今では考えられない!? 昭和という時代を映した映画4選!〜昭和の日に振り返る”異常”が日常だった頃〜
「昭和の日」は、激動の時代を生きた人々に思いを馳せる祝日です。けれど、令和のいま、昭和という時代は「懐かしい」を通り越して、もはや「異世界」のように感じられるかもしれません。スマホもSNSもなく、情報よりも空気がモノを言い、常識のスケールが現代とはまるで違った時代。そんな「昭和の異常な日常」を如実に映し出す映画を4本選びました。いずれも今観ると驚くような価値観や空気感に満ちた作品ばかりです。単なるノスタルジーではなく、現代とは何が違っていたのかを考える手がかりとして紹介します。
文:アイエリ
<暴力がリアルで、義理と人情が命より重かった時代>
『仁義なき戦い』(1973年)
『仁義なき戦い』は、深作欣二監督による実録ヤクザ映画の金字塔です。戦後の広島を舞台に、復員兵・広能昌三(菅原文太)が抗争に巻き込まれ、裏切りと報復の連鎖の中でのし上がっていく姿を描いています。
この作品が登場するまでの任侠映画は、義理と人情を貫く美しい世界でした。しかし『仁義なき戦い』に登場する男たちは、そんな建前を平然と踏みにじり、己の欲と保身のために動きます。仲間を売る、裏切る、そして殺し合う。その姿がむしろリアルで、観客に衝撃を与えました。
深作監督は、手持ちカメラとドキュメンタリー調のナレーションを駆使し、現実さながらの緊張感を生み出します。スクリーンからは、暴力と怒号と死の気配が溢れ出し、観る者に「これはただの映画じゃない」と感じさせる迫力があります。菅原文太演じる広能の静かな怒りと哀しみも、この作品の魅力の一つです。義理に生きようとしながらも、時代の流れに飲まれていく彼の姿に、昭和という時代の残酷さが重なります。
本作は大ヒットとなり、シリーズ化され社会現象に。以後の日本映画に大きな影響を与えました。『仁義なき戦い』は、昭和という時代の暴力性と混沌を、これ以上ないほど赤裸々に映し出した作品です。
<フラれてなんぼ。愛されキャラに詰まった昭和の男らしさ>
『男はつらいよ』(1969年)
「寅さん」の生き様に涙する人も、今の若者には「なんでこの人、こんなにしつこいの?」と引かれるかもしれません。でも、そこにこそ昭和の“人間臭さ”が凝縮されています。
物語は、寅さんが旅先で恋をしては失恋し、故郷の柴又に帰ってきては騒動を起こすという繰り返し。でも、そのパターンの中には、昭和の時代に生きた男たちの姿が色濃くにじんでいます。寅さんの魅力は、情の深さと照れくささの同居にあります。惚れた女には一歩引いてしまい、家族には素直になれず、でも誰よりも相手の幸せを願っている。今の感覚では回りくどく、時に面倒に思えるその態度こそ、昭和の男の「優しさ」だったのかもしれません。
また、寅さんは、口では「くだらねえ」と言いながら、実家のとらやや妹・さくらを心底大切にしています。時代遅れなまでの家族愛や義理人情にこだわる姿は、現代では少し浮いて見えるかもしれませんが、かつての“男らしさ”とは、そうした不器用な責任感に裏打ちされていたのです。
『男はつらいよ』は、ただの人情コメディではありません。そこには、時代とともに消えつつある“昭和の男”の価値観や生き様が、優しく、時に切なく描かれているのです。
<「貧しいけど幸せだった」は本当か? 昭和30年代の光と影>
『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年)
『ALWAYS 三丁目の夕日』は2005年の作品ながら、舞台は昭和33年。東京タワーが建設中だったあの頃、ちゃぶ台のある生活とともに、人々の“つながり”がまるで宝物のように描かれます。
しかし、よく見てほしいのはその“美しいレトロ”の裏側。今の感覚で観ると、「この労働環境は?」「子どもの扱いが雑すぎない?」と驚かされる場面も少なくありません。新聞配達をしながら小学生が親元を離れて生活する、見ず知らずの子どもを平然と引き取って一緒に暮らす——こうした価値観は、令和では「虐待」や「リスク管理」の問題になりかねないのです。
にもかかわらず、この映画は多くの人の心を打ちました。それは「昭和の人間関係」に、現代人が失った何かを見ているからかもしれません。貧しくても、みんなが“他人事じゃない”という感覚。今では考えられない距離の近さに、懐かしさと戸惑いが同居します。
<テレビが「戦場中継」だった、情報狂騒の原点>
『突入せよ!あさま山荘事件』(2002年)
2002年の映画ですが、描いているのは1972年2月に長野県軽井沢町のあさま山荘で起きた過激派による武装占拠事件で、警察特殊部隊との銃撃戦が数日間にわたって繰り広げられました。事件の報道は連日メディアに取り上げられ、まるで映画のような展開がリアルタイムで国民の目に触れ、社会全体がその行方に注目していました。事件発生から数日間、テレビのニュースは毎日のように生中継でその様子を放送し、まさに「リアルタイムのドラマ」として日本全体を揺さぶったのです。
1972年当時、メディアが事件を連日報じる中、社会全体が事件に引き寄せられていきました。日本中の人々が、この未曾有の事件に関心を持ち、まるで一つの大きな「国民的イベント」を見守るような気分に包まれていたのです。その「社会的な熱狂」は、映画においても強調され、観客はまるでその熱気の中にいるような感覚を味わうことができます。
いかがでしたか!?
今回紹介した4本の映画は、いずれも昭和という時代の空気をリアルに封じ込めた「タイムカプセル」です。どの作品も、現代の目線で見れば「ありえない」ことの連続。しかしその“ありえなさ”の中に、当時の人々が何を信じ、何に苦しみ、何を美徳としていたのかが、浮かび上がってきます。
昭和を美化するのでもなく、ただ懐かしむのでもなく、「いま」と比べることで、私たちは時代の変化と人間の本質を知ることができます。
ぜひ、昭和の日に昭和を「体感」し、思いもよらない感情に出会ってみてください!
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