『007』シリーズは3作品連続で同部門を受賞したことになる。

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