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KIQ REPORT編集長が語る「静かに、でも、けたたましく心揺さぶられるドキュメンタリー映画」

 

ドキュメンタリーが熱い。

海外ではもう数年前からその波は来ているように感じる。Netflixもガンガンドキュメンタリー作品を作り続けている。そして日本にもその兆しが来ていると感じている。

ドキュメンタリーブームは、YouTuberやSNSに溢れかえる個人投稿映像に世界中が夢中になっている事象と大きく関係しているように思われる。誰かの創作や編集されたものではなく、作り物ではない生のもの、実際に起こっていることのリアリティが面白いのだ。すなわち第三者の手(演出)がない物への欲求の高まりだ。

 

「現実は小説よりも奇なり」

まさにその通り。ニュースを見ても、街を見ても、国会中継を見ても、フィクション映画もビックリな出来事が毎日のように起こっている。今では当たり前になってしまったコロナ禍だって誰も想像できてなかった。突然発生したウィルスによって世界中が何年もパニックに陥っている。まるで映画の物語だ。

私が今とってもハマっているYouTubeチャンネル「街録チャンネル」では有名人も多数出てくるが、街行く一般の方にインタビューして、それを編集して流しているだけなのに、とてつもなく面白い。人の数だけドラマがある。ドキュメンタリーの可能性は底なしだ。

 

そんな中、各国の優れたドキュメンタリー映画作品の紹介、配給・配信を行うMadeGood FilmsさんからKIQ REPORT宛に問い合わせを頂いた。MadeGood Filmsさんが日本で初めて配給するドキュメンタリー映画『ミッドナイト・ファミリーを観て、感想をアップしてください、というご連絡だ。

ドキュメンタリー好きとしては、迷わず引き受けた。

 

『ミッドナイト・ファミリー』はメキシコの首都・メキシコシティで私営救急隊(救急車)を営む家族の話なのだが、まず「私営救急隊」という概念がよくわからない。どうやら人口900万人メキシコシティでは公共の救急車が45台未満しかなく、だから緊急の際に救急車を連絡しても全然来ないから、その需要を満たすために“闇営業”の救急車という仕事があるというのだ。

この映画は、その“闇”救急車を家族で営むオチョア一家を追いかけたドキュメンタリーである。

 

 

ここ日本では、コロナの感染者が自宅療養になると、「税金を払っているのに自助とはなんだ!」と大きな議論がなされているが、もう全然そんなレベルじゃない。

事故に遭って死にそうな状況になっても、誰も病院に連れて行ってくれない。手を差し伸べてくれるのは、“闇営業”の救急車だけ。でもオチョア一家だって生活がかかっているから、そんな怪我人・重病人からもお金をもらわないといけない。

腹を空かせた弱者が、もっと困った状況に陥った弱者からお金をもらう。

 

“闇営業”の救急隊をオチョア一家

 

作品の中で、長男が言っていた。「どんな仕事も理由がある。病気がなければ医者はいらない。誰も死なないなら葬儀屋は食えない。」と。すなわち人の不幸がビジネスになる。

すさまじい言葉だと思ったが、需要と供給の考えに則ると至っておっしゃる通りだ。“需要”というのは困っているからこそ生まれるものだから、全てのビジネスに通じる考え方だと思う。

 

ただ、事故に遭って困っている重傷者だってお金は持っていない。重傷者を病院に連れて行ったところで、重症者やその家族が支払うことができなければ、オチョア一家は無理にお金をとることはできない。だって、彼らは“闇営業”なんだから。さらにそんな“闇営業”の救急隊員の弱みにつけ込んで、警察が賄賂をせびる。

彼らは腹を空かせ、毎晩深夜まで寝ずに救急車を走らせても、お金はなかなか入ってこない。それでも、必死で重傷者・重病者を助けようとしている。

結果的に自分らの命を削り、人助けをし続けているオチョア一家。
一家のお父さんが家にあるイエス・キリスト像にお祈りをしている姿がとっても印象的だった。

 

お金がなくガス欠になった救急車を押すオチョア一家

 

ちなみにこの作品は、サンダンス映画祭で米国ドキュメンタリー特別審査員賞受賞のほか、各国の映画祭でも数々のノミネート・受賞をしているのだが、何が凄いって、本編中にテロップとかナレーション、さらにはBGMが一切ないこと。唯一、冒頭に「人口900万人に対して救急車の数45台以下。だから闇営業の救急車がある」と行った設定だけテロップで伝えていたが、あとは撮影した映像のみなのである。状況が把握できるのは、映像に残る彼らの言葉だけ。

ドキュメンタリー映画といえども、作り手の想いやメッセージの上で作られている。すなわちストーリーがある。だから、どうしても恣意的に伝えたい方向に見せるということもあるはずだ。(年末から炎上している河瀬直美さんのオリンピックのドキュメンタリーも結果そういう問題だと思う)

基本的にはインタビューイーの言葉はコントロールできないにしろ、作り手は自分が作りたい作品にするために、テロップやナレーションで補完することが多いと思う。音楽もそうだ。視聴者の感情を揺さぶりたいポイントで、それらしいBGMを入れて感情に訴えていく。

 

『ミッドナイト・ファミリー』はそのテロップやナレーションやBGMは一切なし。
ただただ、起こっている現実を見せる
だからこそ、とても静かに、そして、とても強いメッセージを打ち付けるのだ。

 

言葉数の少ない寡黙な父と、しっかり者の長男

 

救急だからこそのとてつもない緊張感満載のシーンと、オフの時のオチョア一家の緊張感のない姿を映すシーン。サイレンをけたたましく鳴らし猛スピードで大渋滞の道路を走り抜けるシーンと、深夜の静かで寂しい街の通りをただ映しただけのシーン。

緊張と緩みの80分。とにかく心揺さぶられ、いろんなことを考えさせられる作品だった。

 

追伸:この作品、制作が2019年だからまだコロナ前の話である。コロナ禍にオチョア一家がどう生きているのか、彼らの人生のその後を見てみたいと強く思います。

 

おまけ:ちょっぴりおバカの次男?ホセくんに癒されてください

 

文:KIQ REPORT編集長

 

『ミッドナイト・ファミリー』
https://www.madegood.com/midnight-family/

【監督】ルーク・ローレンツェン
【製作】2019年/アメリカ、メキシコ
【時間】81分
【配給】MadeGood Films
(C)_FamilyAmbulanceFilmLLC_Luke_Lorentzen

 

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